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大破したドアの修理は恐ろしくも素早く始まり、そして以前よりも強固なドアが取り付けられた。
今度は金属製で、牢屋感を隠そうともしない物で、当然のように鍵はフィンには渡されなかった。その代わり……。
「エイリーン様、朝の素振りのお時間ですよ!」
たった1人で閉じ込められていた状況が2人になった。
フィンからしてみれば大惨事なのだろうが、オレにとっては良い事尽くし!
1つは、1人きりじゃなくなった事。
2つは、食事の質が格段に上がった事。
フィンが食事を運んで来ない時は他の使用人が運んで来ていた訳なのだが、1日2食の時もあったし、普通に忘れられる時もあったし、確実に誰かの食べ残しだろって時まであった。
明らかに賞味期限が切れているだろう怪しい臭いの物まで。
しかし、フィンに対しては仲間意識が強くあるらしく、朝昼晩と暖かい食事が運ばれてくる。そして、1人分だけ残飯にしてしまえば侍女であるフィンが残飯を食べる羽目になる。と思ったのだろう、ちゃんとした食事が2人分、朝昼晩と届くのだ!
3つは、そんなフィンに同情している使用人達から雑貨や生活用品が差し入れられる事。
この部屋には鏡はあっても化粧品の類なんてのはなかったし、櫛すらなかった。それがフィンへの差し入れとしてドンドコドアの小窓から入ってくる。
この屋敷の令嬢である筈のオレより、使用人達の方が余程良い生活をしているらしいな。まぁ、自由に外へ出られるんだから、素晴らしい生活を送っている事だろう。
食べる物にも不自由はしてないんだろうし?腐った物を空腹に負けて食べて腹を下す。なんて経験もないんだろうし?本当にどうしようもなくなって助けを求めても、サルが五月蝿い!と怒鳴られる事もなかったのだろうしな。
考えれば考えるほどエイリーンという令嬢は不憫だった……。
あぁ、うん。過去形ですよ?
ヒキニートな前世の記憶を取り戻した事で、この軟禁生活は結構普通の状態だと思えるようになったのだ。
食う物がなければ水だけで凌いでいたヒキニートは、戸棚から缶詰なんかが出てきた日には、怪しかろうがなんだろうが躊躇う事無く食べていた。だから、ちょっと傷んで臭いが可笑しいかも?な食事など、至って普通の食事と変わらない。
「っし、素振り始めるか!」
「エイリーン様?素振りを始めますわよ。です!」
え、あ、はい。
お嬢様語を使えっていう注意なのは分かるんだけど、素振りを始めますって宣言するのはお嬢様としては不正解ではなかろうか……。




