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もう誰も信じられないわ。
いや、元々誰も信じてないんだけど、それでもその人物に対するイメージとかってあるだろ?
例えば、オレは確実についさっきまでスティアは優しい少年だって信じてたんだ。
アフィオで言うと、思い込みの激しさがある。ドラードは朴念仁。ノータスは脳筋……あれ?これただの悪口だな。
とにかく、そういう概念?から覆るくらいの勢いで誰も信じられなくなった。
だからナナの、生理的に嫌いというハッキリとした宣言はかなり有難いのかも知れない。
なら、ここで俺がとるべき行動はナナからの回復魔法の施しを自ら拒否する事だろう。幸い始めの頃に比べると痛みもマシにはなっているし、後は自分の部屋で自然回復を待つとしよう。
ガツンガツンと激痛が駆け抜ける頭に気合を入れて目を開ければ、セミオンの顔が視界いっぱいに入ってきて、どうして今まで何も話さずにいたのか、何故誰もセミオンに話しかけなかったのか、その理由を知った。
泣いてたんだな、目も、鼻も赤いわ。
「エイリーン……良かっ……生きてる……」
勝手に殺すな。
「ご無事で……良かった……」
いや、なんで攻撃したお前が安堵してんだよ。
「……エイリーンさん。気分は、如何です?」
そして硬い表情と声のまま、起きやがったわ。との本音が見え隠れしているフィン。
気分は、だって?そんなもん最悪に決まってるだろ?
「私は部屋に戻りますわ。皆様ごきげんよう」
ベッドから起き上がっただけで、令嬢が中々流さないだろう箇所からツツーっと血が垂れた。それを掌で受け止め、鼻を摘んで止血を試みながら立ち上がる。
フラリ、ではなくグラリとバランスが崩れて片膝を付くような格好になりつつ転倒する事は耐え、再びゆっくりと立ち上がれば、異様なモノを見るような顔で皆がオレを見るから、挨拶もせずに廊下に出た。
回復を保険医に頼まれていた筈のナナも、心配そうに回復を促していたスティアも、オレの具合を尋ねてきたフィンも廊下に出て来る事はなく、ただ1人、セミオンだけが鼻血で汚れてしまう事も気にせず、寮の部屋までおぶって送り届けてくれた。
分からない。
セミオンは味方なのか?




