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庭に向かって大きく手を振っていると、他の部屋の窓に何人かの人影が現れてコチラの様子を窺っているのが見えた。
恐らくは兄弟姉妹やその母親達なのだろうが、オレに対して良い感情は持っていないのだろう、皆顔が厳しい。
このまま庭師見習いの少年に話しかけたら、庭師見習い少年に対するあたりもきつくなりそうだ。とはいっても花に水をやりたいのだから断りを入れなければならない。許せ、庭師少年……。
「お嬢様……あの、これは一体……」
へぇ。
この屋敷内にオレをサルではなく、お嬢様と認識している使用人がいるとは驚きだ。なら話は早い。
「今、水が降り注いだ辺りの水遣りは毎朝オレがするけど、良いか?ですわよっ」
実際どの辺りまで水が届いたのかは分からないが、毎日同じ魔力で同じ技を出せば誤差の範囲だろう。
「……あ、あの。これから毎日、ですか?」
都合が悪いのだろうか?
「そのつもりだが?昼間の水遣りが駄目だってのは知ってるでござりますわよっ」
「あ、いえ……。失礼いたしました」
何か言いたそうにした庭師少年だが、周囲から注がれている視線に気がついたのだろう、急に小声になって俯いてしまい、あちらこちらにお辞儀をした後走り去ってしまった。
少し可哀想な事をしてしまったかも知れない……今度からは出来るだけ話しかけないようにしないと……いやいや、待て待て!
確かにオレは疎まれている人物なのかも知れないけど、将来は生贄になってこの家に潤いを与える人間だぞ?もーちょっと良い暮らしをさせろ。とまでは言わないが、オレが話しかけたってだけで庭師少年を鬼のような形相で睨むのは可笑しいだろ。
そもそも、親父に似てないってだけで何故“魔物の子かも知れない”なんだよ!じゃあ親父は魔物とそういう関係になった事が1度でもあるのか?って話になるだろ。あったとしても、魔物が身ごもってその出産を見届けて、生まれた子供の姿を見て魔物の子かも知れない?いやいや、母体が魔物なら魔物の子だよ!なんだよ“かも知れない”って!それにだ、母親がハッキリと分かっていないのも可笑しい。
捨て子だったけど魔力が高いから拾われた?
母親が誰なのかを問われると面倒だから“魔物の子かも知れない”って事にした。とか?
オレの赤い瞳は人間にとっては非常に珍しい色だから、余計に“魔物だ”と言い易かったのだろう。
まぁ、兄弟姉妹やその母親達からはサル呼ばわりだったけどな。
ならオレをお嬢様と呼んだあの庭師少年は相当レアだな……フィンの次くらいに。




