短編 過去がどうであれ
ネコミミ女兵士・ミケは獣人、それもケットシーの血を継ぐ唯一の女の子である。
彼女の両親にしてケットシーの血脈は霊峰の奥地にある獣人の村の長であり──暴威を振るう支配者であった。
昔よりはマシとはいえ、純粋な人間でも魔獣でもない獣人は半端者として差別されている。迫害から逃れた末にようやく作り上げた獣人たちの楽園は、しかしケットシーの血を継ぐ者という上位の存在によって崩された。
ミケの力は他者を軸としたものであるので直接的暴威が感じられずにわかりにくいかもしれないが、かの『勇者』の力さえも取り込み掌握可能な時点でポテンシャルの高さが窺えるというものだ。
なら、その方向性が個による強さに寄っていたならば? ケットシー。悪魔や天使とも異なる、妖精という伝説の血を継ぐ力は獣人たちの抵抗を軒並みねじ伏せ蹂躙することなど容易かった。
村人には逃亡防止のための精神を支配する首輪がつけられ、支配者の命令には逆らえなくされた。奉仕と評して美男美女は両親の手によって消費され、豪華な家や食べ物を用意するために幾人もの獣人が過労死し、ストレス発散のために殺されたりしていた。
そんなことが、ミケが物心つく前にはあったらしい。らしい、と曖昧なのはあくまで聞いた話であるからだ。
それはまるで天罰のようだったとか。
ふらりと村を訪れた赤髪の女がミケの両親を殺したのだという。
その女は『魔王』を超えるためのレベルアップが目的だとこぼしていたのだとか。彼女はあくまで強い者のみを求めていたため、殺されたのはケットシーの血を継ぐ両親だけだったらしい。
暴君の支配から解放された村人たちは女に感謝を述べたらしいが、女はといえば弱い奴には興味ないと吐き捨てて去っていった。
一連の出来事の間、まだ物心つくか否かくらいの幼いミケは家の中に放置されていた。ケットシーの血を継ぐ、暴君の娘。両親は強い者を求めた女の手で殺されたが、未だ幼く弱い彼女のことを女は認識すらしなかったのだから。
そこからミケの地獄は始まった。
物心ついた彼女の始まりの記憶は村の中心に縛りつけられ、殴る蹴るの暴行を受けながらも死なないよう合間に回復系統のスキルをかけられるといったものだった。
ミケの力があくまで任意によって他者の力を束ねることであったのも不幸であったか。抗う力はなく、ただたた村人の憎悪を一身に受けるしかなかった。
暴威振るいし支配者は死んだ。
だが、憎悪は残る。
その捌け口としてミケは嬲られ続け、そして──ある日、いつものように村の中心に縛られて殴る蹴るの暴行を受ける……かと思ったその時、一人の獣人が言ったのだ。
『そいつ、身体だけはイイな』、と。
村人たちにとってミケを痛めつけるのは正当な行いである。ゆえに欲望を発散するのもまた正義である。
ケットシーの血によるものなのか、齢十の半分に届くか否かの彼女は妙齢の女性のようなグラマラスな体型をしていた。美女と呼んで差し支えない身体に欲望を隠しもしないクソ野郎が腕を伸ばし、ぼろ布同然の服では隠し切れていない胸部を掴もうとする、その瞬間、
『きゃは☆ やり甲斐のない毎度の汚れ仕事にやる気注入してくれてありがとねぇ』
ボッバァンッッッ!!!! と爆音が炸裂した。クソ野郎が紅蓮の猛火に呑み込まれ、肺を焼かれたのは絶叫さえ漏らすことなく薙ぎ払われていった。
『な、なんだ、お前!?』
