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悪役令嬢のメイドさん〜お嬢様が婚約破棄されたので、イチャラブスローライフに突入です〜  作者: りんご飴ツイン


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フリータイムその一

 

 仲良し決定戦予選第三試合の一組目として登場していた姉妹ペア、ミリファとエリスはヘグリア国の隣国にある田舎町に帰っていた。


 何やら結婚式がどうのこうのと騒いでいた気がしないでもないが、とにかく早く『いつも』の日常に帰りたいと強行軍並みの帰郷と相成ったわけだ。


 ありふれた、平民らしい自宅が見えた時、なぜだかエリスは安堵していた。まるで寂しがりの女の子のように妹の手を握っていた姉は自身でも何でそうも追い立てられるような心地なのか理解できていなかったが。


 そして。

 そして、だ。



 自宅の前に女が立っていた。

 彼女は人差し指に引っかけた布をくるくると回していた。というか、その布はパンツだった。



「あれは、いや、まさか、あんな大胆な泥棒がいるわけ──」


「あ、私のパンツっ」


 姉の現実逃避を妹の言葉が引き戻す。そう、現実逃避。本当は一目でわかっていた。姉が妹の所有物を判別できないわけがない。それこそ同じものを並べられたってその価値を見誤るはずがないではないか。


「さて、と」


 金髪碧眼の(見た目だけなら)美しい女は頭の上で人工物のはずのウサミミをぴこぴこと動かしていた。


『誰か』は言う。


「もー遅いよねっ。あんまり暇だったから、ちょろっと残り香で手慰めと洒落込んでいたよねっ」


「……? あっ、マキュアっ! おまっ、お前えっ!! いくら()()()()だからってやっていいことと悪いことがあるでしょうがあっ!! 何ミリファのお、おおっ、おぱっ、それをっ、なんて羨ましっ、違うそうじゃないそこ超えちゃったら我慢できなくなるから!! とにかく!! それ返しなさいーっ!!」


 ゴッバァ!! とエリスが突き出した腕から炎が噴き出る。槍のように襲いかかる炎を()()()()は具現化した水のカーテンで受け止めながら、口の端をつり上げる。


「そんなに怒らないでよねー。ワタシとエリスは()()()()なんだから、笑って許してよね。ついでに信頼してミリファを差し出すべきだよねっ!」


「幼馴染みだからこそよ! 今日こそその性根を叩き直してやる! もちろんミリファのお、おぱっ、それは没収だから!!」


「だからこそ、ね。そうか、そういう風に繋がることもあるんだねっ。論理更新っと。しかし、没収って。下心丸見えだよねー?」


「ぶっぶふぅ!? なん、なに、なにが!? 下心なんてないわよっ。あたしは単に取られたものを取り返そうと……ッ!!」


「それじゃワタシからおパンツ取り返したら、すぐにミリファに返すんだよね? ねえねえ???」


「…………、ぷい」


 エリスは良くも悪くも真面目であった。

 目を逸らしたそのアクションが全てであった。


「マキュア、それにお姉ちゃんも」


「ハッ!? 違っ、今のは違うのミリファーっ!!」


「あっはっはっ! ようこそエリス、こちら側へ! これからはおパンツの素晴らしさを世に伝える同士として共に布教活動頑張ろうねっ」


「何がおパンツの素晴らしさよ! あたしはミリファのおっおぱっ、おパンツにこそ価値を見出しているだけなんだから!!」


 見事な自爆であった。

 マキュアのニヤニヤ笑いが仕組まれた末の結末だと物語っていた。


「ええと、お姉ちゃん」


「あ、ああっ、ちが、違うのよミリファっ!!」


 もう完全に手遅れな涙目お姉ちゃんへと、妹はサラリとこう告げた。


「あのパンツ、そんなに気に入ったならあげるけど」


「…………、にゃんですと?」


「あ、でもマキュアも気に入っているみたいだし、どっちがもらうか相談して決めてね」


「いい、の?」


「私のお古でいいなら、別に。私だってお姉ちゃんのお古の服をもらったりしているしね。んっ、ふわあっ。というか眠い。たまにはお姉ちゃんに付き合って外ではしゃぐのも悪くなかったけど、もう限界。寝る、ぐーたらしまくってやる、から……」


