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第六十三章 思いのままに突き進むしか道はありません

 

 ひう、ひう、ひううう!!

 あっ、アタシ、これ、どうすればいいんですかあ!? こんなの難問にもほどがあります、せっかくの幸せが手の中からこぼれ落ちそうな予感がビンビンですう!!


 か、考えないとです。

 セシリー様は純白の着物を着ています。『奴』の着ていたものを再現した着物です。アタシが胸のアレソレに触れたせいでセシリー様を怒らせた例のブツです。


 気の利いたことを言わないとなんですか? 本当に反省してるのか試してやるって感じですか? 無理ですアタシにそんな高度な言葉選びできないです!!


『勇者』と対決した時よりも、『衝動』に立ち向かった時よりも脅威にもほどがあります。突破口が微塵も見えません!!


 ひう、うう、うううう。冷静に、冷静になるんですアタシ! どう頑張ったとしてもアタシには無から何かを生み出すことはできません。今持っているもので挑むしかないんです。


 アタシの手札は三つ。

『衝動』、『忠実』、『素直』です。


『衝動』を使うのは論外として、『忠実』もイマイチしっくりきません。であれば『素直』に言っちゃうしかないんです!!


『この服、似合っているでございますか?』、なんて、そんなの、アタシの答えは決まりきっています!!



「お似合いですよ、セシリー様」



「っ、そ、そうでござい──」


『素直』です。

 下手に飾らず、ありのままの想いを言いましょう。


「そもそもセシリー様はこの世界で、いいえ重なり合う無数の世界の中で不動の頂点に君臨する美しさを誇るわけですから、衣服が何であれ最高にして最強にお綺麗です。そんなセシリー様の清らかな内面が滲む崇高なる美貌に純白という色をアクセントとして追加して、似合わないわけがないんです」


「え、ええ!?」


 何やらセシリー様が驚いたように口元に手を持っていきました。ぱちぱちと目を瞬き、息を飲んでいる雰囲気が伝わります。


 予想外の答え、だったとかですか?

 この答え、間違いだったんですか!?


 ……だとしても。だとしても! 他に手札がない以上、『素直』でもって押し通すしかないんです!!


 膨大な量と強靭な質を兼ね備えた『素直』な想いでもって押し通すしかありません!!


「セシリー様は綺麗です。その真紅の瞳で見つめられるだけでゾクゾクと背筋が歓喜に震えます。その肌はどんな布地でも無粋と思えるくらい清らかです。その金髪の輝きは一寸先さえも黒く塗り潰す闇だろうとも照らすほどに鮮やかです。その肢体は世界中の芸術品を集めたって敵わないほどに完成されています。その口から紡がれる言の葉はいつだってアタシを惑わせる力に満ちています」


 ああ、ああっ、ああ!! 止まりません、溢れて仕方ありません。だって、セシリー様ですよ? セシリー様の魅力を語るのならば何年、何十年間かけたって足りません。もう着物云々なんて抜けていることに気がついてはいますが、これが『素直』な気持ちです。


 似合うに決まっています。

 セシリー様が身に纏えば、どんなボロ布だって最高級の一品に早変わりするんです。


 つまり。

 つまり!

 つまり!!



「そう、そうです、セシリー様はとてつもなく綺麗なんです。ですから、その着物が似合うのは当然のことです」



 言いました。

『素直』に言っちゃいました。


 ……これで、本当に良かったんですよね? セシリー様顔真っ赤なんですが、本当にこれで良かったんですよね!? 怒らせたってわけじゃないですよね!?


「セシリー様、どうかされましたか?」


 ああっ、そうです、語彙力が足りていなかったに違いありません! アタシなんかの中から『素直』に生まれる語彙なんてたかが知れています。セシリー様の偉大さを表現するには不十分だったんです!!


「申し訳ありません。アタシの語彙力が足りなかったみたいですね。質はどうしようもありませんが、量であればいくらでも追加することができます。アタシの拙い語彙でよろしければ、心の底から溢れるこの気持ちを伝えることを許して貰えればと」


「え、いや、あの……っ!」


 アタシには三つしか手札はないんです。ならばせめて量で勝負しましょう。アタシの中に溢れる感情の全てを表現するための語彙が足りないならば、全てをつまびらかに語ればいいんですから。


『素直』に。

 思いの丈を吐き出しましょう!!



 ーーー☆ーーー



 誤算であった。

 それはもう見事なまでの誤算であった。


 ミーナに褒めてもらえたら嬉しいと考えて、胸を高鳴らせていたからこそ、つい尋ねてしまった。似合っているかどうか聞いてしまった。


 そう、あくまで着物が似合っているかどうかを聞いたのだ。そこからあの時みたいに綺麗だと言ってもらえたならば満足するはずだった。


 なんだか事態が予想外の方向に転がっていった。着物云々の話なんてとっくに投げ捨てられた。ミーナが語るはセシリーがいかに魅力的かどうか。それだけを、それはもう淡々と毎度の平坦な声音で語り続けているのだ。


 止まらない、途切れない。

 無理矢理絞り出しているのではない。ミーナが思うがままを吐き出しているだけだ。それが、『素直』な感情の奔流が、セシリーの魂をダイレクトに揺さぶる。


 熱烈に、『セシリー様は綺麗』だという一点を外見、内面余すところなく伝えてくるのだ。それこそセシリーが意識もしていない箇所をほじくり返すように。


 そんなの。

 メチャクチャ嬉しいが、メチャクチャ恥ずかしいに決まっていた。


(う、うう、ううううう!!)


 顔どころか全身が真っ赤に染まっている気がした。それくらい全身が火照っているのだ。


 まるで叩きつけるような凶暴な感情が、セシリーのことをこれだけ想っているのだと伝えてくる。


 セシリーは恋をしている。

 ミーナのことが『好き』なのだ。


 そんな相手にここまで想われて幸せを感じないわけがない。それはもうメチャクチャ幸せだが、やっぱりメチャクチャ恥ずかしかった。

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