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オレは、使用人によって薄っすらと茶色い汚れが付いてしまったこのドレスで1つのカケをしていた。
この家の令嬢として振舞えと執事が高圧的に言ってきたのだから、オレは侯爵家令嬢として外部の人間に与えるだろう印象を考えて本当にそれっぽく、大人しく振舞うつもりでいたんだ。
だからこそドレスが汚されても侯爵家令嬢として恥ずかしくない態度をとるべきだと強気に出た。
もしここで着替えが用意されたのなら、当初の予定通り大人しく従っておこうと思ったのだ。
嘘じゃないぞ?本当にそう思ってたんだ。
まさか、無視されるとはね。
え?ドレスに結構目立つ汚れ付いちゃってますけど?
侯爵家令嬢のドレスが汚れ物ですけど?
これで正解なのか?
オレに使う金なんか少しもないって態度が凄いな!それはそれで良いけどさ、それなら姉妹の誰かから古着を借りるとかあるだろ?
え?そんな労力も使いたくらっしゃらない?
らっしゃらないのかー。
さてと。
これでも尚令嬢らしくあらねばならない。
あの執事の為でも、親父の為でも、こんな家の為でもなく、フィンの為に。
なぁに、ドレスに一点だけ汚れが付いてるだけなんだから座っている分には問題ないし、ひざ掛けをすれば汚れ自体を隠せてしまう。
立ち上がる必要を迫られた所で汚れは一点で、オレはまだ十分子供と言って良い年齢。
休憩の時に飲んでいた紅茶をこぼしてしまいましたの。で完璧に誤魔化せる!
なんなら、こういうデザインのドレスですのよ?と言う顔をして見せるさ!
コンコン。
来た。
用意されていた椅子にピシッと背筋を伸ばして座ってから頷くと、フィンがドアを開け、そして、
「あら?」
妙に軽い声が聞こえた。
知り合いでも来たかのような声に気になって振り返ってみると、そこにはなにやらコップと布巾を持ったスティアが立っていた。