『なんだってぇ? クソ王子が霊峰に別荘建てるっつーから「お掃除」押しつけられた汚れ仕事専門のクソッタレだけどぉ??? 本当はクソ王子に内緒で「お掃除」じゃなくて退去を命じてぇ、新天地用意する予定だったけどぉ、幼い女の子痛めつけるクソ野郎どもを野に放つわけにはいかないしぃ、殺処分するってわけぇ』
猛火と共に降り立ったのは分厚い鎧を纏ってもなお幼いミケよりも小さな女であった。彼女は腰の剣を引き抜き、ミケの拘束を斬り裂く。
猛火の余波を浴びて気絶した彼女を優しく地面に寝かせてから、その手に握った剣の切っ先を村人たちに突きつける。
『待てっ。お前は誤解している!』
『そうだっ。その女は俺たちを虐げてきた長の娘なんだっ。その女にはあの忌々しきケットシーの血が流れ──』
『はぁ』
断ち切る。
呆れたようなため息と共に女は言う。
『その辺の事情はぜーんぶ調査済みだってぇ』
『なっ!? 知っているならば我らの正当性も理解でき──』
『できるわけないよねぇ』
轟音が炸裂する。
何事か言っていた獣人の顔面に拳を叩き込み、木っ端と粉砕する。
『そのガキがお前らに何かしたってわけでもないのに散々好き勝手やってくれてさぁ。こちとら正義の味方でもなんでもないからぁ、やられたらやり返す「まで」ならじゃんじゃんやっちゃえってスタンスだけどぉ、血が繋がっているだけの無関係な女の子まで痛めつけるのを良しとするほど見境ないクソ野郎を擁護する気はないわねぇ。被害者ぶって悪意ぶつけていいのは最低でも当事者のクソ野郎にまでぇ。そこから先に矛先を向けたならばぁ、その時点で新たなクソ野郎が誕生するだけよぉ』
というわけでぇ、と。
正義の味方でも何でもないクソッタレはこう続けた。
『クソ王子の要望通りぃ、クソ王子が嫌う獣人は皆殺しってことでぇ。いやはやぁ、わっちの点数稼ぎのために生まれて死ぬ人生だなんて哀れだねぇ』
ーーー☆ーーー
『いぇい大虐殺ぅ☆』
『うっわ、これは酷い。村中真っ赤じゃねえか。いくら点数稼ぎのためだからってやりすぎじゃね?』
『きゃは☆ どうせ殺すんだしぃ、だったらクソ王子の評価上げるためにできるだけ惨たらしく殺さないとぉ。文句あるならぁ、こんなもので喜ぶクソ王子によろしくぅ』
『クソッタレめ。で、そのグラマラスボディはどうすんだ? 点数稼ぎのためならそいつもぶち殺すべきではあるが』
アリス=ピースセンスはその背中にミケを背負っていた。サイケデリックな光景を見せないようにと最初の猛火の余波をわざと浴びせて、怪我をさせることなく意識だけを奪った獣人である。
『ケットシーの血を継ぐ者をぉ? そんなもったいないことしないってぇ。どんな風に開花するのかは未知数だけどぉ、どうせなら保護してぇ、恩を軸に言うこと聞く素直で便利な手駒としないとねぇ』
『いつものようにお前の影響下にある孤児院送り、か』
『まぁねぇ』
『表立ってお前が孤児院から出た奴らに接触している様子はないんだが? というか孤児院の連中はお前に助けられたってのも知らないようだがどうやって恩を盾に手駒とする気だ???』
『……、きゃは☆』
『はぁ。どっちつかずなクソッタレなことで』
もしもアリスに誤算があったとすればケットシーの血を舐めていたことか。孤児院に預けられたミケは、しかし気を失う前に見た姿や匂いを頼りにアリスを探し出したのだから。
アリスのような誰かのために行動できる人になりたいと──変に美化されている気がしないでもなかったが──そう言うならと特に誤解を解くことなく受け入れるからこそアリスはどっちつかずのクソッタレなのかもしれない。
