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季節は春、馬車の窓から見える景色にはピンク色の花を咲かせた木が立っている。
オレの横にはフィンがいて、前にはスティアとスティアの親父さんがいて、前を行く馬車の中には親父の代わりに執事。
こうして目的地に着くまで無言で過ごし、ようやく辿り着いた王都。
考えてみれば実に単純な事だ。
魔法学校に行くには領地を出て王都まで行かなければならず、そこそこの長旅になってしまう。そんな長距離を通学の為に毎日移動するのは色々と無理がある。
こんな事にも気が付かなかったのは、単に俺の生きていた世界が小さかったからで……前世の感覚が抜けていなかったから。
電車や車なんて便利な乗り物、この世界にはないのだ。
だとしたら、スティアは何故この距離を毎日通えると思ってたんだ?
王都にある侯爵邸から通うつもりだったのなら「お嬢様の代わりに水遣りを」なんて発想にはならない筈だ。
聞きたいが隣に親父さんが居る状況じゃあ黙ってるのが良いか……それとも学校の仕組みがオレの思ってるのとは違うのか?
例えば月に数回しか授業がないとか、ほぼ自習だから自宅勉強でも良いとか。
いやいや、そうじゃないだろ。
今日は入学前のテスト日なんだから、入学する学生の全員が集まっている。つまり、この中に攻略対象者である第1王子やら第2王子やら騎士見習いや将来の大魔法使いやらがいて、それらと共にキャッキャウフフする主人公がいるって事だ。
どんな顔をしているのかだけでも見ておきたい。
全ての事に絶望して諦めていたエイリーンが、ここまでなんの接点もない筈の主人公に嫌がらせをするという謎現象の答えも知りたいし。
ただ、どれが主人公なのかを見極めるのは結構ハードルが高いのかも知れない。ゲームならではの、あのイベントがあればスグに分かるのだろうが……。
入学式でも良いのに、わざわざ入学前に行われる不思議な能力テストだ、きっと、かなり重要な要素を秘めたイベントになっているに違いない。
そう、オープニングだ。
オレが描いたオープニングの絵はピンクの花を咲かせた木と、攻略対象者勢揃いの影と後姿の主人公。
本当にそんなゲームっぽい事が起きるのかは分からないし、物凄くありがちな“このスチルに見覚えがっ!”みたいな事があるのかも分からない。
なにも分からないんだから、行くしかないよな!
こうしてオレは馬車を降りた瞬間にスティアの手を取り、魔法学校の正門にある大きな桜の木へと向かったのだった。




