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悪役令嬢のメイドさん〜お嬢様が婚約破棄されたので、イチャラブスローライフに突入です〜  作者: りんご飴ツイン


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フリータイムその三

 

 号泣であった。膝から崩れ落ちたメイド長にセシリーは困ったように声をかける。


「そ、そんなに泣かないででございます」


「そんなの無理でしょーよっ。だってお嬢様が、お嬢様が、うわああーっん!!」


「きゃっ。もう、シーズリーったら」


 飛びつくように抱きつかれたセシリーはメイド長を優しく受け止めて、目元を優しく緩ませる。


 と。

 それを見ていたミーナが無表情ながらにぽすんと飛びついてきた。そう、後ろからセシリーを抱きしめるように。


「ミーナ?」


「なんだか、嫌でしたから」


「それって、ふふっ。そういえばミーナの嫉妬は珍しいでございますね」


「嫉妬? それって……」


「ふへっ、ふえええんっ! お嬢様も、ミーナもおっ! 良かったでしょーねーっ!!」



 もう嫉妬も何もあったものではなかった。セシリーもミーナも纏めてメイド長が抱きしめたのだから。



「……、どうしてそんなに泣いているんですか? アタシとセシリー様との関係性が変化しただけで、メイド長がどうこうなったわけではないというのに」


「そんな寂しいこと言うなでしょーよっ! 大切な人が幸せになったら嬉しいものでしょーよお!!」


「そういうものですか。……いえ、そうですね。そういうもの、かもしれませんね」


 やはりミーナは普通とはどこか違うのだろう。

 だけど、『前』と違って『かもしれない』とワンクッション置くことはできるようになった。


 少しずつでもいいから、近づきたい。

 その積み重ねは必ずやセシリーとの距離を縮めることにも繋がるはずだから。



 ーーー☆ーーー



「…………、」


 その人影は確かにそこに存在していた。だというのに、その人影を認識しようにも黒い靄がかかったように不透明にしか感じられなかった。


『魔の極致』第四席アンノウン。

 かの『魔王』ミーナでさえもその正体を識別できなかった魔族(?)であり、六百年前の覇権争奪大戦後に消息不明となっていたがために死んだものと見なされていた一人である。


 人影は地面を一瞥する。

 そこには自身を大天使と自称する女が転がっていた。


「あり、得ない……。『魔王』どころか、キアラやネフィレンスよりも下に位置していた奴にこの私が叩き伏せられるだなんて!?」


「貴様と同じく仮のランクと擬態していたに過ぎん」


 低く、それでいて女らしい清らかな声が続く。


「それより、だ。黄泉の収束点に従う気にはなってくれたか?」


「ふざ、けるんじゃ……ッ! 世界の自浄作用、我らが百合ノ女神様の邪魔となるイレギュラーどもを撃滅するのが大天使たる私の役目よっ! この世界の下等な生命に従うことなんてないと知れ!!」


「……、残念だ。黄泉の収束点としては『黙示録』に反する行いをしたくはなかったが、回路が破損している大天使を放置することはできない。従えないならば、ここで廃棄するしかあるまいな」


「は、ははっ! 大天使を舐めるんじゃないわよ!!」


「大天使か。所詮は女神の手駒、黄泉の収束点たる我とは文字通り次元が違うのだが、そんなことも理解できないほどに破損しておるのだな」


 そして。

 そして。

 そして、だ。



 ゴグシャアッッッ!!!! と。

 小さな女の子の華奢な足が地面に転がる自称大天使の頭を踏み砕く。



「やあ、黄泉の収束点さん」


「『魔の極致』第十席チューベリーが拾い育てていた人間の女か」


「ちっちっ。今は憎悪に堕ちた悪魔だよん」


 詳細は不明なれど、これまでの事件に深く関与していたらしき自称大天使を瞬殺しておきながら、悪魔と語る女の子はなんでもなさそうに立てた人差し指を横に振りながら、


「お母さんはどこ?」


「愚問なり。ここまで辿り着いたならば、理解しておるはず」


 アンノウンは言う。

 致命的に、悪意のままに。



「これまでの物語において解明されていない『一点』、その先に決まっている。とはいえ、貴様が望む形で残っているとは限らんがな」



 直後の出来事だった。

『魔の極致』第四席アンノウンと悪魔の女の子とが激突した。



 ーーー☆ーーー



『魔の極致』第六席ランピーラは次元を超越する。まるで近所に出かけるように世界を股にかける少女は『魔王』の孤高の強さに憧れていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()。そう望んでいたというのに、『魔王』は『勇者』に敗北した。


 いいや、本気であれば『勇者』なんて瞬殺だったはずだ。そうできなかった心の弱さが、迷いが、『魔王』から純度を奪っていた。


 であれば、だ。

 純度を高めるためには、迷いを断ち切ればいい。


「『魔王』様、しばしお待ちください。その迷い、必ずや断ち切って、孤高の強さを取り戻してあげますから。だから、だからさ、現在のその様は迷いのせいだとしても、二度も私をガッカリさせないでよ? 二度もだなんて、私、我慢できないからさ」



 ーーー☆ーーー



 そういえば悪魔王復活の際にキアラがミケを半殺しにした件はどうなった?