何はともあれ、獣人を下等生物と嘲る第一王子にバレないよう隠蔽した上でミケは『クリムゾンアイス』に入隊することとなる。『クリムゾンアイス』は誰かのために戦うことができる正義の味方の集団なのだと誤解したまま、アリスのように格好良く誰かのために行動できる生き様を目指して。
……ちなみにアリスが国単位で変に美化された結果、しまいには女王にまで担ぎ上げられ、アリスが兵団を務めていた『クリムゾンアイス』もまた目立つこととなったために人気取りのために『クリムゾンアイス』は清廉潔白なのだと示す広告塔として担がれていたりする。
ーーー☆ーーー
「またたびアタックぅっ!!」
「にゃっ!?」
ヘグリア国が中枢、主城でのことだった。
アリス=ピースセンス脱走(女王就任から一ヶ月、通算25回目)の最中であった。憧れではあるが、それはそれとして公務が嫌になって脱走したのだろうアリスを見逃すわけにはいかないと偶然居合わせたミケが張り切って捕まえようとしているのにキアラが付き合っている形である。
分厚い鎧で肥大化したアリスが煙幕のようにばら撒いた何かがネコミミ女兵士やキアラに直撃する。
ぶわっ! と赤髪を靡かせ、かつては強者を倒し経験値とすることで『魔王』の力さえも獲得するほどにレベルアップしたキアラの腕の一振りで煙幕が散らされる。
その時にはアリスは主城の長い廊下の曲がり角を曲がったところだった。
「チッ、ワタシとしたことが平和ボケしてからに。ミケ、大丈夫? さっきのは毒性とかなさそうだから問題ないとは思うけど」
「……ひっく」
「……ひっく?」
曲がり角の先では『よっしぃ、ミケ使ってキアラ封殺間違いなしぃ! これで逃げられるぅ!!』『見つけたのっ。さっきのはどういうこと!? なんでミュウさんと生まれたままの姿で抱き合って寝ていたのお!?』『げぇアイラぁ!? 違う誤解よねぇっ。あれはぁ、そのぉ、脱衣チェスで互いに衣服を全て失った最終ラウンドでミュウの奴が負けそうになった途端にチェス盤をひっくり返したから詰め寄っていただけでぇ、そりゃその際色んなところがアレやソレやとなっていたかもだけどそれはあくまで単なる事故でだから待ってなんでぞろぞろ増えて兵士長はまだしも「勇者」や第五王女なぜかいつもいる気がするけどそんなに暇じゃないはずよねぇ待って待って黄金の力を風や電撃でコーティングしてって一つならまだ何とかなったけど三つ同時はハードすぎる流石に壊れちゃっ、って、あ、アイラさん? 正直に白状して謝らないと絶対許さない? …………、本当は悪ノリしましたはじめは事故だけどお酒も入っていてだからそのいやでも一線は超えてないしあくまで単なるスキンシップだしわっちもミュウも相手いる身だからその辺はきちんとしていたんだからぁっ。あ、そうそうわっちってば今は女王だしこんなの他の国の王もやっていることだよねぇというか今だって複数人と関係持っているんだものセーフよねぇセーフギリギリセーフぅっ!! ん? うわ待って待って待ってなんで黄金の力に風や電撃コーティングしたグロテクスなの持ち出すのアイラは止める側じゃん常識人枠だったじゃぁん!?』『せめて謝ってよばかあっ!!』などと騒がしいが、キアラはそんなものに構っている暇はなかった。
ミケの様子がおかしい。
というか、すっげぇ色っぽい!!
