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第八十一章 教えてあげます

 

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 時間軸的には未来に位置する場所から送られてきた擬似的な声を聞き、ミーナはようやく自己生産の歓喜から脱した。


 ……どうにも本調子ではないのか、未だにびくびくしていたが。


「キアラを探して、んっふっ……未来軸で試した通りに力を奪う必要がありますね……ふひゅっ」


 大陸も惑星も宇宙さえも吹き飛んだ跡地、白き領域でキアラと対峙したミーナは純白と『干渉』を用いてキアラの能力だけを消し飛ばした『らしい』。その方法論は『この時間軸の』ミーナに届いている。ゆえにキアラを見つけさえすれば、漆黒を獲得する源となるレベルアップそのものを吹き飛ばすことで破滅を回避することができる。


「『遠視』」


 キアラの位置は大体『分かっている』。

 未来軸から情報が届いているのだ。


 ゆえにありとあらゆる場所を──それこそ時空の壁を透過して、異なる世界さえも──見通すことができる『遠視』を使い、現在の正確な位置情報を確認した上で『転送』を使いキアラを呼び寄せれば、目的を達することができる。


 だから。

 だから。

 だから。



 だんっ!! と。

 一つの影がミーナの目の前に降り立った。



 鮮血のごとき長髪に赤き瞳。

 つまりは『魔の極致』第二席キアラ。


「見つけたわよ、ミーナ」


「……、わざわざ自分から負けに来たんですね」


「まあね。どこぞの第一席様が未来のワタシの『記憶』を届けたもんだから、ワタシの行動が意味ないことに気づけたもの」


 未来軸にて『今から過去に情報を伝達します。それによってキアラの敗北は確定しますし、大陸も惑星も宇宙も吹き飛ぶことにはなりません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と問われたキアラは己の記憶を過去に送るよう頼んでいた。


『干渉』を使えば記憶に触れることもできる。後はそれを言語化して、擬似的な声に変換。記憶を元に過去の時間軸でのキアラの居場所を特定、そこへ擬似的な声を送ることで過去のキアラへと記憶を受け渡していた(その情報が今のミーナにも送られているため、キアラの居場所を大体『分かっていた』のだ)。


 その結果、キアラは知った。

 今の己の行動が望む結末を招かないことに。


「どうやらワタシが望む変化は頂点にはないみたい。だったら上を目指す理由なんて一つもない」


 だから、と。

 キアラは両手を広げ、受け入れるようにこう言った。


「未来でやったように、ワタシの能力を消し飛ばしていいわよ」


 ただし、と。

 キアラはこう続けた。


「これは取引よ。ミーナにとって大陸や惑星や宇宙を消し飛ばす可能性があるワタシの能力は邪魔以外の何物でもないはず。だからそれを差し出すわ。だから、だから、代わりと言ってはなんだけど……ミーナが『変わることができた』手段、教えてほしいのよ」


 強気に言葉を走らせていたキアラであるが、後半になるにつれてどんどん力が弱くなっていき、最後には募るような弱々しい声音になっていた。それほどにキアラにとって現状は空虚で仕方なく、強く強く今とは違う何かを獲得したいと願っているのだろう。


 対してミーナはゴッ!! と右腕から放射した純白でキアラを貫いた。正確にキアラの能力と『衝動』のみを抹消したのだ。


 そう、未来軸で試した通りに。

 世界が滅びる可能性を殺すためにキアラの能力を、変わろうとしているキアラが昨日のミーナのように暴走しないよう『衝動』を消したのだ。その方法論は既に未来で検証、実証されていたので、果たすのはそう難しいことでもない(未来軸のミーナがさっさと過去を改変せず、わざわざキアラと勝負した理由はここにあるのだから、果たさない理由がないだろう)。


 サラッと『取引』の報酬をもらったミーナはいつも通りの無表情で、毎度の平坦な声を発する。


「構わないですよ。アタシを変えた、最も重要な因子たる『好き』を教えてあげます。というか、最初からそのつもりでしたしね。ですが、最初に一つ言っておきます。セシリー様に『好き』を向けないように。キアラの『好き』は別の人に向けてください。それで十分に変わることができますから」


「きひひ☆ 別にいいわよ。セシリーとやら以外でもワタシを変えてくれる何かを与えてくれるなら、別にセシリーとやらに固執する理由はないしね」


「…………、」


「ん? いつもの無表情なのに、すっごく不満そう???」


「セシリー様には固執するだけの魅力がないと言いたいんですか、へえそうですかふーん」


「み、ミーナが違う奴に『好き』を向けろとか言ってたから、その通りにするって答えたのに、なんでそんな不満そうなわけ!?」


「セシリー様は固執しちゃうほどに魅力的なんです!!」


「ちょっちょっと待っ、なんだかおかしいわよミーナっ!!」


「いいですか? セシリー様はすっごいんです。まず外見からしてそこらの女神がダース単位で挑んだって足元にも及ばないほどの美貌の持ち主なんです。そう、そうです、もちろん外見も完璧なのですが、やっぱり内面がすっごいんです。いいですか、聞いていますか? セシリー様はですね、アタシなんかを受け入れてくれるだけの包容力があるんです。もう羽毛もびっくりの柔らかさと言えるでしょう。何せセシリー様は──」


「ま、まずい、開けてはいけないものを開けちゃった感じ!? 知らないワタシこんなミーナ知らないっ、いやちょっ怖い怖い怖いーっ!!」


 こうして大陸も惑星も宇宙さえも吹き飛ばす未曾有の破滅は回避された。吹き飛ばす理由が消失したのだから当然だろう。


 そう、ミーナの『好き』が世界を救ったのだ。


 ……ミーナのあまりの変貌に涙目なキアラが正しく『好き』について理解できたかは不明であるが。



 ーーー☆ーーー



 世界のどこかでミーナがキアラ相手に惚気ているのを観測していた『魔の極致』第三席ネフィレンスは頭を抱えていた。


「おかしいっテ。第二席が己の能力を捨ててまでミーナの惚気を聞き出しているっテ? あれだけ上を目指すのに貪欲だったキアラはどこいったのヨ」


 どんより暗い目で虚空を見つめるネフィレンス。唯一真面目に世界征服を志している『世間一般が考える』魔族らしい魔族はぷくうと頬を膨らませる。


「いいもんだったら私チャンも世界征服はしばし休止するモーン!! いくら人間の女に首ったけだとしてモ、魔族と人間とは寿命が全然違うんだかラ! 束の間の夢に浸っていればいいのヨ!!」


 ぷう、と頬の風船を萎ませ、ネフィレンスは続ける。


「……いずれ必ず『好き』はミーナより先に死ヌ。寿命の差が死別を招くのヨ。その別れは確実にミーナの心を絶望へと突き落とス。そうなれば昔の『魔の極致』第一席、いいやそれ以上の怪物と変貌するハズ」


 呟き、自身の言葉を精査して。

 ネフィレンスの瞳に輝きが灯る。


「そうよネ、そう考えたら現状維持が最善手よネ! アハハッ、精々『好き』に浸って頭色ボケに染まってそこらの有象無象と同じくチンケな幸せとやらを追求すればいいわヨ!! その『好き』が大きければ大きい分だケ、失った時の落差もまた大きくなるモノなんだからネェ!! アーッハッハッハッ!! 最後には私チャンが最強さえも利用する女王として君臨してやるんだからアーっ!!」


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 どうやらネフィレンスが全世界征服に乗り出すのはまだまだ先となりそうだった。

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