5
俄かには信じがたい事だが、オレは、絵を描くに当たっての人物の設定と大まかな話の流れを知っているだけのゲーム……姉が趣味の範囲で作った乙女ゲームの中についついうっかり転生してしまった。
しかし、チート的な能力もなければ何処でどんな選択肢が出るのかも、どのタイミングでフラグが立つのかもサッパリ分からない。
その上オレは、主人公に嫌がらせをする前後にしか詳しく語られる予定がない悪役令嬢。
物語が始まって主人公が登場し、初めて嫌がらせを実行する時まで一切の出番がない人物の幼少期など、どう過ごせば良いのか全く分からん。
まぁ、魔力を持っている者は強制的に魔法学校に通う事にはなるんだし、何をした所でそこは変わらない。それに現時点でオレは既に魔法をぶっ放した後という設定なのだから、悪役令嬢として魔法学校に通う未来は変わらないのだろう。
どの道生贄にされるのなら、別にシャコウカイとやらでリッパナレイジョウとやらにならなくても良い……よな?
食事の作法とか分からなくたってどうせ生贄になるんだし、令嬢として行儀良くしていてもなんの意味もない。
そんな優雅な身の振舞い方を学んでいる時間があるのなら、立派な生贄になる為の魔力磨きや、嫌がらせレベルを上げるための心理学を学び、守り神と対峙した時に守り神を退治出来るほどの剣の腕を身につけておく方が有意義というものだ。
この世界には勇者が存在しているし魔王がいる。単純に考えると剣術は勇者に、魔術を魔王に教えてもらうのが1番効率が良い。まぁ、魔王に家庭教師になってと頼めるのなら、守り神を如何にかしてと頼んだ方が早いのかも知れないが……守り神は“魔物の悪意”からも守ってやると言い生贄をとっている。
魔王と守り神は敵対しているのか?
とにかく、会って話を聞いてみない事には分からないな。
この世界は姉が作り出した乙女ゲームの中、姉の趣向から考えると魔王や勇者は1度クリアした後に攻略対象可能となる隠しキャラクターの可能性がある。
いや、よく考えてみればその可能性はかなり高いんじゃないか?
しかしオレは勇者や魔王の絵は描いていない。
けど、攻略対象でもないのにスチルがあるキャラクターなら分かる。なんといっても描いたのはオレだ!
生徒会長やら教師やら商店の店員やら庭師やら執事やら時々町で出会う謎の男やら騎士団長やら……えっと、後は誰がいたっけ?
まぁ、たくさんいる。
いやいや、それでも大量に存在するモブ達を1人1人調べるよりかは断然楽だ。
幼少期のこの時間すら無駄にしている時間は無さそうだな!
って、そうだ……オレはこの部屋から出られないんだった。