「にゃぁふぅ」
「ミケどうし、わっ!?」
とんっ、とぷにぷにの肉球で押されて、廊下の壁に寄りかかるように押し倒されるキアラ。レベルアップ等の特異にして絶大な超常はミーナによって抹消されたとはいえ、『魔の極致』第二席に君臨する実力に陰りなし。『勇者』と対等に殴り合えるだけの膂力を持ち、アリス=ピースセンスが百パーセント不可能と予感した運命だって覆すポテンシャルを秘めている……くせに、であった。
それもこれもとろんと目元を蕩して、半開きの口から熱い吐息を漏らしたミケが迫ってくるのが悪い。そんなの抵抗なんてできるわけない。
「あ、あの、ミケ?」
「ふぅ、にゃっ、ぁふっ……」
熱い吐息と共にミケがそっとキアラの胸板へと寄りかかる。それだけでキアラの脳髄に甘い痺れが走る。
「み、みみ、ミケ!? いやあの本当どうしたのいきなり過ぎるいつもはちゃんと前振りあるのに心の準備くらいはさせてくれるのに!?」
「……好き」
「ふあ!?」
「好き、にゃあ。好き、スキ、大好き……にゃぁ」
「あ、あの、その、ええと……ワタシも、そのす、すす……同じ、気持ちだから」
耳元に顔を近づけて、甘く噛みつくようにしっとりと好意が伝えられる。突然のことに対処できず、あわあわとキアラの両手がミケを抱きしめようとして虚空を泳ぐ。
好きの一言も返せないヘタレが抱きしめるなんて自分からできるわけもなかった。
と。
ぽつりと、呟きが一つ。
「私が、隠し事……していても、にゃ?」
「隠し事?」
「そう、にゃ」
雨に打たれた子猫のように、弱々しくミケは言う。
「私は悪い奴らから生まれたんだにゃ。誰にも歓迎なんてされなくて、痛めつけて少しでも憎悪を発散するためだけに存在していて、だから、本当は、誰かに好きになってもらう資格なんてないんだにゃあ。あ、はは。いつかは言わないといけないってわかっていて、それでも、キアラと一緒の『今』が壊れてしまうんじゃないかって怖くて今日まで言い出すことができなくて……ごめんなさい、にゃあ」
「…………、」
普段の陽気な雰囲気はどこにもなかった。
どうして突然こうなったのかは不明だが、おそらくは今のこの姿こそ陽気な雰囲気で覆い隠したミケの本音なのだ。
詳細は不明だが、何か負い目があるのだろう。悪い奴らから生まれたがために憎悪を発散するためだけに存在するのだと、どんな想いでそんなことを言ったのか、どこまでいっても魔族であり、どこまでいっても悪意を濃縮したような怪物であるキアラでは正確に察することはできないが、
「ミケ」
「っ」
両肩に手をやり、引き剥がすように距離を取り、ミケと見つめ合えば、そこには怯えが滲む瞳があった。
嫌われるとでも思っているのか。
それは、なんとも、見当違いな怯えだろうか。
「なーに馬鹿なこと言っているのよ?」
ぷにーっと両肩から離した手でミケの頬を左右から引っ張るキアラ。『にゃっ、にゃふあ!?』と目を白黒するミケへとキアラは呆れたように、そう呆れしかない声音でこう言った。
「ミケが過去に何をしたのかは知らない、というかもしかして悪い奴とやらから生まれただけでミケ自身は何もやっていない感じ? まあどっちでもいいけど、目の前にいるの誰だと思っているわけ?」
「誰って、大好きなキアラだにゃ」
「ぶえっふあ!? ごほげほっ。そ、そうよ、キアラよ。こちとら六百年前の戦争に参加したり、大陸だろうが惑星だろうが宇宙だろうが吹き飛ばしたんだよ? ミケが何をそんなに気にしているのかは知らないけど、ワタシよりも悪い奴なんて早々いないんだからっ」
頬から手を離し、ミケの身体を抱き寄せて、どこまでいってもドス黒い怪物であり、それでいて少しは変わった女は迷いなく己の想いを伝える。
「そんなワタシを、どうしようもない悪党をミケは見捨てなかった。好きを貫いてくれている。ワタシだって同じだよ。ワタシの過去がどうであれミケの好きの気持ちが変わらなかったように、ミケの過去がどうであれワタシの好きの気持ちは変わらない。何があっても、絶対に、ワタシはミケのことが大好きなんだからっ!!」
