11
1番引っかかっていた攻撃がフィンによるものだと知った所で、それを鵜呑みにせずに可能性として捉え、話しを次に進める。
それはもちろん今後の事。しかもセミオンのように途中でナナ側に戻れる事もないし、ドラードのようにナナ側に戻れる選択肢が残る訳でもなく、確実に道連れにしてしまう選択を迫ろうとしているのだ。
「領地に戻るのは2日後でしたわね?」
「はい」
今後の人生をかけた選択を2日間でしろと言うのはあまりにも酷だし、夏季休暇中としておこうかな。
「私と共に来れば、もう二度とプラガット家に足を踏み入れる事は出来ません。そしてスティアの名を捨て、偽名を使い、別人として生きなければなりません。冒険者として転々とし、常に命の危険に晒されるでしょう。もう1度言います。私を選べば二度とナナの所へは戻れません。それでは、夏季休暇の間に答えを見つけてくださいませ」
もっとオレを選べば昼の部との決別だって強調して伝えた方が良かったかな?途中で嫌になっても戻れないって事ももっと明確に言った方が良いか?守り神を倒すって言えたら楽なんだろうけど、まだ味方でもない人間に最終的な目的を言う訳にも行かないし。あ、でもオレが守り神との戦いに敗れたら帰る場所も行く場所もなくなるのか……。
「答えはもう出ています。覚悟もあります。どうかお嬢様の従者にして下さい」
じゅ、従者!?
「いや、もっとちゃんと考えてくれよ。平和な暮らしは見込めないって事だぞ?」
庭師を目指す事だって難しくなるんだぞ?
「お嬢様?俺が平和に暮らしていると?」
そう言いながらスティアはドレスを肩からズラして背中を見せ付けてくる。なんかそのポーズ、前世で見た時代劇の御奉行様みたいで格好良いな。
しかしだ、ただの人間のオッサンによる虐待と、魔物の攻撃とでは命の危険レベルが雲泥の差だ。
精神ダメージを思うと、確かに今の方が辛そうだけど……。
まぁ、そこまで言うのならスティアの選択を尊重しようじゃないか。従者って所は撤回してもらうが。
「今から少し出かけてくるから、その間に偽名を考えておきなさい。念の為部屋からは出ないように」
こうして部屋を出たオレは、悪役令嬢になるべく帰省準備に慌しいプラガット侯爵邸に1人で向かったのだった。




