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悪役令嬢のメイドさん〜お嬢様が婚約破棄されたので、イチャラブスローライフに突入です〜  作者: りんご飴ツイン


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短編 それもまた一つの好きの形である

 

「ミーナ、お客様でございますよ」


「お客様? あれ、なんで貴女がここに??? 人間側に寝返った上にネフィレンスが送り込んだ魔族の刺客ではなく人間にやられたと聞いていたんですが」


()()()()()()()()()()()の力で再誕したのでありますよ。ノールドエンスのスキルは自分だけを対象とするものだったはずですが、そのような制限は()()()()()()()へと目覚める可能性を持つ魂には関係ないようで。まあ()()()()()()()()()()()はこの世界軸で『ミリファルナ』へと統合するのは諦めたからこそ私も自由となれたのでございますが」


「???」


 森の奥にあるミーナとセシリーの家へと踏み込んできたのはエプロン姿の妙齢の女性であった。というかエプロンしか装備していないせいで豊満な胸元が軽く事故っていた。


 腰まで伸びた黒髪に目元には二つの泣きほくろ。六百年前には孤児となった女の子の里親として生きていた時もある魔族である。


『魔の極致』第十席チューベリー。

 彼女の来訪にリビングで椅子に腰掛けていたミーナはとりあえずセシリーを膝の上に乗せてから、チューベリーも向かい側に座るよう進める。


 その対応にチューベリーは微かに目元を緩めて、


()()()()()()()()()()()のそばにいたお陰でこの世界で起こった全てを知り得てはいましたが、実際にこの目で見ると驚くものであります。本当、変わりましたね」


「変わった……ええ、そうですね。だってセシリー様最高に綺麗で可愛くで愛らしくてふわふわでキュートでセクシーで好きでそうです好きなんですああもう大好きセシリー様好きです好き好き」


「あの、ミーナっ。お客様が見ているから、その、そんなに耳元で囁かれたら我慢できなくなるのでございますよお!!」


「我慢なんてしないでください。セシリー様に求められたならば、アタシはいつだって応えますから」


「うう、うううっ。節操、少しは節操を持ってくださいでございますう!!」


「……、本当変わりましたね」


『勇者』シェリフィーンの友達である孤児を引き取り、育てた過去もある。そう、魔族が引き起こした六百年前の戦争で孤児となった女の子を引き取り育てるというある意味最悪のマッチポンプをかましたというわけだ。


 好きを貫こうとしても、どうしてもサイケデリックな色が濃くなる魔族らしい妙齢の女性は困ったように頬に手をやっていた。



 ーーー☆ーーー



 じゃりじゃり、と金属のこすれる音が響く。

 ヘグリア国が王都、その主城の地下深くにある『国家上層部しか知り得ない』牢屋の中に収容されているのは一人の女の子であった。


 かつては綺麗な金髪に碧眼は赤黒く染まっており、その背中からはかつては存在しなかった赤黒い羽が生えていた。人間から悪魔への変異。深い憎悪による魂の堕天()()()()()()()()()()()のだが、とにかく彼女は六百年前の戦争の後、勝敗が決した後に悪魔として再誕した。


 イリュナ。

 かつて『勇者』シェリフィーンに助けられ、何を思ったのか養子として『魔の極致』第十席チューベリーに引き取られ、『勇者』シェリフィーンの友達となり、裏切り者として同じ魔族から送り込まれた刺客を返り討ちとしたがダメージを受けていたチューベリーを殺すために人間側の軍勢に人質として利用され、チューベリーを殺した後はお前の番だと言わんばかりに同じ人間に三日三晩じっくりと時間をかけて殺された女の子である。


