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悪役令嬢のメイドさん〜お嬢様が婚約破棄されたので、イチャラブスローライフに突入です〜  作者: りんご飴ツイン


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短編 前と今、その差

 

 それはセシリーがミーナを拾ってきてしばらく経ったある日のことである。



「ミーナ、ここには慣れましたでございますか?」


「…………、」


 こくり、と小さく頷く無表情少女。

 その頃のミーナはさしものセシリーでも表情や声音から感情を読むことができず、またメイドとしての技能習得速度はまずまずながらにやらかすことが多かった。


 最たるものといえば私兵にちょっとお茶でもどうかと絡まれた時に叩きのめしたことか。そこらの兵士よりもよっぽど強いはずの私兵を複数人瞬時に叩きのめしたというのだから、その実力には得体の知れないものがある。


 セシリーが庇ったのもあるが、幸か不幸か当主が身辺警護としても使えるとして大事にしなかったから良かったが、その一件でミーナが追い出されていてもおかしくなかった。


「セシリー」


「はい、なんでございますか?」


「アタシ、迷惑?」


 それはセシリーの私室で紅茶を嗜んでいる時であった。立っていられると落ち着かないと、一緒に紅茶でもどうかと誘って、しばらく紅茶を嗜んでいた時に、ミーナがそう問いかけたのだ。


「どうしてそう思ったのでございますか?」


「お嬢様、何考えているか分からない女、拾ってきたと、……噂に、なっている、から」


「……、へえ」


「迷惑、なら……出て行く。あの人、『衝動』の外にこそ、価値あるものがある、と言っていたけど……セシリーに、迷惑、かけたくない、から」


「まったく、ミーナったら」


 無表情で平坦な声音の少女であった。初めからして空間が裂けたような到底現実とは思えない現象と共に現れ、成り行きでメイドとして雇った後も度々ズレたことをやらかしていた。


 公爵家が長女が周辺を任せるメイドとしてふさわしいとは言えないかもしれない。それでもこうしてそばに仕えてもらっている。


 どうしてか、その答えには未だ至らないけど。

 今この瞬間、言えることがあるとすれば。


「迷惑なんてことはないでございますよ。わたくし、ミーナと出会ってから毎日が楽しいのでございますから」


「楽しい……」


「ええ。ミーナはどうでございますか?」


「わから、ない。そんなの、わからない」


 だけど、と。

 無表情ではあるが、わずかに、ほんのわずかに困惑したように、ミーナはこう答えた。


「迷惑かけたくない、とか、セシリーのそばだと安心する、とは、思う」


「だったら出て行くことなんてないでございますよ。嫌になったなら別ですが、ここにいてもいいと思っていてくれるならばずっといてくれていいのでございます」


「そう……。セシリー。ありが、とう」


 ふと。

 セシリーの顔を覗き込んで、いつもの無表情ながらにほのかに声音を震わせてそう言うミーナの姿にセシリーはびくりっと肩を跳ね上げていた。


 なぜこんなにも胸が暖かくなるのか、その理由にまでは気づけなかった。



 ーーー☆ーーー



「……、夢でございますか」


 なんてことない日常の一コマであった。過去のそんな様子を夢と見るくらいには、セシリーにとってミーナとの日々の記憶はなんだって特別なのかもしれない。


 そこまで考えてセシリーは『うっうふっうう!』と悶えて、ぼふぼふっと枕へと拳を振り下ろす。結婚式が終わってから三年が経ったある日。そう、もう三年も経っているというのにミーナのことを考えるだけで心臓のドキドキは収まらず、というか、日に日に増している有様であった。


 それもこれも全ては、


「セシリー様、お目覚めですか?」


「ひゃっふ!?」


「お目覚め、みたいですね」


 扉の先からの言葉にセシリーが全身を震えさせたと共にであった。鍵を閉めていようがお構いなしに転移で目の前に出現したミーナの両手ががばりと襲いかかる。


 つまりは、


「妻とはおはようのキスをするものなんですっ」


「まっ待って朝からそれは、ふっんふう!?」


 ガッチリとホールドしてから、真っ直ぐに唇を奪われた。夜あれだけしたというか、結婚式終わってから交わってばかりだというのに、こうして唇を重ねるだけで全身が熱くなるのだからいつまで経っても慣れそうになかった。


 一応朝だからか、一分程度と控えめに終わらせてくれたミーナが唇を離し、ぐーっとさらに強くセシリーを抱きしめる。


「おはようです、セシリー様っ」


「え、ええ、おはようございます、ミーナ」


結婚から一周年で改めて達した『初夜』の後からなんだか色々と吹っ切れたというか、前と比べてガツガツ迫るミーナに若干気圧されながら、別に嫌ではないというかちょー嬉しいのだからセシリーもまた結婚生活というものに浮かれているようだ。


「それではセシリー様、朝食といきましょう。もちろんいつも通り『あーん』は譲れません。何せセシリー様はアタシの妻ですもの、妻に『あーん』するのは普通のことですものっ」


 ああ、だけど。

 一つだけ言わせてもらうならば、


「ミーナ昔はあんなに控えめだったのに、随分と積極的になったでございますよね!?」


「っ。も、もしかして、いや、でした?」


 と。

 不安そうな表情でそんなこと言われては、


「嫌なわけないでございますよっ。ミーナがしたいことになら何にだって付き合うでございますっ!!」


 そう答えるに決まっていた。

 もちろん本音ではあるのだが、


「そ、そうですかっ。だったら、えへへ。今日は、その、前々からしたいと思っていたあんなことやそんなことをしてもいいですか? いいですよね、ね!?」


「いや、あの、常識の範囲内で、ございますよ? 最近夜のアレソレがなんだか激しいというか、これ本当に普通なのかと疑問に思うレベルになっちゃっているし、とにかく普通で! 常識の範囲内でお願いでございます!!」


「えへ、えへへ、えへへへへっ」


「うっわ、メチャクチャ良い笑顔なにそれ惚れ直しちゃうでございます。……じゃなくて! ねえミーナ聞いてお願いだから聞いてでございますう!!」


 前のミーナに不満があるわけではないが、こうして目に見えて幸せそうに笑っているミーナの姿に喜びを覚えるのは確かではあった。


 それはそれとして最近のセシリーの悩みはミーナが裸エプロンだなんだとどこ基準の『普通』かわかりゃあしねーのを嬉々として提案してくることだったりする。


 おそらく今のミーナの様子だと今日もまたそういった『普通』とはズレた提案をしてきそうであった。


 ……その辺結局どうしているのか、には、ミーナの押しには弱いとだけ記しておくとする。

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