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バタ足で近付いてみると、人工物の周囲にだけ水がない事に気が付いた。
十分な空間があるからなのか何なのか、酸素量も問題なさそうなんだけど……どういう原理?
まぁ、ここは姉の作った乙女ゲームの中なんだから、難しい事は考えなくても良いか。どうせ答えなんて「不思議な現象」で説明おしまいなんだろうし。
「カワさん、ここはなんですか?クロさんは?」
恐らく生存者だと思われる3人が明らかにオレを警戒するもんだから、話しかけて仲間だと示してみた。
「あぁ……とんでもないモンに当たったからな、クロにはギルドへの報告を頼んだ」
とんでもないモンと言いながら親指で横を指すカワさん。その先には人工物があるだけで、他に可笑しなものは見当たらない。
形が可笑しいのかと思ってはみたが、単なる台座にしか見えないし……モニター台にも見えなくはないか。ん?何か書いてる。
ヒョイと近付いて文字を眺めてみれば、非常に懐かしい文字列が目にとびこんできた。
「古代文字だ。解読できる学者もいないんだと」
古代文字ぃ!?学者ですら解読できないと!?
え……まぁ、物凄く偉い学者さんですら解読出来ない古代文字が「焼き肉食イタイ……」とは誰も思うまい……って、なんで焼き肉?
あ、でも焼き肉って見たら食べたくなってきたな……。
「この台座の上には、不思議な形のメガネが安置されていました」
不思議な形?
「んで?そのメガネは何処にあるんだ?」
こんな不思議な空間の中にあるアイテムなんだ、きっと特別な意味があるに……いや、その台座に書かれている古代文字は”焼き肉食いたい”って物凄くどうでもいい事なんだけど。
「我々では管理できそうにないので、ギルドで保管してくれるようクロさんに頼みました」
元はここにあったんだから、ここで管理するのが良さそうなもんだけど、まぁ、この屋敷はチンパンゴブリンの巣みたいになってたし、復旧にも時間がかかるんだろうし……3人だけじゃ、確かに大変だろう。
いやいや、当主が外にいるんじゃんか。
普通ならこういう時、当主であるあの依頼主がここでメガネを守ってるもんだろ?もしくは、家宝?みたいなもんなんだろうから、中庭にある池まで護衛してくれーとかさ、そういう追加依頼が依頼主からあってしかるべきなんじゃないのか?
屋敷に4階がある事も知らなそうだったし、あの依頼主、ますます怪しいな。