「イリュナ」


 地下奥深くに声が響く。今代の『勇者』の肉体を依り代として現世に意思を伝えるシェリフィーンである。


 今代の『勇者』の力で力の封殺や膂力の低下を付与した鎖に縛られたイリュナはシェリフィーンを前にして口元を歪め、嘲る。


「これはこれは『勇者』様じゃありませんか。正義の味方であるなら悪魔を前とすればさっさと殺すべきでは?」


「…………、」


「それともかつて仲良くしていたからと手心加えちゃっている感じ? アッハッハッ! 甘い、甘ったれだねぇ。かつてのわたしはもう死んだ。ここに残っているのは憎悪以外を切り捨てて欠けた部分を悪意で埋め合わせた残骸のみ。正義の敵、それ以外の何者でもないってのに」


「…………、」


「ありゃ、あーりゃりゃっ。もしかして何か期待しちゃっている? 根気よくお話しすればかつてのわたしに戻ると、悪魔から人間に戻っちゃうなんてご都合主義期待しているってぇ? それこそ甘いも甘い、甘すぎて胸焼けしちゃうってっ。魂は変異した。余分なものを切り捨てて、憎悪と悪意だけの怪物と化した。切り捨てたものはとっくの昔に霧散しているというのに、どうやってかつてのわたしを、人間だったわたしを取り戻すっていうんだかっ!!」


「…………、」


「ほら殺せよっ。正義を果たせっ! できないというなら、わたしはこの世界を憎悪と悪意のままに蹂躙してやる!! さあどうする? 甘ったれたまま過去の亡霊に『今』が壊されると分かっていて放置するのか、それともわたしを殺して『今』を守るか!! 『勇者』様ならどちらを選ぶかなんてわかり切っているよねぇ!?」


「まったく、随分と私を高く評価しているようだわ」


「……、あ?」


 ほのかに笑みさえ浮かべていた。

 シェリフィーンは穏やかに悪魔と化した人間を見つめて、


「正義を果たせ? 『勇者』ならどちらを選ぶかなんてわかり切っている? 確かに綺麗も綺麗、純粋な正義の味方であれば憎悪や悪意に染まった奴を殺すことで平和を掴み取るのだわ。悪を殺すのが正義であれば、なるほどそれが正しい選択というもので、無責任に身勝手な期待だけ押しつけてくる民衆だって良くやったと褒めてくれるわ」


 だけど、と。

 シェリフィーンは否定へと繋げる。


「私、そんなに立派じゃないんだわ。『勇者』だなんだと言ったところで生まれながらにそうだっただけで、お姉ちゃんたちが殺されるまでは平穏無事に生きていくために力を隠していたし、お姉ちゃんたちが殺されてからは復讐のためだけに『勇者』の力を使ってきたわ。まあイリュナが殺されてからは何かに復讐するのも虚しく、そもそも限りなんてないと気づいたわけだけど。そんな私が正義の味方だなんて貫くわけないわ。そもそも始まりから終わりまで正義なんて果たしたことは一度もないんだから」


 ガッシャン!! と鎖が弾けるように砕ける。自由となったイリュナへとシェリフィーンは真っ直ぐに歩み寄る。



 ぎゅっ、と。

 力の限り抱きしめたのだ。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……、やめて」


「死んだものと、思っていたわ。いや、厳密には人間としてのイリュナは死んで、別物として再誕したのかもしれないけど、それでも、イリュナは今ここに存在しているんだわ。お互い『今』には不要な過去の亡霊で、『今』のためなら大人しく消え去るべきなのかもしれないけど、そんなの知らないわ。イリュナとまた一緒にいられるなら、それ以外の全てを投げ捨てることに何の迷いもないわ!!」


「やめて! なんでそんなこと言えるのよ? 『勇者』でしょわたしなんて切り捨ててよ正義を貫いてよっ。そうしないと、そうじゃないと、わたしがっ、憎悪と悪意がシェリフィーンを引きずり落としてしまうっ。魔族から人々を守り抜いた『勇者』シェリフィーンをわたしなんかが穢したくないのよっ」


