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第八十二章 どうやら勘違いが横行しているようです

 

「なんつーか、凄かったなあ」


「にゃあ……」


 田舎町の近くにある森の中。

 点数稼ぎのためにアイラ=ミルクフォトン男爵令嬢に一連の責任を押しつけようとしていたシルバーバースト公爵家とアリスやネコミミ含むクソッタレどもが殺し合っていた時のことだった。


 黄金の閃光があった。

 まさしく無双の一言だった。


『勇者』リンシェル=ホワイトパレット。

 エルフの女は二百人近いシルバーバースト公爵家の私兵どもをいとも簡単に無力化してみせたのだ。


 そんな『勇者』へとアリス=ピースセンスはにこやかに声をかける。


「きゃは☆ 助かったわよぉ、ありがとねぇ。だけどまぁ、よもやリンシェルに助けられるとはねぇ。嫌われているものとばかり思っていたけどぉ」


「勘違いするでない。わらわは『勇者』じゃ。いかにクソッタレといえども見捨てる理由はない、だから助けた、それだけじゃ」


「わっちの周りにはどうしてこうも良い子ちゃんばっかりなんだかぁ。まぁそーゆー考えを貫けるのって幸せなんだろうしぃ、別にどうこう言わないけどさぁ。……悪い大人とかに騙されちゃダメよぉ?」


「悪い大人代表が何を言っておるのやら」


「きゃは☆ 確かにねぇ」


「それよりなぜ争っておったのじゃ? あのままでは無駄に死人が増えておっただろうから、『とりあえず』無力化したが──」


「それよりぃ」


 肩をすくめたアリスは目配せだけで周囲のクソッタレに指示を出しながら、ずいっと前に出る。意図して『勇者』の視界を塞ぐように近づく。背丈はロリそのものだが、身につけている鎧が巨大なので視界を塞ぐことくらいはできるのだ。


 ……リンシェルも無能ではない。『さて、治療してやりますか』『そうだな。喧嘩が終わったならみんなおともだち、これぞ路地裏のルールだぜ』『おーおーあれだけド派手にやったってのに死人がいねえぞ。やるなあ、おい』などとわざとらしく嘯くクソッタレどもが気にならないでもなかったが、次のアリスの言葉にそれどころではなくなった。



「わっちに何か用かなぁ?」



「なっ、なんのことじゃっ。わらわは別に、ただ単に不要な被害が発生するのを未然に防いだだけで──」


「別に何もないならいいのよぉ。単なる直感だしぃ」


「そ、それは……」


 咄嗟に何か言いかけたリンシェルの顔色を見て、アリスは堪えられないと言いたげに喉の奥で笑う。びしっとその顔を指差して、


「はい確定ぃ。何かあるみたいねぇ」


「ぬう!!」


「そうねぇ、わっちの力を借りたいとかぁ?」


「……っ!!」


「みたいねぇ」


「なんで全部わかるのじゃ!?」


「顔に出まくっているからよぉ。しっかし『勇者』がわっちなんかの力を借りたいくらいの『何か』かぁ。そんな大きな問題に関わるのは嫌だけどぉ、そんな大きな問題を見過ごすのはもっと嫌ねぇ。知らないうちに面倒ごとが致命的なまでに進行していましたぁ、なぁんてことにもなりかねないしぃ」


「ならば……っ!!」


「そうねぇ」


 くつくつと。

 笑って笑って笑って、アリスはこう続けた。



「おねだりすればぁ、力貸してやってもいいわよぉ。きゃは☆」



「お、おねだりじゃと?」


 眉をひそめるリンシェルへとアリスが畳み掛ける。


「そうよぉ。あれぇ? まさか人に頼みごとするのに何もなしってわけないわよねぇ。ほらほら頭下げてぇ、誠心誠意おねだりしようかぁ。ちゃぁんとみっともなくぅ、足にでもすがりつくようにしておねだりしないとやり直しだからねぇ。きゃは☆ 『勇者』ほどの強者を傅かせる機会なんて早々ないだろうしぃ、楽しんでおかないとねぇ」


「くっクソッタレめ!! 性格悪すぎじゃろう!!」


「きゃは☆ 何を今更ぁ。そんなの分かっていたことよねぇ?」


「ぬう! アリスの馬鹿者おーっ!!」



 ーーー☆ーーー



 家を飛び出したアイラ=ミルクフォトン男爵令嬢は轟音や閃光が炸裂していた現場に駆けつけていた。騒動の中心にアリスはいるはずと考えたためだ。


 予想は的中していたが、予想外の光景が広がっていた。



『勇者』がぷるぷる震えていた。

 なぜかアリスの足にすがりついていた。



「あれぇ? おねだりはぁ???」


「ぬ、ぬう」


「言っておくけどぉ、わっちはどっちでもいいのよぉ。リンシェルがわっちのこと欲しいって望んでいるだけだものねぇ。ほらほらぁ、わっちをその気にさせないとぉ、素直に言わないとぉ、わっちは手に入らないわよぉ?」


「ぬう! 分かった分かったのじゃ! 欲しいのじゃ!! わらわはアリスが欲しいのじゃあ!!」


「きゃは☆ 良い反応ねぇ、合格よぉ」


「ごっ合格なのか!?」


「そうよぉ」


「うぬ、そうか、うぬうーっ!!」


 足にすりすり縋りつきながら、なんだか場の空気に流されているリンシェルが嬉しそうにしていた。そんな彼女の頭をポンポンと撫でながら、アリスは言う。


「さてとぉ、十分楽しんだしぃ、()()()()()()()、もうそろそろ──」


 そして。

 男爵令嬢の呟きがあった。



「そういう関係だったの?」



「……ん? なん、待つのじゃ! なんだかおかしな評価を受けておるぞ!?」


「だってわっちのこと欲しいって望んでいるとか、アリスのことが欲しいとか、良い反応だから合格とか、何より今のその構図とか!! 完全にそういったヤツなの!! うわーっん爛れているのーっ!!」


「違っ、違うのじゃーっ!! 勘違いなのじゃっ。そもそもわらわは四百年間そういったことはおろか誰かと手を繋いだこともなくて、その、とにかくそんなんじゃないのじゃーっ!!」


 なんというか、散々であった。

 この後、アリスのスキルで『百八ノ罪業』が解放されないよう可能性を引き寄せようとして、既に『百八ノ罪業』が全滅していると知ることも含めて、それはもう散々であった。



 ーーー☆ーーー



 ちなみに護衛のため(という名目でアリスを助けるため)アイラ=ミルクフォトン男爵令嬢を追いかけていたレフィーファンサは木の陰に隠れていた。ばっちりそういったものにしか思えない光景を目撃していたのだ!


「あ、アリスってそういった趣味あったんだ。……うん、頑張ろう」


 誰に気付かれることなく、一つの決意があった。

 本当、散々だった。

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