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夕食後、金属製のドアになってから初めて鍵の開く音が聞こえ、特にノックもなく行き成りドアが開いたかと思ったら何人かの使用人が大きな荷物を持って入ってきた。
使用人達が抱えて持ってきたのは令嬢ならば普通に持っているのであろうドレスや化粧道具で、次々とクローゼットの中に入れ込んで出て行くと、今度はピシッとした服装の男が入って来た。
「明日より家庭教師の先生がこられます。侯爵家令嬢らしい振る舞いをされますよう」
と、なんだか物凄い上から目線で意味不明な事を言いながら。
魔法学校に行くからというので急ピッチに作法を学ばせようとしたんだな?で、作法を学ばせる事になったから急ピッチでドレスと化粧品を用意した、と。
本気で効率の悪い事を……。
散々オレをサルだのと言っておきながら、今更令嬢らしくしろって?それだけ自分達の都合の良い事しか考えないなんて、寧ろ凄いな。
「……分かりましたわ」
そう返事をしてやると満足そうに鼻で笑った男は、フィンに手帳を手渡した後、特に挨拶もなく出て行くと丁寧に鍵をかけていってしまった。
それにしても……明日からの予定を、しかも結構重要な事柄だってのに、それでも親父は直接ここへは来ないんだな。
別に良いけどさ。
「エイリーン様、明日からは忙しくなりますよ」
受け取った手帳をペラペラと眺めたフィンは、うわ~と顔を顰めているが、オレはそれとは別の部分が心配になってしまい、クローゼットを開け、そこにかかっているドレスを取り出して鏡の前で宛がってみた。
うんうん、どれもこれも貧相なオレの体には全く似合っていない華やかなドレスだ。
似合わない服ほど滑稽な物はないと思うのだが、果たして侯爵令嬢らしいとはどういう事なのか。
ドレス姿ではあるが滑稽な姿である事と、自分にピッタリに合うが質素な姿である事。立ち振る舞いさえ堂々としていれば着ている物などただの布じゃないのか?
今となっては最早前世のヒキニートの感覚しか持ち合わせていないからこんな風に思うのだろうな。
「どれを着たら良いと思う?」
ならばドレスの事はフィンに任せてみよう。
パタンと手帳を閉じたフィンは、クローゼットの前に立つと素振りをしている時よりも鋭い視線をドレスに向け、まるで武器を手に取るような鬼気迫る雰囲気で装飾品がまとめて入れられている箱を手にして開けると、今度は刺客を警戒するような迫力で小物とドレスを見比べ始めた。
命が惜しければ、今話しかけるべきではないな。




