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庭の中央で、最も会いたいと思う者の名を叫ぶ。
バカ。と、多少の悪口を添えて。
いくつかの窓からこちらを見ている目があるが、それは多分使用人だけではなくて兄弟姉妹の目もあるのだろう。けど、なんの接点もなく過ごしたオレにはどれが使用人でどれが兄弟姉妹なのかの区別なんかサッパリだ。
嫌悪感剥き出しの目を向けてハンカチで口元を覆っているのは兄弟姉妹の母親ではあるのだろうが、親父の姿は今の所ない。
「何故このような所に?部屋に戻りなさい」
とかなんとか言いながら近付いてくる使用人達は、オレが自分の部屋に閉じ込められている事は知っているようで、自宅の庭にいるオレに対して不思議がっている。
閉じ込められている事を知っておきながら、何年もの間放置していたのだ。
「……あー……そうだった」
鍵を渡す前のフィンも、同じだったじゃないか。
親父に逆らわず、閉じ込められているオレの事など……。
前世の記憶を取り戻して今生の事が少し疎かになっていたけど、エイリーンはもうとっくに絶望していたじゃないか。
「なぁに?庭にサルなんていたかしら?お茶会の最中ですのよ?」
1人の令嬢が近付いてきて、かなり不快そうな視線をオレに向けながら煽ってきた。
そう年齢の変わらなそうなバラ色の頬の、健康的で可愛らしい令嬢は、間違いなくオレの姉か妹なのだろうが、身に付けているのはキラキラとした刺繍が沢山施されているフワッとしたドレス。そんな立派なドレスを着ているにも拘らず、裾が汚れるのも気にせずにズンズンと歩いてくるのだ。
たったそれだけで分かる事は、オレが着ている服よりもかなり……随分と立派なあのドレスが普段着で、他にも沢山のドレスがあるんだろうなって。もしあれが一張羅なのなら、少し位は裾を気にするだろう。
オレはもう、何日も同じ服を着てるってのにな。
ドレスですらないんだ。
同じ兄弟姉妹だってのに、この違い。少し位は文句を口に手も良いかな?いいや、それすら諦めていたオレにはこの庭という場所すら眩し過ぎる。
「どなたかこのサルを檻の中に戻してくださる?」
オレとそんなに歳も変わらない少女がそんな言葉を口にするのは、周りの大人達が皆そう言っているからだろう。
この少女が当たり前のようにそう言うのは、この屋敷においては常識だからだ。




