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鉛筆を握り、スケッチブックに視線を落とすが全く集中出来ず、まだ1本の線すら描けずにいる。
視線を上げて前を向けばオレの指示した通りのポーズをとっているセミオンがいて、その回りには何事だ?と見学に来た数多くの女子生徒達が、わんさかと。そしてその女子達はセミオンの回りだけに留まらず、俺の背後にも何人か。
それでも少しのブレもなくポーズを取り続けているセミオンの精神力は、多分きっと素晴らしい。
「殿下になにを!?」
「何も描いてないじゃないの」
辱めなきゃならないってのに、寧ろオレが辱められてるんじゃなかろうか?
人の目がある所で、そこそこ肌蹴させた制服姿でバラを1本咥えさせ、バレリーナのようなポーズを取らせてみたってのに、体幹どうなってんだ?全然バランス崩さないし。
もう良い、サッと適当に1枚仕上げて引き上げるとしよう……。
それに、気がついたんだ。
セミオンがスパイだろうとスパイじゃなかろうと、オレのやろうとしている事の障害にはならないって。だから引き上げる時にでも言うつもりだ。
「もう指示に従わなくて良いぞ。でござるますわっ」
って。
喜ばれると思っていたし、喜ぶ所だとも思うのに、そう告げた途端セミオンの表情は曇ってしまい、デッサン中にはフラリともしなかった癖に崩れるように倒れたもんだから、周囲の女子達は、それはそれはもう激しくオレを攻め立てた。
あちらこちらから飛んでくる罵声、怒声、弱い攻撃魔法。
面倒臭い……それに、オレのすぐ横には崩れ落ちているセミオンがいるんだぞ?弱いとは言え攻撃魔法を撃つなんてとんでもない女子もいたもんだ。
殿下に無礼を働いた平民を厳しく叱り付けるしっかり者の自分をアピールしているのだろうか?
まぁ、それが1人2人なら良いけどさ、10人以上でやられるとただの攻撃ですからね!?避けられないと当たるし、オレが捌ききれずにセミオンに当たれば、それオレ以上の無礼を働いた事になりますからね!?
え?それは捌ききれなかったオレのせいになるんですかね?
思い込みの激しいアフィオにでも知れたら、平手打ちじゃ済まないのだろうな……。
はっ!上等だ。
全ての攻撃魔法を捌ききってやろうじゃないの。