「だから、それでもいいと言っているんだわ」


「なんで、よ。憎悪と悪意で構築された残骸のためにどうしてそこまで投げ捨てられるのよお!?」


「好きだから。それ以上も以下もないわ」


 びくり、とイリュナの肩が震える。

 華奢なその身体を強く強く抱きしめて、もう会えないと諦めていた最愛の存在を存分に確かめる。


「かつてイリュナは復讐しかなかった私に根気よく付き合ってくれたわ。これでもかと好きを与えてくれたわ。今度は私の番。憎悪と悪意しかないというなら、私が好きを与えてあげるわ。イリュナがしてくれたように、今度は私がイリュナを好きで染めてやるから覚悟することだわ」


「……、ばか」


 ゆっくりと、だか確かに。

 シェリフィーンを抱きしめ返す腕があった。



 ーーー☆ーーー



「ねーさま、憎悪と悪意しかないって本当?」


「妹ちゃん、そもそもイリュナは『魔の極致』第十席チューベリーが()()()()()()()へと至る生贄の一人として回収、生存していることが分かった時、アンノウンを取っ掛かりに助け出そうとしました。結果としてこの世界軸では()()()()()()()へと至ることは不可能と見限ったがために『次』へと進んだかの存在に後一歩追いつけず、かの存在が不要と切り捨てたチューベリーを見つけることはできませんでした。状況証拠からもう死んでしまったものと勘違いしてしまったわけですね」


「ねーさま、それが?」


「妹ちゃん、チューベリーのために動いた時点でイリュナには憎悪と悪意以外の何かがあると証明されています。どれだけ残っているのか、それとも新たに芽生えたのか、とにかくイリュナは自称するほど憎悪と悪意だけで構築されてはいないのでしょう」


「ねーさま、ならこれでハッピーエンド?」


「妹ちゃん、確かにそうなのですが、そう締めくくるには要素が一つ足りません。とはいえ、勇気を持って一歩踏み出すだけでいいんです。ハッピーエンドは確定したものと考えていいでしょう」



 ーーー☆ーーー



「ミーナ。六百年前、私が何をやったかは聞いていますか?」


 妙齢の裸エプロン女の言葉に平坦な声でミーナは答える。


「人間界侵攻の最中、急に人間の子供を養子と引き取り、隠居すると言い出したんでしたっけ」


「ええ。心境の変化がありましてね。多くの人間を殺しておいて何をと言われるかもしれませんが、『衝動』以外の何かが手に入る予感がして、ついやってしまったのであります。……そのせいでイリュナちゃんまで殺されてしまいました。私の業がイリュナちゃんを殺したんです」


「はあ、そうですか」


「ふふ。興味、ありませんか?」


「終わったことなんてどうでもいいじゃないですか」


「かもしれませんわね。では、もしも、終わったことでないなら?」


「ん?」


「イリュナちゃんは悪魔として再誕しました。私の業のせいで辛い思いをしながら死んだ後にも憎悪と悪意を背負わされて……。私が願ったせいで、イリュナちゃんの存在に『衝動』以外の価値を見出したせいで、だから、それでも、私はイリュナちゃんとまた会いたいとそう焦がれているのです。最低、でございます、よね」


「なんで???」


 いっそのことキョトンとしていた。ミーナの反応にチューベリーは目を瞬かせる。


「会いたいなら会えばいいじゃないですか」


「で、でも、私は、人類側の敵として攻め込んでおきながら『衝動』以外が欲しいからと魔族による犠牲者を養子として引き取って、募って、救われて……最後には私の業によって殺したんですよ。それでも、私は、いいんですか、ね?」


「業だかなんだか知りませんが、結局のところ好きかどうかなんですから。アタシなんかでもセシリー様と共に生きていくことを許されたように、チューベリーの業とやらがどうであれ、それすら纏めて好きでいてくれるか、そうじゃないかという話でしかありません」


「みー、な」


「チューベリーは何がしたいんですか?」


「私、は……イリュナちゃんに会いたい」


 だけどまだ勇気が出ない、と。

 涙を浮かべ、そう続けたチューベリーへとミーナはこう告げた。


「それなら良い方法がありますよ」


「良い方法?」



 ーーー☆ーーー



 ヘグリア国が王都の中心。主城内部の玉座の間では居心地悪そうに玉座に座るアリス=ピースセンスへと今代『勇者』の肉体を借りたシェリフィーンと手を繋いだ悪魔イリュナが立っていた。


