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一昨日からフィンが部屋に来ていない。
オレの食事も全く知らない人間がドアの下にある小窓から無言で差し出してくるだけ。
そうなったのは親父のせいだ。
親父は相当オレが気に入らないらしく、時々こうしてフィンにオレの世話をさせない期間を設ける。代わりにやってくる使用人は軒並み“人間の食事”を知らないのか、それとも単なる命令なのか、まともな食事を用意しない。
オレの専属だって自分でフィンを任命したくせに……そんな事をする理由なんて、嫌がらせだとしか説明が付かない。
まぁ、今はフィンの事を考えるのが先。
可笑しな連中が親父に“合鍵を使って部屋に入っているようだ”などと告げ口なんてしていたら大変だからな。
折角微妙に仲良くなってきたのに、ここでまた距離を置かれるのは嫌だし、1日に1分でも良いから顔を見たいじゃないか。
家出をするには金と力が要るから大人しくするしかなかったんだけどさ、どうして専属の侍女であるフィンにすら会えない日を設けられる必要があるんだ?
青髪赤目ってだけで、何故ここまでされなければならない?
よし、行こう!
帽子を被り、両手で顔を覆う。
イメージするのはブラウン系のカラコン。
材質なんてのは分からないけど、明確なイメージがあれば再現出来るほどには魔力の性能は上がっている。それでも髪の色をどうにかする事は出来ていない。恐らくは明確なイメージがないからだろう。
こうして帽子とカラコンで変装をして、窓から庭に飛び降りたまでは良かったのだが、庭の中を1周して気が付いた、
親父の部屋って何処だっけ?
オレの世界は自分の部屋とこの庭だけ。
他に何人もの兄弟姉妹がいる事は知っているが、どんな顔をしているのかも知らないし、詳しい人数すら分からない。執事とかもいたりするのだろうが会った事がない。
親父とまともに話したのはいつだったっけ?
まともに話した事はあっただろうか?
なんでも良いや。
ここは少し頭を使って……あぁ、そうだ。
帽子を脱ぎ捨て、魔力で出現させたカラコンを解除し、オレは庭の中央まで移動すると大きく息を吸い込み、
「フィンのばかぁ~~~!!!」
声の限り叫んだ。




