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第四十七章 遠回りしてまで、よくやるものです

 

『勇者』リンシェル=ホワイトパレット。

 第三百九十八代目『勇者』であり、分子結合の切断を得意とする戦士である。その力だけでも強大ではあるが、彼女の真価は『勇者』であること。つまりは『清浄なる右』に内包されし三百九十七もの『勇者』の力を扱えることである。


 一人一人が『勇者』足りうる強者であった。それを三百九十七も積み上げているのだ。その力はまさしく個人にて軍勢と化した力を振りかざすに等しい。


『勇者』とは大陸の守護者の代名詞である。

 右腕、いいや『清浄なる右』に内包されし三百九十七もの歴代『勇者』の魂が輝く。正義を貫き、無辜の民を守り抜くために。


「悪党よ、覚悟は良いか?」


 リンシェルは黄金に輝く右拳を握りしめる。

『清浄なる右』。黄金の閃光と化して顕現している歴代『勇者』の力が集う。


「覚悟? 相変わらず生意気なものねえ『勇者』っ。六百年前にワタシを殺したあの女ではないようだけど、お前が『勇者』であることには変わりないわよねえ!! んふ、んふふっ、今こそ憎たらしい黄金を打ち砕き、混沌渦巻く時代の到来といこうかねえ!!」


「ぬははっ、面白い冗談じゃのう。貴様のような売女に未来はないのじゃ。六百年前に『勇者』シェリフィーンに粉砕されたように、今回も『勇者』の手で粉砕される定めなのじゃ!!」


「……んふふっ」


「……ぬははっ」



 ゴッバァン!! と。

 振り下ろされた巨人の左拳と振り上げられた『勇者』の黄金の右拳が真っ向から激突する。



 ーーー☆ーーー



「このままじゃ『勇者』は負けるわねぇ」


「サラッととんでもねえこと言い出したぞこいつ!?」


「クソロリペタめっ。空気読めよ余計なこと言うなよそんなんだから三十路のくせに嫁の貰い手いねえんだぞ!!」


 男爵令嬢を背負いながら爆弾投下したアリスは、予想通りなクソッタレどもの反応に満足げに表情を綻ばせていた。もちろん三十路だ嫁の貰い手だほざいていた馬鹿はぶん殴っておいたが。


 ちなみに遅れて漆黒の炎槍がぶち抜いた穴から這い出たパンチパーマは気絶したままの公爵家当主を背負いながら、重いため息を吐いていた。地上に出る前に余計なことを聞いたからか、諦めの境地に突入していたのだ。


「だが待てよ、待ってくれ! あれが強いってのは力の波動で分かるが、だからって『勇者』が勝てないほどなのか!?」


「まぁねぇ。あれは魔族と悪魔の合体生物だものねぇ。どちらか片方であればまだしもぉ、掛け合わせた状態であれば『勇者』に並ぶわよぉ。だからこそぉ、一撃で決められなかったみたいだしねぇ。……瞬間火力は上回っているけどぉ、完全殺処分できるほどじゃないみたいねぇ。再生能力がずば抜けた魔族と淫魔を掛け合わせた合体生物相手に持久戦挑んだってぇ、ジリ貧になるのは目に見えているわよぉ。しかもぉ、駄目押しにあいつの内蔵エネルギー量は半端なく多いみたいねぇ。『勇者』を超えているわよぉ」


「はい出た余計な情報出してきちゃってさあ!! 知らなかったら全部『勇者』に託していたのによお!!」


「他に手段があるっぽいのが無茶振りに拍車かけてやがるんだろうな。絶対に勝てないくらい絶望的なら諦めて逃げていたっつーのによお!!」


 ギャーギャー騒ぎ出したクソッタレどもを無視して、アリスは続ける。


「だからぁわっちたちで瞬間火力を増やそうと思うんだけどぉ、協力するわよねぇ? まさかとは思うけどぉ、()()()()()()()()()って言ってるのにぃ、仮にも兵士が逃げるなんて情けないこと言わないわよねぇ?」


「もちろんにゃ!!」


「ああっ、ネコミミが毒されてやがる!!」


「っつーか男爵令嬢がヤバそうって話どこいった!? なんで共同戦線かますノリなんだ!?」


「男爵令嬢は良い子ちゃんだったってことよぉ。でぇ? どうやらネコミミも戦うみたいだけどぉ、クソッタレどもはどうするのぉ? まさかとは思うけどぉ、八歳児放って逃げるなんて言わないわよねぇ?」


