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朝起きてから朝食が届くまでは柔軟とか準備運動をして、何かの鉱物を細長く加工した剣モドキで素振りをする。
本当なら木刀とかが望ましいのだろうが、オレが使える魔法は水、火、風、地なので木の出し方が良く分からなかった。だから固い土をイメージして現れた鉱物を剣の形にした物を使用している。
これは木刀よりもかなり重たい。
始めは1回振り下ろす度に剣の重さに負けてバランスを崩し、床にドスンと剣先が落ちてしまっていたが、今ではなんとか剣に振り回されずに素振りをする事が出来ている。
とは言ってもオレはまだ小学生程の年齢なのだからフィンが5回素振りをする間に1回ブンッと振り上げて振り下ろすのがやっとではある。
朝食が終わったら2時間魔術の勉強をしながら消化を待ち、その後はまた準備運動から始めて素振りに入る。
昼食が終わればまた2時間魔術の勉強をして、準備運動からの素振り。
夕飯が終わればまた2時間魔術の勉強からの準備運動と素振りだ。
そして起きてから寝るまでの間は口頭でのマナー講座とお嬢様語の特訓。
「不安な時は喋らず、優雅に微笑んでください。動作は優雅にゆっくり!」
優雅にゆっくりと言いながら素早く素振りをこなすフィンは、多分物凄く器用な人間だと思う。
「微笑めば良いんだな……ですの?」
今まで殆ど表情筋を使っていないエイリーンの微笑みは、妙にぎこちなくて不気味だ。口をニヤリとした所で頬から上が動かないから、意識して目を細めてみたって実に恐ろしげな顔面になるだけである。
「エイリーン様にお嬢様らしい言い回しは難易度が高いと思いますので、笑顔の練習をいたしましょう」
素振りをしながらだと、フィンは結構ズバッと物を言う。
遠回しに言われても良く分からないから、ストレートに言ってくれて助かってはいるんだけどさ。
「ハンカチで口元隠して、ホホホとか言ってけば良いんじゃないのか?でござるわよっ」
この間庭に行った時、兄弟姉妹の母親と思われる人間数名がハンカチで口元を隠してたし、そんな可笑しな仕草ではない筈だ。それに、豪快に笑うよりも隠した方がきっとお淑やかな印象だと思うし。
「それは本気でおっしゃって?」
なんか、駄目っぽいな。
まぁ、なんにしたって魔法学校入学までもう少し時間がある。その間は俺も、フィンもこの部屋からは出してもらえないんだろうから、勉強の邪魔をするものは何もない。
欲を言えば魔法学を教えてくれるような家庭教師が欲しいが……剣術の先生が隣にいるんだからよしとするか。
「師匠!稽古をお願いしますってことよっ!」
今日もフィンの注意と苦笑いは止まらない。
これにて「侍女と仲良くなったよ!」という内容の第1章完結です。
第2章はゴールデンウィークが終わった後から書き出そうと思っておりますので少し間が開いてしまいますが、第2章もお付き合い頂けると嬉しいでござりますってことよっ!




