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道具屋の店員は、どうやら「これ頂戴」とかそんな会話なしには品物を売ってくれないようだ。
だけど、オレの変装は声を変える事が出来ないから、出来るだけ喋りたくないんだよな……。
スティアとはタロウとして言葉を交わして大丈夫だったけど、次もまた大丈夫という保障はないし。
だからって、こんな会話がなければ商売しないって相手に極度の小声って手法が通じるとも思えない……なんなら、は?もっと大声で言えよ!とか威圧的に来られて目立つことになりかねない。
そこで逃げても怪しいだけだろう。
だったら、こうだ。
スキンモドキで喉元にガッツリとした傷跡を付けてからヘルムをゆっくりと脱ぎ、顔の角度を少し上に向けて店員に首を見せつつ親指で傷を示す。
どうだろう、傷が元で声が出せなくなったと思ってくれるだろうか?
「おぉっと……悪いな兄ぃちゃん……1つはおまけにしとくよ」
おぉ。
マジックポーションって意外と高いから助かったよ。
それにしても、まぁ……傷薬だけじゃなくてポーションも必要だーとか、ポーションは必要ないーとか、そんな言い合いをしているなんてさ、元気そうで安心したわ。
さてと、これ以上王都に留まって変な足が付いても駄目だし、とっとと教会に落書きして次の街に行こう。
知る限りの町や村に立ち寄って、落書きをしまくって王都に戻ってきた頃にはもう昼過ぎになっていた。
この時間ならウッカリと昼の部の攻略対象者達に会う事もないし、農具店も開いてる時間だし丁度良い。後は頼まれていたモノを買って帰って、守り神が出て来るまで待てば良い。
村に戻ったら毎日守り神の巣に行ってみて……いつ、ふいにエンディングが来ても良いようにしておこう。
まぁ、既に後悔なんてものはないんだけどさ。
そして何の返事もしないエイリーンにも後悔はないのだろう。
そりゃそうだ、本当の自由を手に入れる為には踏み潰しエンドを迎える必要があるのだから。
えっと、よりすぐりの凄い農具を買っていかないとな!
とはいっても、農業の知識がないんだから何が良いのか分からないんだよな。
オレからしてみればバランスの悪い道具でも、農業においては良い道具かも知れないし?だからって素直に店の人に聞いても足元見られそうだし……。
よし、売っている全ての物の中で中間位の値段の物を買うとするかな?変な装飾がなくて高い物なら、それはつまりいい道具って事だよな?装飾が凄いと装飾にかかった値段だろうし。
買い物を終え、荷物を担ぎ上げたその重量に少々うんざりしつつ飛び上がって帰路に着こうとしたところで、後ろから声をかけられた。
「ちょっと良いか?」
振り返ればクロさんがいて、見た事もないような真剣な表情で立っている。
少し緊張はするけど、地面に降り経ってからコクンと頷いてみた。
「あんた知り合いにちょっと雰囲気?が似ててさ……悪いんだけど、顔見せてくれないか?」
知り合いって……もしかしてキヨタカ?
え?オレってなんか独特な雰囲気持ってんのかな?
まぁ、顔を見せる位いいですけどね。
ヘルムを取りながら喉元につけた傷跡を親指で差してみれば、真剣だった表情がパッとオレから反れていった。
どうやら気まずいようだ。
「……呼び止めて悪かったな」
あれ、もう良いの?
この世界には変装した相手を見破れないって設定でもあるのだろうか?




