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額に冷たさを感じて目を開けてみると、見覚えのない天井が見えた。
ギルドの個室にしては清潔感があるから、宿屋か?
「……エイリーン……その、ごめん……」
少し視線を横にずらせば、心配げな表情でオレを見ているドラードがいるし、その横にはスティアとセミオンまで。
敵宣言しておきながら、その敵の前で堂々と気を失ってしまったようだ。
「はぁ……なに、話し聞けば良いのか?」
ゆっくり起き上がってみてもフラフラと眩暈がするので、寝転んだまま話だけ聞くことにしてみた。
どの道この状態じゃ逃げられない。
パァっと表情を腫れさせるドラードと、一安心といった風に息を吐くスティア。
もしこれがイベントだったとしたら……。
あぁ、そうだ、もしこれがイベントだったのなら、ドラードは朴念仁になっているのか。
ふむ……乙女ゲームの、攻略対象者によるイベントと言えばだ、カッコイイとかスマートとか恋愛イベントらしい雰囲気になるに違いない。
そうでなければヒロインであるナナとの親密度を上げられないだろうしな。
だとしたらだ、全く恋愛とはかけ離れているし、どうやっても好感度アップにはならなそうな雰囲気の中で話し合いをすれば、それは本心か?
少なくとも、この場ではそういうことじゃないか?
「それではまずはここにセミオンがいる説明を……」
「待て、話しは聞くが変なポーズをすることが条件だ」
踏み台昇降しながらとか、反復横跳びしながらとか、スクワットしながらでも良い。
とにかく、乙女ゲームのイベントっぽくない動作をしながら喋ってくれ。
「……セミオンが一緒にいる理由ですが、僕達は、催眠術について調べているんです」
そうしてスティアはY字バランスをしながら言った。
で、催眠術?
「カワさんの状態のことを調べてるのか?」
それならナナマジックだけど、そうか、ナナマジックってのはオレが勝手に名付けただけだから、他の者からしてみれば催眠術に違いない。
「始めは光属性のナナ嬢の影響かと思ったんだ。でも、ナナ嬢が近くにいない時でも可笑しくなる者がいて、俺達は何者かがナナ嬢を犯人に仕立て上げていると考えた」
と、今度はセミオンが腰に手を当てながらアキレス腱を伸ばした。
「僕達が真っ先に思い浮かべたのは、お嬢様でした」
お前らが全員満場一致でオレを犯人とした時点で可笑しいと思ってくれたら良いんだけど、まぁ、ナナマジックってのはそういうもんだな。
「ナナ嬢を守りながらお前を警戒して、そんな時にフィンがドラードに提案したんだ、核を埋め込んでお前の魔力を封じたらどうかって」
魔力を封じる!?
「え?そんなことできるのか!?」
「出来るんなら、当時の俺達なら真っ先にしてたと思うぞ?」
あぁ、確かに……いや待て、あの当時セミオンはまだナナマジックにかかってなかっただろ。
ナナの回し者じゃないことを信じて欲しいって、そう言うからセミオンに絵のモデルになって貰ったんだよ。
フェンによる岩落とし攻撃を受けて、頭が物理的に割れたのは丁度その時だ。
ナナ嬢が近くにいない時でも可笑しくなった……なるほど、ナナマジックは側にいなくてもかけることが可能だってことか。
厄介だな……。




