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本を読みながら優雅に……本当ならここでは令嬢らしく紅茶にクッキーとかになるのだろうが、レモン水を飲む。
令嬢の休憩といえば定番は紅茶とクッキーやケーキだろう。お茶会なるイベントにおいてもクッキーやらケーキと共に紅茶が飲まれる筈だ。
貴族の嗜みとか?なんかそんな感じみたいに紅茶、紅茶、紅茶だ。
紅茶は嫌いでも好きでもないのだが、休憩のたびにフィンが紅茶と共にお菓子を持って来るものだから、流石に胸焼けしてしまい、ついには紅茶と甘い物はもう見たくないレベルにまでなってしまったのだ。
これでも色々考えたんだよ。
だけど……紅茶とお菓子。と頭の中で思うだけで口に甘みが広がり、気分が……。
なので、レモン水!
ハチミツや砂糖なども入っていない、水に数滴レモン汁垂らしただけの、冷えた水!
うん、サッパリ!
まぁね、それもこれもシャコウカイとやらには一切縁のない、ヒキコモリお嬢様だから許されている愚行なのだろうが。
オレの目標はリッパナレイジョウになる事ではないし、位の高い男と婚約してこの家に安泰を齎す事でもない。
むしろのその逆。
魔法学校に通うようになっても全くマナーも知らない、食事も自作の箸で取るような、貴族からすれば庶民よりも酷い野生児?となり、親父の顔に泥を塗りたくってやるのだ。
それも最終的な目標ではないのだが。
なので、その為にはまずフィンを説得しなければならない。
「最近作法の本ばかりで面白くないなぁー。もっと魔法書とか、剣術の本とか読みたいなぁーですわよっ」
パタンと本を閉じ、頬杖をしながら言ってみれば大きな溜息が聞えてきた。
「いけません。エイリーン様を一人前にする事が私の使命なのです」
親父からの命令なら、それこそダンスの先生とかが引っ切り無しに部屋を訪ねて来る事になるだろうから、これはフィンが個人的に感じている使命なのだろう。
合鍵を作り、こうして毎日顔を合わせて話すようになった事で多少なりとも仲良くなれたのだろうな。そうでなれければこんな言葉なんか出て来なかった筈だ。
「一人前にするのが目的なら、立派な魔術師でも剣士でも良いと思うんだけどなぁーですことよっ」
この赤い瞳では良い所に嫁ぐ事は出来ないのだろうし、下手をすれば魔法学校を卒業した後はまたこの部屋の中……ではないな、生贄になるんだった。
なら立派な、一人前の生贄になれば良いのか?って、とんだ自虐だよ。




