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家庭教師が来ると言うので、オレは日課である水遣りを終えた後人生初のちゃんとしたドレスに着替えていた。
前世からのイメージでコルセットをギリギリと巻き付けられて非常に苦しい思いをすると覚悟していたのだが、実際にはそこまで苦しく締め上げられる事はなかった。
それでも上半身がかなり動かし辛く、屈む動作に制限が出る。それは逆に言えば視線を真っ直ぐに保つには良いのだろう。
ガチャン。
鉄製のドアが開き、廊下に立っているのは家庭教師……ではなく昨日の上から目線男だった。
執事とか、なんかその辺だろう。
「お部屋をご用意いたしました。こちらへ」
ふむ。
家庭教師を迎えるにあたって、鍵付きの部屋に案内する訳にもいかなかったのか。
そこで鍵を外そう、ではなく家庭教師を迎えるに相応しい部屋を用意しようとなる発想が流石だわ。
鍵のかかっていない部屋のドアを開けると、中では今まさに室内を彩る為の花が用意されている所だった。
しかしその作業をしているのはスティア少年ではなく、花を抱えている大人の庭師と花瓶に花を生けている使用人の2人。
こんなギリギリまで作業をしていたという雰囲気ではなく、かなり急いで準備をさせられている感じだな。
粗方、オレが使う部屋だからって適当にしてたが、家庭教師の先生もいる事に気が付いて慌てて用意を始めた。と、こんな所だろう。
作業を終えた庭師は一応オレにも頭を下げて出て行ったが、花を生けていた使用人はわざわざオレの隣に来てから水で濡れた手を振って少しばかりのドロ入りの水しぶきを撒き散らし、執事にだけ頭を下げて出て行った。
新しいドレスに早速汚れが付いてしまったな……。
オレがもしエイリーンのままだったのなら、泣いていたかも知れない。
「エイリーン様……」
汚れた箇所をハンカチで拭ってくれていたフィンから情けない声が聞こえてくる。
ちゃんと屈めないからフィンの表情を確認出来ないが、恐らくは汚れが落ちなくて焦っているのだろう。
「汚れの付いたドレスがここの令嬢らしい格好なのだとよ。気にするなですわよっ」
屋敷外の人間に接する時はこんなオレでもこの家の顔となる。
だからさ、そのオレのドレスを故意に汚した使用人はとんだ無礼者になると思うんだけど、執事さんはその辺どう思うよ?




