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第七十章 やってしまいました

 

 ヘグリア国、王都。

 その中心に君臨する王城にて国王ゾーバーグ=ヘグリア=バーンロットは対面に座す女へと声をかける。


「非公式にやってくるとは何のつもりだ?」


「あらあら、分かっているくせに」


 金髪にグラデーションがかった蒼い瞳という特徴的な外見はまさしくアリシア国の王族の象徴であった。


 ふわふわと相手を弛緩させる雰囲気を纏う女であるが、その本質が実質的な国家の支配者たる領域に到達していることを国王は理解している。


 アリシア国が王妃。

『万物見通す清廉なる者』とも評される、実質的なアリシア国の支配者である。


「淫魔イリュヘルナとやらに随分と好き勝手やられたようですね」


「ふん、第五王女まで派遣して介入してきたんだ。そりゃ把握はしてるか」


「そうそう、()()()()()()()()()()()()()


 サラリと王妃はそう告げた。

 ディグリーの森から逃げ帰った一部の騎士からの(メイドが『魔王』だったとかいう)報告がもたらさせて一日も経っていないというのにだ。


「……、何が目的だ?」


「あら、正直に言えば『目的』はとっくに果たしているのですよ。今回こうして足を運んだのは、頑張った娘へのご褒美ですよ」


「あ?」


「今回の騒動は第一王子が独断で行ったことであり、イリュヘルナなんてものは存在しなかった。そうすれば被害を最小に収めることができると思いますが」


「王族の看板に傷をつけろとでも? スケープゴートなら例の男爵令嬢が──」


「それをやめろと脅しにきたんですよ、いい加減理解してはどうですか?」


 ふふ、と見た目だけは甘く、優しく、穏やかに微笑む王妃。だが、その『中』が見た目通りとは限らない。


「他国の問題に首を突っ込んで、タダで済むとでも思ってるのか?」


「国家中枢が一匹の悪魔に引っ掻き回された、という事実が国民に知れ渡るほうが問題な気もしますけどね。印象操作一つで不信感を爆発させることができますもの」


「そこまで『する』と言いたいわけか?」


「こちらの提案を受け入れないというのならば、まあやるしかないでしょう」


「こちらがイリュヘルナに支配されたという決定的な証拠はない」


「だから? 記憶や残留因子のようなものを引きずり出して映像化するなど証拠を明確化する手段はいくらでもあります。淫魔イリュヘルナに支配されていた情報源はいくらでもありますもの。その全てを隠し通すことができるものでしょうかね?」


「なぜ男爵令嬢一人にそこまで固執する? あれのスキルは中々使えるものではあるが、それだけだ。今貴様が言ったようにヘグリア国にダメージを与える手段を投げ捨ててでも救うべき価値があるとでも?」


「さあ? ただ我が第五の娘が望んだことですしね。『目的』は達したことですし、この程度のご褒美を与えてもいいでしょう」


「……、後悔するぞ」


「あら、あらあら。まあそうですよね、そちらとしてはそう言うしかないですよね。では交渉成立ということで。今回の件、全ては第一王子の独断という話で終わらせるように」


 最後の最後まで穏やかに、王妃は微笑みを絶やすことはなかった。



 ーーー☆ーーー



「第五王女がわっちが頼んだ通りアリシア国を動かしてくれればぁ、話は早いものなのよねぇ」


「なんだもうケリついたってのか?」


「まぁねぇ。『あいつ』からの連絡もないしぃ、王家のほうは裏でコソコソ動いているってこともないはずよぉ」


「そうかいそりゃいい。それじゃさっさと男爵令嬢家に帰そうぜ」


「そうねぇ。……家にぃ、ねぇ」


「なんだよその名残惜しそうな反応は?」


「いやぁ、ねぇ」


「おいおい仲間意識でも芽生えたってのか? あいつと俺らとじゃクソッタレ具合に差がありまくりだぞ」


「そうじゃないわよぉ。ただぁ、ねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あん?」



 ーーー☆ーーー



 なぜかネフィレンスは頭を抱えながら帰っていきました。何やら『これ私チャンを欺く演技とか何とかって話じゃないジャン本気でゾッコンなんジャン! アハ、アハハッ、なるほどネェ斜め上の方向に成長しちゃったんだネェ』とか言っていた気がしますが、まあなんでもいいです。


 アタシは隠れ家に戻ります。

 扉を開き、今度こそセシリー様と『何か』を──



「むう。むうむうっ!!」



 どんっとアタシの姿を見た瞬間、セシリー様が飛びついてきました。ポカポカと胸の辺りに軽く握った拳を振り下ろしています。ああ可愛いです、ではなくて!


「セシリー様? どうかされました???」


「むう、むうむうむーう!!」


 ぷくうっと頬っぺたを膨らませて、じわりと目の端に涙を浮かべています。そんな、上目遣いで見上げられたら、ふっ、ふうっ、はふう!! いいえだめです今は見惚れている場合ではありません!!


「申し訳ありません。二度も途中でやめてしまいましたね。今すぐ、もう一度やりましょう」


「もっもういいでございます! ムードも何もあったものでございませんし、何より数段飛ばし過ぎます!! う、うう、二度も寸止めされたら流石にもう恥ずかしいやら何やらが上回りますもうこんな無理でございます!!」


 うわーん!! と公爵令嬢らしさなど投げ捨てて、年相応(?)に走り去っていきました。そのまま二階まで駆け抜けていきます。


 なるほど、なるほど。

 お、怒らせてしまいましたっ。流石に二度も途中でやめるのは無理があったんですアタシの馬鹿!!


「メイド長です、早くメイド長に相談しないとです」


 助けてメイド長! せっかくセシリー様と触れ合えるハッピーライフが到来したかと思っていたのに、一日目から躓きましたあ!!

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