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百合ノ女神に捧げし仲良し決定戦

 

『百合女神降臨祭』。

 女神が地上に降臨した記念すべき日を祝うという建前で行われている大規模なお祭り、その目玉である『百合ノ女神に捧げし仲良し決定戦』が勃発していた。


『さあ、熱くほっこりする激戦続きな「仲良し決定戦」!! 予選第三試合でっす! 早速仲良したちに登場してもらいまっしょう!!』


 ヘグリア国が王都にある大広場に設置された舞台の上では集まった大勢の観客に届くよう司会のお姉さんが風の魔法で声を拡張していた。


 その声に導かれて仲良したちが登場する。


『一組目! 隣国からの姉妹ペア、ミリファ☆エリスっ!! 事前情報では実の姉妹とのことですが、これどう見ても……うん、アリでっすね!!』


「いえーっい! ミリファちゃんだぜ!!」


「あの司会、余計なこと言おうとしなかった?」


 小柄な黒髪の少女、ミリファはぶんぶんと元気に手を振り、青髪ツインテールにぴったり肌に張りつくタイプのバトルスーツの少女、エリスは小さく舌打ちをこぼす。


 髪の色からして『実の』姉妹というには無理があるのだが、少なくとも距離感は姉妹のそれと同等、あるいはそれ以上ではあった。今もはしゃぎすぎて舞台の上から落ちそうになっている妹を姉が優しく抱きとめて落ちるのを阻止していた。


「おっと。お姉ちゃんありがとっ」


「まったく。元気なのはいいけど、怪我しないよう気をつけなさい」


「うんっ」


「本当にわかっているんでしょうね……?」


 そう、少なくとも抱きとめた妹からすぐに離れず、ぎゅうっと抱きしめ続けるぐらいの距離感ではあるのだ。



『二組目! 身分差ペア、ピーチファルナ☆レイ=レッドスプラッシュっ!! 平民と公爵令嬢という典型的な身分差っ。定番こそ正義ですよね!!』


「うう、人いっぱい……。ちょっと恥ずかしい、かも」


「くふふ☆ 何を言っているでごぜーますか。恥ずかしがる必要などどこにもごぜーません!! 堂々としていれば、ピーチファルナちゃんのかわいさに世界が屈服するでごぜーますからね!!」


 くすんだ、それでいて手入れがされつつあるのか微かに光る銀髪の平民の少女、ピーチファルナが身を縮こませていると、甘い匂いがしそうな美貌の令嬢、レイ=レッドスプラッシュがその華奢な身体を後ろから抱きしめ、ぐいぐいと前に押し出しながら高らかに叫ぶ。


「れっレイさん!? わたし、そんな、かわいくなんて……っ!!」


「いいえかわいいでごぜーますっ。例え『何周』しようとも諦められなかったくらいに、私を甘く溶かして変えてくれたくらいに、ピーチファルナちゃんは最高に絶対に究極にかわいいでごぜーますよお!!」


「わっ、わわっ!? わかった、わかったから、そういうのは二人きりの時にしてっ。え、えへへっ」


 高らかと自慢げに叫ぶその声に、ピーチファルナはくすぐったそうに、それでいて嬉しそうに表情を綻ばせる。



『三組目! 北の大陸を支配する統一国家から送り込まれてきた主従ペア、メアリー☆シェルフィー=パープルアイスっ!! メイドとその主、ですか。こーゆー形の身分差もいいでっすよね!!』


「ふ、ふふっ。ふはーっはっはあ!! 第一王女とか騎士団長の娘とか宰相の娘とかシェルフィー様の妹君とかシェルフィー様専属家庭教師とかズーム公爵家のご令嬢とかライバルは多かったけど、今回ばっかりは譲れないわよね。シェルフィー様の隣は、最高の仲良しの座だけは! 絶対に!!」


「外交戦略の一環とのことでしたが、結局これから何をすればいいので?」


 長く公爵家に仕えてきた家系のメイドとしてふさわしいほどには格式あるメイド服を着こなした少女が何やら悪役令嬢顔負けな高笑いをこぼし、そんな彼女の横では薄い紫のシンプルなドレスを身に纏った令嬢、シェルフィー=パープルアイス公爵令嬢が困ったように眉を潜めていた。


「何をするって? そんなのシェルフィー様と私が最高に仲良しだってことを思いっきり見せつければいいんだよっ!! 外堀から埋めていって、外交レベルで私たちの仲を認めさせて、これ以上余計な手出しさせないようにしてくれるわ!!」