 ふらふらと。

 眠気まなこなミリファは『いつも』通りぐーたらな雰囲気を漂わせて自宅に帰っていった。ぱたん、と。玄関が閉じ、ミリファの姿が消えて、そして、


「あはっ、あっはっはっ! そう言うなら遠慮なく──」


「マキュア、それ渡しなさい」


「んぅ? ミリファは貰ってもいいって許可してくれたけどね。どんな理由でもってそんなこと言うのよね???」


「決まっている」


 ギヂリ、と。

 冒険者の中で最強は誰か? その問いに関して同業者の多くがその名を挙げるくらいには有名な『炎上暴風のエリス』は静かに、だが確かに拳を握りしめる。


 ゴッッッ!!!! と。

 風を後方に放つことで前に進む推進力として、炎を拳に纏うことで威力を底上げ──えぐりこむようにマキュアの懐へと飛び込む。


「あたしが欲しいから、それだけよ!!」


「あっはっはっ! 最初っからそう言えばいいのよねっ!!」


 ……なんというか、無条件に姉を信頼している妹には見せられない闘争が勃発した。



 ーーー☆ーーー



 仲良し決定戦予選第三試合の二組目、ピーチファルナとレイ=レッドスプラッシュはミーナとセシリーの結婚式に参加していた。ピーチファルナは詳しいことは知らないのだが、どうやらレイ=レッドスプラッシュはかつて『魔の極致』という組織(?)に属していたらしい。そのよしみで『魔の極致』とやらの頂点たる無表情メイドさんの結婚式を手伝うことにしたらしい。


 あくまでレイ=レッドスプラッシュは自分一人でというつもりだったらしいが、半ば無理矢理ピーチファルナも付き合った形であった。正直場違い感があったにはあったが、それ以上に興味があったのだ。


 女の子同士の結婚。

 法的には認められていないそれを、非公式ながらに達するほどに『好き』を貫く。その果て、あるいは新たなスタート地点はどういう感じなのか。


「ゼリシア=キラーゾーン様がナニカを生やしてシンシヴィニアちゃんと結ばれたとか、自分の気持ちを自覚してからオリミアにデレデレなケファミアとか、わたしの周りにも『好き』を貫いている人たちはいるけど……そうか。やっぱりこういった風に形にするのって大事なんだね。すっごく幸せそう」


 だったら、と。

 ピーチファルナが自分の気持ちを吐き出そうとした、その瞬間であった。



「う、うぬおおっ! レイっ、助けてであるぞーっ! いや本当助けてもうだめ耐えられないのであるぞおーっ!!」


「悪魔などに頼るからそうなるのでごぜーます。というかよくもまあそれだけの数の悪魔を虜にできたものでごぜーますよね。悪魔の得意技は堕落、ゆえにこそ悪魔を召喚した者は堕とされるのが基本でごぜーますのに、七十二もの悪魔を逆に堕としているのでごぜーますもの。ある意味『魔王』にだって不可能な偉業でごぜーますよ。くふふ☆ おめでとうごぜーます。第九位にして第一位超えでごぜーますよ」


「うぬうーっ! なんでもいいから早く助けるのであるぞーっ!! 昔、仲良く(戦争仕掛けてくる連中を)ヤッた仲ではないかーっ!!」



 ぴくり、とピーチファルナの眉が揺れる。

 仲良く、という言葉に心がざわめく。


 悪魔を使役する『魔の極致』第九席ミュウとしては(六百年前時点では)自殺さえも戦術の一つと組み込むせいで無駄に大きくなる被害に周囲を巻き込む第八席ノールドエンスや特殊な性癖が漏れまくっていた第五席ルルアーナ、他者とは利用価値のある消耗品としか捉えていない第三席ネフィレンスに最強を目指すそのためなら誰彼構わず経験値と変える第二席キアラ、そしてありとあらゆるものを一律に興味なしと踏みにじる第一席ミーナよりはマシな第七席ベルゼ(レイ)クイーンエッジ(レッドスプラッシュ)と共闘することが多かったと言いたかっただけなのだが、もちろん伝わるわけもない。


