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朝、清々しい顔で挨拶などをしてくる気さくなセミオン殿下には申し上げにくい事に、ドラードの冒険者破棄の手続きはまだである事を報告しなければならない。
そして更にそのドラードからはオレがまだ冒険者である事の報告がされるだろう。
だから挨拶位は優雅で、笑顔で済ませようかと思った矢先、
「見てみろ」
ドラードが2人分のキープレートをセミオンに提出してしまった。
オレ達の様子が可笑しい事に即効気が付いたのだろう、訝しげな表情でキープレートに魔力を流し込んだセミオンは次の瞬間、とんでもない人相の悪さでオレを見てきた。
「冒険者だぁ?」
朝早く、まだ登校している生徒が少ないとはいえ、貴族の坊ちゃん壌ちゃんの集まる教室内でその表情と言葉使いは少々問題があるんじゃないだろうか?
まぁ……原因はオレにあるんだけれども。
ここで放課後に説明するとか、昼休みに説明するとか言っても無駄なんだろうから、手早く説明してしまおう。
「私は強くなりたいのです。それなのに朝の訓練も昼休みの走り込みも出来ません。なら学校の外に出て体を鍛えるしかないと思いますの」
朝の訓練中にまたスティアからの岩攻撃があるかも知れないし、昼休みの走り込み中に襲撃に遭うかも知れない。だったらセミオンかドラードも一緒に訓練をすれば良いのかも知れないが、ナナの味方は思った以上に多くて強い。そして目撃情報は全く当てにならない事はセミオンだって知っている筈だ。
「何故そこまで強さに拘る?お前は十分に強いだろう」
あ、そうだ。ドラードにはまだ説明してなかったんだっけ。そしてセミオンにも微妙に嘘を言っているんだっけか。
この際だから本当の事を2人に告げ……るのはまだ早いな。
セミオンは王族なんだから、何がどう転んだ所で王様の味方。そこへ国を守っている守り神を退治したい。なんて言ったら、いくら友達であろうとも逆賊扱いは必至だろう。
だったら単に生贄に選ばれたいだけの変わり者だと思われている方が平和だ。
「守り神の生贄になりたいからですわ。生贄はその年に魔法学校を卒業する生徒の中から選ばれるそうなのです。魔力の高い者が選ばれる……私達の中ではドラードかしら?光属性のナナさん?そんな強者を差し置いて、私が選ばれるには強くなるしかありませんもの。そりゃ躍起にもなりますわ」
酷いな、この説明の半分は嘘だ。
居心地はすこぶる悪いけど、生き残る為には必要な嘘でもあるよな?守り神に挑んで負けて死ぬならまだしも、逆賊扱いされて捉えられて処刑されるなんてゴメンだ。
踏み潰されエンドを回避した後、守り神という後ろ盾をなくした連中がどうなるのかも、見てみたいのだから。