「キアラ……。ありがとう、私も大好きだにゃあ」
じわり、と滲み、流れた涙が触れ合うキアラの身体に染み込む。抱きしめるミケの身体が震え、嗚咽がこぼれていた。
と、そこで終われば良かったなあで済んだのだろうが、そんな綺麗な終わり方をするほどお行儀が良いわけもなかった。
そっと。
キアラの首元に顔を埋めたミケの舌が動く。人間と比べてざらざらとした舌が粘着質な音を立てて『勇者』の一撃だろうが生身で受け止められるとは思えないほど柔らかくきめ細やかな肌を流れていく。
ぞくぞくと、背筋に嫌悪とは真逆の震えが走り抜ける。
「にゃ、んっ」
「わふっ!? あれ、あの、ミケ、何を!?」
「キアラが悪いんだにゃ」
ぷにぷにとした肉球が飛び跳ねるキアラの身体を抱きしめ、拘束する。もちろんキアラが本気ならどんな拘束でも跳ね除けることはできるだろうが、好意という鎖で雁字搦めとなっては身動き一つできやしないものだ。
というかとっくに甘美な衝撃に腰が抜けていた。
「あんな風に熱烈に好意をぶつけられたら、我慢なんてできるわけないにゃあ」
「み、みみ、ミケ待ってここお外だからっ。前みたいに誰にもバレないようにってならともかく、こんなところで始めたら絶対バレるって!」
「見せつけてやればいいにゃっ」
「流石にそれはまずいよっ」
「にゃふうん。そんなこと言って、なんで逃げないんだにゃあ?」
「うっ。そ、それは……せめて人目につかないところに移動してから──」
「キアラ」
じっと。
首元から顔を離したミケがキアラの目を見つめる。未だ涙が残るけれど、塗り潰すように蕩けてドロドロになった、それ。隠そうともしない情熱のままに甘い声が響く。
「私は今すぐにキアラが欲しいんだにゃあ。本気で嫌だったら押し退けていいから、にゃ?」
「……う、ううっ」
ゆっくりと近づくミケに対して、キアラは迷うように瞳を彷徨わせるが、本当に嫌ならすぐにでも押し退けていたはずだ。
だから、最後にはぎゅっと目を閉じて唇を差し出すのは必然だったのだろう。そんなキアラに可愛いにゃあっと囁けば、頬どころか首まで真っ赤にしてぶるるっと甘美に震える。
心の準備ができたならば、後は湧き上がる本能のままに互いを求めるだけである。
ーーー☆ーーー
脱走したアリスを探すよう宰相に頼まれた『クリムゾンアイス』のクソッタレどもは廊下の先の光景を見て、そそくさと踵を返していた。
最近はクソッタレどもの悪評をミケの清廉潔白さで中和して女王が兵士長と管理していた『クリムゾンアイス』の評判が落ちないようにしているようだが……、
「十歳は超えていたっけか。いやはや、あの歳でああも欲望にまっしぐらなのを清廉潔白っつって矢面に放り込むしかない、か。本当『クリムゾンアイス』ってばロクなのいねえなっ。あっはっはっ!!」
「ちょっ、ちょっと覗いていっても良くねえか?」
「別に止めやしないが、待っているのはサイケデリックな末路だとは思うぞ。俺が思うにキアラってミケがいるから大人しいだけで、本質はメチャクチャドス黒いっぽいし。それこそ俺らなんかよりずっとな」
「ミケいないと酷いもんな、あいつ。アリスに送り込まれた刺客を文字通り握り潰してああもう返り血で汚れたじゃん最悪とか吐き捨てるし、いくら敵だからって泣いて謝ろうがそんなことするくらいなら襲ってくるなと一蹴して粉砕だしさ。おっかないなあ」
「なんでもいいが、アリスはどこいった? あいつが脱走して困るのは俺たち──」
と。
なんか聞こえた悲鳴というか鳴き声というかとにかく悦に浸った色が乗った、その、あれな声にクソッタレどもは疲れたように額に手をやる。
「まったく。いいご身分だな。主城内部、それも廊下で堂々とハッスルするだなんて歴代の王が泣くぞ」
「あー羨ましいっ。俺も純愛がしたいなあっ!!」
「純、愛……なのか???」
今日も今日とて世界は平和であった。




