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オレの親父からか、それとも自分の親父からか相当きつく言われたのだろう、スティアは入学以降オレと目も合わせないよう努めている。
嫌われたものだ。
そもそも好かれようとしてないのだから当たり前だな。その上相手は攻略対象者という重要な役所。これからの学校生活で主人公と色恋沙汰を繰り広げるってんだから、オレの出る幕などは何処にも用意されていない。
別に良いんだ。
オレの目的は生贄に選ばれる事で、守り神であるあの赤いドラゴンを倒す事なのだから。
だからもう少しフィンとの特訓を続けたかったが……仕方ない。騎士見習いが挙って参加している騎士の訓練に参加させてもらうとするか?
ただの令嬢が行った所で門前払いを受けてしまう可能性があるから、多少の変装は必要になるな。
幸いな事にオレの体は貧相なので分厚い服を着てしまえばそこら辺にいる男子生徒と大差ない。青色の長い髪はこのさいバッサリと切ってしまって良いし、瞳の色はコンタクトモドキで如何様にも。
さてと、なら早速散髪しよう。
坊主って訳にはいかないから……スティア位の長さで良いかな?セミロングと言うのだろうか?少し肩にかかるほどの長さ。それをハーフアップにしてリボンなどをあしらえば可愛らしい令嬢になるだろうし、後ろで雑に縛ってしまえば誰もオレが女子とは信じないだろう。
前世のヒキニートは散髪する為の金も惜しみ、学生時代から自分で髪を切っていた。スキバサミとか、コームとか、それっぽい道具すら揃えず、唯一持っていたキッチンバサミで。
なのでしっかりとした3面鏡とかが揃っている今、出来ない筈がない!
ジョッキリと大胆に切ってしまえば、後は形を整えるだけ。ロングだった髪をセミロングにする程度の事、難しくもなんともない。それに、失敗しようと成功しようと後ろで雑に縛るのだから多少ガタガタになっても問題はない。
うん、それなりに出来るもんだな。
よっしよし、じゃあ早速身軽な服に着替えて騎士の様子を見学しに行くとしよう。
「……ふむ」
やろうと思う事が即行動に移せる自由が凄いな……人の気配が消えてから部屋を出なければ。とか、窓から……とか、部屋に戻って来るルートとか考えなくて良いなんてさ。
気軽に部屋を出られる事が嬉しい。
ドアを開け放つ度に笑顔になってしまう程に。




