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姉の作った乙女ゲームの中に転生してしまったオレは、悪役令嬢エイリーンとして魔法学校に入学するべく、日々の勉強に勤しんでいる。
閉じ込められている自室内には、魔術の家庭教師も、令嬢らしい作法を身につけるための家庭教師も訪れない代わり、四六時中剣術の先生がいる。
名前はフィン。
オレ専属の侍女……だった筈。
実際に魔法学校へ入学出来るのかは半信半疑ではあるが、庭でお茶会が開かれている時に風の魔法を使って3階の自室まで飛んで目撃させた。
親父の子である令嬢が開いたお茶会だ、来る令嬢達もそれなりに身分が高い者達だろうし、恐らくはお付の人間もいた筈。
そうなれば親父が口止めをした所で……なんだけど、いかんせん親父は子沢山。
風魔法を使った令嬢がいた。と理解されても、それがオレである所まで辿り付いてくれるかどうか……。
もう1度派手に魔法を使って外にアピールする必要はありそうだな。
魔法が使える者は必ず魔法学校に行かなければならない。という事は、魔法が使えるにも拘わらず魔法学校に行っていないのは罪になる。
爵位のある親父だ、罪人を身内から出すのは致命的。爵位の剥奪や領地没収される可能性もある、と思う。
なので魔法学校に通えなかった場合、窓から外に出られる今の状態で過ごせる筈もなく地下牢に……あ、違うわ。
守り神は年に1度魔力の高い者を生贄に取る。
親父が生贄家族へ与えられる褒美を受け取るには、オレを生贄に相応しい魔力の持ち主として王都の連中に認知させなければならない。だから、嫌だろうがなんだろうが魔法学校には入学できるんだ。
んじゃあ別にアピールしなくても良いか?いや、念には念を入れないとな。
なら今日から毎朝庭の水遣りはオレがするとしよう。つまりは、今からだ!
大きく窓を開けて両手を庭に向けてかざし、水の魔法と風の魔法を同時に発動させ、庭に小雨を降らせた。
「え?え?」
庭から聞こえてくるのは、花の様子を見ていた庭師見習いの少年の声。
そうだ、水遣りをするんだから庭師に断りを入れないと駄目だな。
「おはよー!聞こえるか?上だよ上―ですわよっ」
窓から見を乗り出して下に向かって手を振る俺に、隣にいたフィンは、
「エイリーン様。今の場合は“上ですわ”でよろしいかと思います」
と、素早く言葉の修正をしてきた。