「イリュナは私が責任を持って引き取るわ」


「別にいいけどぉ、わっちに迷惑かけないようにねぇ」


「……、え? なんで、そんな、もっと、こう、色々ないの!? わたし悪魔で、一度は貴女たちと殺し合ったからこそ地下深くに拘束されていて、なのに、なんでそんなに軽く許しちゃうのよ!?」


「そんなことが言えるほどにぃ、シェリフィーンに絆されたんなら何の心配もいらないからよぉ」


 そんなことよりぃ、と。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()アリスは近くに控えていたメイド服姿の女を手招きして、


「メイド長ぅ。流石にあんなぼろ布同然の薄汚い格好で送り出すのもなんだしぃ、なんか良い感じにしておいてぇ」


「了解でしょーよ」


 メイド長シーズリー=グーテンバック。シルバーバースト公爵家がお家取り潰しとなった後の再就職先でもメイド長として出世してみせた彼女が恭しく礼をする。



 ──そんな彼女の姿を天井に張りつく女が鼻息荒く見つめていた。



『魔の極致』第五席ルルアーナ。ピンクのふりふりに白のもふもふを加えた女は他者の能力を魔法道具と纏めて姿を隠し、メイド長を観察しているのだ。


「むらむらなんだゾ。今日もシーズリー様は凛々しいんだゾぉ……」


 じゅるり、と涎を拭う彼女の横では雷を用いて視覚情報に干渉、同じく姿を隠す『クイーンライトニング』兵士長レフィーファンサがぶるぶるっと背筋を震わせていた。


「玉座のアリス、ああ格好いい……尊い、やばい、もうムリ」


 ルルアーナはともかくレフィーファンサは想い人と共に過ごすこともできるだろうに、それはそれとしてストーキングする快感に目覚めて後戻りできなくなっているということだ。


 そんな彼女たちに並ぶは『魔の極致』第十席チューベリー。妙齢の裸エプロン女は目元に浮かんだ涙を拭い、


「ぐすっ。好きな人とまた会えたばかりか共に歩むことができるだなんて、ううううっ。良かったねイリュナちゃんっ」


「今すぐ、今すぐにでもシーズリー様押し倒して、あの凛々しいお顔を快感と嫌悪で歪めたいんだゾぉおおお!! ぞくぞくう……っっっ!!!!」


「ムリ、本当ムリ」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() というミーナのアドバイスがきっかけであった。


『魔王』はやはりどこかズレていた。まあそれをナイスアイデアと受け入れるチューベリーもまたズレているのだが。魔族とは皆そうなのであろうか。


 ……そんな魔族たちと並ぶレフィーファンサはなんというか、その、アリスの連れらしいとも言える。


「きゃあーっ! イリュナちゃんなになにそんなシェリフィーンが指を絡めてきたのが嬉しいのそんなに笑っちゃって、まあまあっ!!」


 ナンダカンダと幸せそうにしているからそれでいい、のだろうか?



 ーーー☆ーーー



「…………、」


「ねーさま、これで足りない一つの要素が埋まってハッピーエンド?」


「妹ちゃん、そんなわけないでしょう。なんで、そんな、どうしてそうなるんですかあっ!!」


「ねっ、ねーさま、ご乱心なのっ!?」

新作始めました!

色々とばら撒いた伏線もどきが回収されていくと思いますので、できれば下のリンクから読んでいただければと思います。


……ミーナやキアラといった『魔の極致』の面々や仲良し決定戦の面々、アリスやヘグリア国国王のようなクソッタレ連中など収集つくかどうか不安な大所帯となる予感がありますが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛なんて多かれ少なかれ何処か歪んでいて、誰もが誰も「正しい」より「大好き」のが大切なもんです、てか悪徳だの何だの言い出したらミーナやキアナは恋できなくなっちゃう! この、他の作品なら無理に…
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