「フッ──!!」


「チッ!」


 ビッ! と漆黒の剣がキアラの頬を掠める。振り抜いた勢いのままアリアの蹴りが飛ぶ。ガヅッ! と腕で受け止めたキアラが地面を靴底で削りながら後方へと滑る。


「くすくす☆ なんだか動きが鈍い気がするですね」


「言ったはずよ。ミケが激しくてろくに寝れていないって。流石のワタシも寝不足だと力は半減するわよ」


「へえ。それは……」


 そこでアリアは気づく。薄い紫のネグリジェという大胆なスケスケの奥に覗く『痕跡』に。


「ええと、『そういうこと』ですか?」


「そうね、多分予想通りよね」


 思い出されるのはミーナの力がミケの負傷の一切をなかったことと抹消した、その後。


『キアラ、どうかしたにゃ?』


『どうか、した? なんでそんなこと言えるのよ? ワタシが、この手で、ミケを殺しかけたのに!!』


『キアラ、それならよくわからないけど治ったから別にいいにゃ』


『良くない! 良く、ないよ……。そうよ、ワタシはこういう生物だもの。駄目だったんだよ。望んではいけなかったんだよ。だって、ワタシは大陸も惑星も宇宙さえも消し飛ばすことができるようなバケモノなんだから。ワタシのような奴には殺し以外の道は選べない。退屈から脱却できたとしても、望んでなんていなくとも、ワタシは全てを壊してしまうのよ!!』


『にゃあっ! だーかーらーさっきのなら気にすることないにゃって!!』


『なんで!? なんでそんな、ミケ死んじゃうところだったんだよ!? なのに、なんで……』


『結果こそ全てだからにゃ。多分、アリスさんだったらそう言うはずだし、私もそう思うにゃ』


『結果、こそ?』


『そうにゃ。ほら、私は無傷にゃ。過程がどうあれ、結果は全員無事に切り抜けられたみたいだにゃ。だったらそれで十分にゃ』


『そんなの、偶然よ。ワタシは絶対にやらかす。いつか、きっと、この手で大切な人を殺してしまう!! だから、その前に手放さないといけない。ワタシのようなバケモノはミケから離れないといけない。そうしないと、そうしないと!!』


『にゃっはっはっ! キアラ、ちょっと歯ぁ食いしばるにゃ』



 べぢんっ!! と。

 ミケの平手がキアラの頬を打ち抜く。



 魔族の精鋭、ナンバーツーたるキアラにとってはダメージにすらならない威力ではあったが……不思議と、ズシンと魂に響いた。


『戯言終わりにゃ? それとももう一発必要かにゃあ???』


『み、け』


『私はキアラと一緒にいたいにゃ。キアラはどうにゃ? 余計なアレソレは抜きに、キアラの本音を聞かせてにゃ』


『ワタシ、は……ワタシだって、一緒がいい。だって気づいたんだもの、幸せとはこういうものだって。退屈だったのはそばに誰もいなかったからだって! この温もりを、「好き」を、失いたくないに決まっているじゃん!!』


『だったら、それでいいにゃ』


『だから、それだとワタシの手でミケを殺しちゃうんだよ!!』


『だったら、そうならないよう頑張ればいいにゃ』


『がん、ばる?』


『そうにゃ。今がそうでも、これからもそうである理由はどこにもないにゃ。生物とは成長するものなんだからにゃ』


『それは、でも……こんなワタシでも、変わることができると、本気で思っている、の?』


『少なくとも、初めて出会った頃と比べてキアラは変わったにゃ。その忌避感こそ、変化の証にゃ。だから、大丈夫にゃ。想いがあるなら、後は前に進むだけにゃ。ミケも手伝うから、一緒に頑張ろうにゃ』


『ミケ、ワタシは、ワタシ、は……』


『というか、こんなにも人の心をかき乱しておいて逃がすとでも思っているんかにゃあ?』


『ん? あれ、ミケ? なんだか様子がおかしいような』


『我慢してきたんだにゃ。普通は一目見て気に入ったならばそのままってのが獣人の流儀なんだけど、人の世に合わせて我慢してきたんだにゃ。それなのに離れるって、たかだかちょっとミケを殺しかけたくらいで離れるだなんてふざけるんじゃないにゃ。そんなこと言うなら、もう我慢なんてしてやらないにゃ。離れるなんて冗談でも言えないくらい、その身体にミケという存在を刻んでやるにゃ!!』


『ミケ、待って目が怖い! セシリーとやらを語るミーナと同じような感じになってる!!』


『こ、ここで他の女の名前出すだなんて本当キアラってば良い度胸してるにゃ。にゃは、にゃはは。まあ、いいにゃ。それも含めて、これまで我慢してきた分、全部、全部全部ぜえーんぶ発散してやるんだしにゃあ!!』


 がしぃっ!! と。

 思いきり掴まれたその手を振り払うこと容易かっただろう。単純な力量関係で言えばキアラがミケに負けることはない。


 ああ、だけど。

 火照ったように顔を赤くして、息を荒くして、目をトロンとした──そう、まさしく発情した──ミケの姿に痺れるように身動きがとれなくなった。


 そのまま流された結果、ミケの目論見通り離れようなんて考えることもできなくなったのだから身体とは正直なものである。



「ねえ、喧嘩の最中に盛っているんじゃないです」


「ぶっ!? なっ何を言って、はぁん!? ワタシは、その、ちょっと思い出してドキドキしていただけだけど!?」


「はぁ。中々歯ごたえがある格上だと思っていたけど、この様子だと牙を抜かれたみたいですね。経験数が少ない奴はこれだから、です」


「すっ少ないのがそんなに悪い!? ワタシはミケとだけ『そういうこと』できればそれで幸せなんだから!! というか他の奴がミケ以上にうまくたってどうでもよくて、ミケにされるのが良いんだし!!」


「はいはい、です。……実戦形式の暇潰しのはずが、なんで私惚け聞かされているんです?」


 ちなみに近くでその会話を聞いていたミケが我慢できずキアラを近くの茂みに引きずり込むのだが、それはまた別のお話。

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