「ひどいのであるぞレイっ! あんなに熱く、激しく、ヤりまくったというのに、興味がなくなったらポイ捨てであるかーっ!?」


「はいはい、でごぜーます」


「返事が雑なんだが!? も、もしや本当に飽きたということか? 見捨てられたのであるか!?」


「ああもうそんなに泣くんじゃないでごぜーます。見捨てたりしないから、さっさと泣き止むでごぜーます」


「そっ、そうであるか! ふっふははっ! もちろん信じておったがな!! 何せ我とお主と仲であるからなっ!!」


 もう、なんていうか、誤解しろと言っているようなものであった。


 甘い匂いが漂っているのではと錯覚するほどに美しきレイ=レッドスプラッシュが誓いの言葉とやらが終わった後の──ブーケトスとやらの前の──自由時間の間に一流シェフが作り上げた料理を乗せた皿を近くの机に置いてから、ミュウの元へと歩を進める。


 ピーチファルナの好きなものだけが乗せられたそのお皿はもちろんピーチファルナに『あーん』してあげるためのものであったが──何事も言葉にしないと伝わらないし、言葉にしても正確に伝わるとは限らない。


「レイさん……」


「あっ、ピーチファルナちゃんっ。ちょっと待っているでごぜーます。荒事片付けたら『あーん』タイムと──」


「わたしは後回しなんだ。わたしよりも、そっちのちっこいのがいいんだ。そうなんだね、そういうことなんだねっ!!」


「え、え? ちょっと待つでごぜーます! 何の話でごぜーますか!?」


 さて。

 悪魔とは堕落を司る。先のミュウの言葉はピーチファルナだけでなく七十二もの悪魔もまた聞いていたとするならば、倒錯するほどに好きなミュウと仲良しらしきレイへの嫌がらせとして『堕落』の矛先はどこに向くのが自然か。


 レイ=レッドスプラッシュ当人へと、と考えたならば悪魔という種族を履き違えている。悪魔は契約を重視する。そうして契約者の大切なものを奪うことを是とする性質を持つ。


 悪魔は知っているのだ。

 矛先とは大切なものに向けてこそ効果を十全に発揮するのだと。それこそが悪意を存分に発揮するのだと。


 ゆえにこそ、矛先はレイ=レッドスプラッシュの『大切なもの』に向けられた。


 つまりは、


「ふーんだっ! レイさんのばーかっ!!」


「は、はふあ!? なんで、なんででごぜーますかあっ!?」


 負の感情の促進、または堕落へと導くエッセンス。憎悪は復讐という形で善なる心を犯し、堕落へ繋げる。ならば、そういった方面の感情を司る悪魔もまた存在するはずだ。どこぞの淫魔が色欲でもって堕落を撒き散らしていたように、異なるアプローチから堕落を撒き散らす悪魔が存在したって何の不思議もない。


 ……まあミュウの言葉に恋愛的意味が含まれていないことは堕落を司る、すなわち精神に深く関与する悪魔たちは見抜いていたので嫉妬心を煽る程度の緩いレベルで抑えていたが──それはそれとしてミュウと仲良くしているのは気に入らないに決まっていた。


「ばかばか、レイさんのばーっか!!」


「あ、かわいいでごぜーます」


 ぷくうと頬を膨らませて、上目遣いでぽかぽかと胸の辺りに両の腕をぶつけてくるピーチファルナの様子に素直な感想を漏らすレイ=レッドスプラッシュ。


 カァッ、と。

 怒っていたって魂にクリティカルしてくるその言葉にピーチファルナの顔が赤く染まる。その心の動きが全てであったが、それはそれとして面白くないとぽかぽかは続くのであった。

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