「たっ、タチが悪すぎる!」


「くっそー! 『クリムゾンアイス』唯一の目の保養を人質にしやがって!!」


「唯一ぅ? 目の保養ならわっちだって──」


「身の程知れロリボディが!!」


「はぁ。ちょっとは膨らみ強調して出直せや!!」


「……、決戦前に同士討ちかぁ。まぁ仕方ないかなぁ」



 ーーー☆ーーー



 それは地下空間に生き埋めになりかけていた時のことだ。アリス=ピースセンスは頭上に覆いかぶさった大量の土砂を吹き飛ばして、脱出しようとしていた。


 その時、アリスに抱きしめられていた男爵令嬢はこう言った。


『わたしも戦うの』


『きゃは☆ 責任でも感じてるのかなぁ? 気にする必要ないわよぉ。ここから先は兵士のお仕事だしぃ、わっちたちが何とかするからねぇ』


 男爵令嬢の言葉にアリスは流れるようにそう返した。


 だが、男爵令嬢は首を横に振り、アリスを真っ向から見据える。


『責任を感じているのは確かなの。でもそれだけじゃないのっ。このまま誰かに任せたままだったら、何も変わらないの! 妹の命運を悪魔に託して、大勢の人間が殺されるかもしれない原因を作ったように、これから先も誰かに頼るしかなくなるの!! 大切なものの命運を誰かに託して、押しつけて、望む結果にならなかったらいちゃもんつけるだけのクソ野郎のままなのっ!! そんなわたしのままじゃ嫌なの。嘆くだけで終わりたくないのっ。大切な人くらい自分で守りたいの!! だから、わたしも戦わせてほしいの。妹の命運を悪魔なんかに託してしまった弱い自分と決別するために! これから先の人生、せめて自分の意思で前に進むために!!』


『馬鹿ねぇ。こーゆーのは兵士に押しつけておけばいいのにぃ。まぁでもぉ、今回ばっかりはやる気出しちゃうって感じかねぇ。下手に突っぱねてぇ、予想外のタイミングで戦場に首突っ込まれても困るしぃ、それなら最初っから一緒に行動しておいたほうがいいかねぇ』


 ただしぃ、と男爵令嬢の背中をぽんぽんと軽く撫でながら、


『危なくなったら一目散に逃げることとぉ、戦闘中はこちらの指示に従うようにぃ』


『もちろん戦闘中はアリスさんの指示に従うけど、逃げることだけはしないの』


『本当やる気出しちゃってぇ。元気出して欲しかっただけでぇ、ここまで焚きつけるつもりはなかったんだけどぉ。まぁ勝てばいいだけの話かねぇ』


 そんな会話を横で聞いていたパンチパーマは呆れたようにため息を吐いていた。


『ったく、どいつもこいつも強い奴から逃げるって基本がどうして守れねえんだ?』


『その割には逃げる気ないようねぇ』


『全部アリスのせいだろうが! 男爵令嬢の事情根掘り葉掘り聞いた上で、やる気満々な男爵令嬢連れてあの悪魔に喧嘩を売りにいくみたいなもんおおっぴろげにするなよ!! そんなの半ば強制だからな? 妹のためとか余計な情報出しやがって。それなかったら私利私欲のために悪魔を呼び出した的なアレソレってことにしておけたのにさあ!! ああもうやるよ、やってやる、やればいいんだろ! クソ悪魔だろうが何だろうが、ぶっ倒せばいいんだろうがよお!!』


『きゃは☆ そう言うだろうと思ってぇ、妹さんのことに関してはわざと引き出したんだけどねぇ。ぶっちゃけ予想はついていたしぃ』


『タチ悪りぃな、クソが!!』


 善にも悪にもなれない半端者だからこそ彼らはクソッタレであった。そんなのはアリスみたいは奴がトップに立っていることからも伺えるというものだ。


 ゆえにグダグダ文句をつけながらも剣を握ることができた。そんなクソッタレだからこそ、アリスは背中を預けてきたのだ。


『まずは地上に出てぇ、クソッタレどもと合流するわよぉ。「クリムゾンアイス」だけじゃ悪魔討伐には足りないだろうけどぉ、どうやら地上には利用価値あるのが転がっているみたいだしねぇ?』



 ーーー☆ーーー



「ぶ、ぶふう。きょ、巨人に踏み潰される前にアリスに叩き潰されるところだったぞ……」


「がぶべぶっ。ち、ちなみに、わざわざ確認するもんでもねえだろうが、アリスのスキルであのデカブツに勝てるよう可能性を引き寄せているよな?」


「してないけどぉ。というかぁ、わっちのスキルは別のことに使ってるしぃ」


「もおこいつ本当やだあ!!」


「労働環境の改善を求めるぞ! せめて最善くらい選べよお得意のスキルで勝ち筋くらい引き寄せろよお!!」


「きゃは☆ うるさいわねぇ。上から死ねと命令されれば死ぬのが兵士よぉ。わかるぅ? わっちの好みに合わせて身を削るしかないのはぁ、お前らが木っ端の兵士だからよぉ。というわけでぇ、上にのぼる努力を怠った己を恨んでぇ、さっさと死地に突っ込むことねぇ」


「誰だこんなサドでロリ体型っつーどうしようもねえ女を兵士長にしたのは! せめて見た目と同じ年齢だったらご褒美に変換できたってのに!!」


「ん? 待て待てお前何言ってんだ!?」


「な、なんだよ。俺、おかしなこと言ったか???」


 キョトンと首を傾げていたのはパンチパーマであった。クソッタレ集まる『クリムゾンアイス』には色んな奴がいるものである。

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