「あの、なんだかいつもとキャラが違うような? ジーク様……いいえ、ジーク相手に挑んだ時よりぶっ飛んでいる気がするのですが」


「それだけ気合い入りまくりということよっ! さあシェルフィー様、私たちの未来のために頑張ろうねっ、ねっ!?」


 ぐいぐい距離を詰めて熱弁するメイドに若干気圧されながらも、まあメイドが望むならと密かに主は気合を入れていた。



『四組目! 同じく北の大陸よりの挑戦者、アリア☆リアラーナっ!! って、アリアさん大丈夫ですかそれ!?』


「くすくす☆ 間に合ったようで何よりです」


「わっ!? やっと来たと思ったらなんでアリアさん傷だらけなわけ!?」


 赤き髪に漆黒のマント、腰に剣を差した少女、アリアは全身を真っ赤に染めていた。未だに血を噴き出すくらいには出来立てらしき傷の数々に汚れ知らずの純白ドレスの少女、リアラーナが慌てて駆け寄る。


 そのまま舌を伸ばし、傷に這わせる。

 途端に、傷が消えてなくなる。


「ん、ふ、ぅ……。くすくす☆ リアラーナが治してくれるから、ちっとばかり無茶してでも時短でケリをつけてきたんですよ」


「ばかっ! いくら治せるからって無茶しないで! 痛いものは痛いんだから!! 心配するじゃんっ!」


「……、そうですね。リアラーナに心配かけるのは本意ではないですしね」


 未だに傷に舌を這わせて懸命に傷を治してくれているリアラーナの頭をアリアは何を奪うでもなく優しく撫でる。



『五組目! 最近発見された南の大陸からの挑戦者、シェルファ☆レッサーっ!! こちらは外交云々関係なく、旅行でいらっしゃったようです。楽しんでいってくださいね!!』


「仲良し決定戦、ですか。賞金も出るようですし、こちらの大陸の未知を収集する資金調達にはちょうどいいですね」


「えっと、お嬢様? この大陸ってば異界の超常存在に頼ることなく超常使えるのが普通って話なんだよね??? 大丈夫、危険がいっぱいじゃない!?」


 何を考えているのかわからないと有名な漆黒の瞳の元公爵令嬢、シェルファはわくわくしていると言いたげに軽やかな足取りであった。対照的に公爵家から勘当されたシェルファにも変わらず仕える少女、レッサーは不安そうにしていたが。


「レッサー。未知とは各々が勝手に定めた限界値でしかありません。現にこの大陸では己が手で生み出す力が普通となっております。せっかく未知を先んじて既知と変えた先達者がいるのです。その知識、余すことなく手にするべきでしょう」


「はぁ。お嬢様は本当、もう。いくらシロやキキがついてきてくれているからって無茶しすぎなの。ここ絶対やばいんだよ? さっきなんて空気を操って雲を吹き散らす女とそんな女を剣一本であしらう女がぶつかっていたのに、いつものことなんて流されていたし!! 物騒っ!!」


 どうやらどこぞのお姫様と兵士長の殺し合い(という形をしたじゃれ合い)を見てから震えが止まらないメイドを安心させるためか、主はとりあえずその震える身体を抱きしめる。



『そして、最後! ヘグリア国からの代表者、キアラ☆ミケっ!! 出身から何もかも不明な謎の美女を引っさげて我らがヘグリア国の兵士が登場でっす!!』


「きひひ☆ ……こんなの無理。だって、だって! オーラが違うもの!! あれよ、『主人公』的なオーラ纏った奴らにワタシなんかが太刀打ちできるわけないって!! せめて殴り合いなら何とかなるけど、仲良し度で勝敗つけるってそんなの無理やっぱりワタシなんかがこんな場所に立っているのはおかしいってミケえーっ!!」


「にゃあ。まだ言っているかにゃ? ここまできたら腹をくくるにゃっ!!」


 鮮血のごとき赤き長髪に赤き瞳、肌が透けるほどに薄い紫のネグリジェの少女、キアラが今にも泣きそうな顔で叫んでいた。そんな彼女をあやすようにネコミミ女兵士、ミケがキアラの手を握る。


「キアラが()()()()()()()()()()のは知っているにゃ。だけど、そんなに卑屈になることなんて絶対ないにゃ。キアラの価値は、それ以外にだって絶対にあるにゃ。だから、ね。一歩踏み出してみよう、にゃあ?」


「で、でも、ワタシは……」


「私も力を貸すから、そばにいるから、ね?」


「…………、うん。ミケがそばにいてくれるなら、がんばる」


 ぎゅう、と。

 握ったその手が強く強く繋がっていく。



『さあ、さあさあ! 今ここに予選第三試合の挑戦者たちが出揃いましたっ!! では早速「仲良し決定戦」はじめていきまっしょおう!!』



 ーーー☆ーーー



 世界のどこかで、呟きが一つ。


「残り二十秒。……なんだろう、ここまで順調なはずなのにすごーく嫌な予感がするんだけど……???」

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