15
オレは気を失っていた。
呼吸が辛くて意識が保てなくなって、それで確実に気を失い……この世界に来て多分初めて死を覚悟した。
けど、ズキズキとした鋭い痛みに意識を引き戻され、彼方此方痛む体を起こしながら目を開けると、そこは平原の入り口から少し離れた街道の傍だった。
ヘビ退治の為に平原を訪れたのはまだ午前中だったにもかかわらず、見上げた空には星が輝いている。
「……」
足を見るのが怖い。
それでもズキズキと痛んでいるのだから神経毒は抜けたのだとは思う。毒耐性の勝利だ。
だけど、やっぱり嫌な予感がするから足は見たくない。
いや、早く見て手当てしないと駄目なんだって……そうだろ?
だってこれはオレの体じゃなくて、エイリーンの体なんだから。
意を決して視線を向けた先に見えたのは、予想していたよりも酷い惨状……今が夜で良かったとしか思えない状況だった。
流石に足がなくなってるとか、噛まれた幹部が壊死してるとかではないけど、それに近い状況というのか……。
人の体、しかも女の子の体に、オレはなんてひどい事をしてしまったのだろう。
毒を抜くためだったとはいえナイフの傷をこんなにも深々と……足の甲にある傷は特にひどく、足の指の方にある傷は更に酷く。
そして目覚めたのは気を失った場所。
もし倒れたのがヒロインであるナナだったなら、きっと誰かがスグに発見して目覚めはフカフカした病院のベッドの上で、手当て済みの包帯で巻かれた自分の体を見ていただろう。
こんなさ、生々しい患部を直接見るって事にはなってない筈だ。
「ゴメンな……」
エイリーンに対して、誰よりも酷い仕打ちをしているのはオレなんじゃないか……そう思うと自分が情けなくて、許せなくて。だけどその苛立ちを地面を殴って晴らそうとしても、その拳はエイリーンな訳で。
ストーリー通り進むのが、1番平和なんじゃないのか?
そりゃ確かに守り神による踏みつぶしエンドなんだろうけど、少なくともそれを選べば2年半は平穏に暮らせるんだ。こんな街道沿いで気を失う経験なんか、しなくて済む。
だけど、だけどさ……オレは楽しかったんだ。
冒険者としてレベルを上げて、守り神を倒してやるんだ!って目標の為に動いて、ランクを上げようとして……本当に楽しかったんだよ。
ストーリーが終わってエンディングが終われば元の世界に戻れるかも、とか考えておきながら、ここに残るエイリーンの事は考えてなかった。
令嬢だぞ?
体に傷なんかつけて良い訳がなかったんだ。
こうしちゃいられない、早く街に戻って……ドラードに会って回復してもらわなきゃならない。出来るだけ傷が残らないように。
オレは足に負担をかけないようにと傷を覆うように布を巻き付け、出来るだけソッと立ち上がると風魔法で飛び上がって街に戻った。
「キヨタカ!」
ギルドの前まで飛んで行けば、そこにはエイリーンを心配しているドーラに扮したドラードと、クルスに扮したスティアが待ってくれていた。




