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次なる物語へと続く胎動

 

 ヘグリア国、王都。

 先ほどまで殺意渦巻く闘争が勃発していた証として『魔王』に意識を刈り取られた群衆が倒れ伏す一角。


 背中から純白の翼を生やし、動物の因子を複数組み込んだ女の子やダークスーツの無表情女を左右の脇に挟んだ──そう、『天使』としか言いようのない何かは『同類』が飛び去っていくのを見据えていた。


 習合体、と自身を呼称する『同類』は果たしてどこまで予測していたのか。イレギュラー。あの悪魔王が不要と切り捨てた魔族に一矢報いられるとまで予測していた……わけではないだろう。さしもの習合体とてそこまで万能ではない。その名声は彼女たちの頂点に君臨する創造主にこそ相応しいのだから。


「悪魔王という特大のイレギュラーは倒れたかもしれない。だけど、それすなわち『魔王』が悪魔王に匹敵する災厄へと進化を遂げたに等しいってのに……。やっぱり静観はできない。それでいて、今回のように直接的な手段に出ても被害が増すばかり、と」


 ならば、


「封殺するにしても視点を変えましょう。魔女モルガン=フォトンフィールドのように利用価値のある『新たなる金字塔』を動かし盤面を整えて、敵対することなく無力化するのが最善みたいだし。とにもかくにも()()()()()()()()()()()()()


 吐き捨て、『天使』の姿が消える。

 次なる闘争の原因因子が今回の物語の外側へと飛び出していったのだ。



 ーーー☆ーーー



(──金色の本質、真なるエーテルでもって真っ向から粉砕する必要はなくなった、と)


 低い、それでいて心に響く女の声だった。


(──これで切り捨てるまで価値が暴落することはなくなった、と。好意の強要、そこから本質がバレそうになったからと時間軸を『断絶』し、途中で粉砕した未来の時系列もありはしたが、あまり目立つ真似をしては百合ノ女神に感知されかねないし、ね)


 それはどこから響くものなのか。喉? 脳内? それとも魂???


(──『あの時間軸』では表に出すぎて露見のリスクが許容以上となり『断絶』するしかなかった。『この時間軸』では『新たなる金字塔』を実質支配していた『天使』の回路が思わぬ方向にズレて、早々に悪魔王という便利な分岐点が潰された。さて、ここからどう進むべきか)


 ()()()()はその声を認識していた。それでいて記憶してはいなかった。そういうものだと、当たり前すぎて見逃していた。


 生命について、わざわざ考える者はそういないのだから。


(──何はともあれ、完全に分岐点が潰れたわけでもなし、『この時間軸』でも赤い糸を辿り、セルフィー=アリシア=ヴァーミリオンへと行き着くとしよう)


 そして。

 そして。

 そして、だ。



「わ、わわっ!? なんかお姉ちゃんの腕が生えたーっ!?」



 ()()()()は自分で自分の腕を千切った姉へと素っ頓狂な声を浴びせていた。つい先程目覚めた姉の腕が気がついた時には損傷なんてなかったことにされたように元通りとなったのだから無理もないだろうが。


「お姉ちゃんって治癒系のスキルとか持ってたっけ? まあなんでもいいや、腕治ってよかったねっ」


「…………、」


「お姉ちゃん? どうかした???」


 眉をひそめ、じっと自分を見つめてくる姉に妹はキョトンを首をかしげる。姉自身もどうして腕が治ったのかわからないから、だと妹は結論づけた。


 果たしてそれが正しかったのか、とにかく姉は何かを振り払うように、あるいは今はまだ不明と定義して、こう言った。


「なんでもないわ。それより、ミリファ。早く帰ろうか」


「え? 仲良し決定戦は???」


「そんなのどうでもいいから、もう帰ろう。早く、いつもの日常に、ね」


「まあお姉ちゃんがそう言うなら、うん、さっさと帰ろっか!」



 ーーー☆ーーー



「う、うぬう。どうやら迷惑かけたようであるぞ。すまなかった」


 森の奥地にある建物をぶち抜いた先でのことだった。壁どころか一部天井さえも粉砕されているのはそれだけ驚異的な存在が暴れたからか。それともたったそれだけの被害で済んでいることのほうが驚異的なのか。


 人為的に作られた肉塊に悪魔の魂を詰めて召喚、総勢七十二もの悪魔を使役していた『魔の極致』第九席ミュウがしゅんと謝罪を口にするが──その時には七十二もの悪魔が一つの例外もなくミュウへと飛びかかっていた。


「ひゃふう! ミュウ様やっと見つけたわたしの魂の一欠片残さずミュウ様のモノとしてよほら今すぐにでも憑依しちゃうからもちろん主人格はミュウ様のままでえ!!」


「さあさ今こそこんな世界捨てて異界へと旅立ちましょう! 肉体などという触れ合いを妨げる邪魔なガワを捨てて、直に魂を触れ合わせて、悠久に揺蕩いましょうよお!!」


「……好き、好き……だから、私を、殺して」


「ふっはっ! 悪魔王が『分化』した今、妾たちを縛る上位存在は半身たる女王のみ!! あれは本質的に外界に興味を示さないし、場を荒らすようなことはない。つまりい! ミュウちゃん飼育観察日記作成を邪魔するとすればお前らだけってことよ、このアバズレども!!」


「ねえなんであたし以外を見るの好意も殺意も全部全部ぜえんぶあたしだけに向けてよ逃げるなんてありえないんだから逃がすわけないんだから一生一緒だもの黙示録なんて解読せずとも当たり前な真理だものだから無駄だよ何があろうとも最後にはあたしと一緒になるんだものだからほら早くきて寂しいの寒いの貴女のぬくもりが欲しいのあたしを堕落からすくいあげてくれたのは貴女なんだから逃がさない神の座なんてもうどうでもいい悪魔でいい悪魔がいい神なんて求められし理想に答えるだけの偶像でしかないものその呪縛から抜け出し自由に世界を闊歩する悪と定義されることで貴女を求めることができるのならばそれでいいそれがいいあふっ、ひゅっふひっ、だから、ひっ、はふっ、しゅき、好き好き大好きなのぉ」


「うっぬう、おおわーっ!?」


 まさに濁流であった。

 中にはかつて神と崇められていたほどに『お利口さん』だった個体もいるのだろうが、悪意と転換した結果何かが変異、あるいは素直になったのかもしれない。


 個体としての感情を隠しもしなくなった悪魔たちが一つの例外もなく『魔の極致』第九席ミュウを追い求めたのだ。


 悪意、あるいは好意の濁流が一挙に何十キロも突き抜けたのは幸か不幸か。魔族の類稀なる聴力でもそれだけ距離が開けば甘美な鳴き声を耳にする必要はない。


「足りない戦力を悪魔で埋め合わせようとしたんだろうけど、そもそも悪魔とは堕落の代名詞。どこぞの王のように『衝動』で一括管理するでもしなければ、戦力として利用できるわけないわよねえ。まあ、あんな風に悪魔を懐柔しただけでもミュウを褒めるべきなのかもだけどねえ。『好き』にはあんな使い方もある、ってねえ」


「そういえばミュウは何かから逃げていたんだゾ。それってつまりああなるのが嫌だった、と。まあどうでもいいん……ッ!?」


 びくっ!? と肩を揺らしたかと思えば、ルルアーナがその場から飛び跳ねるように逃げ出す。先の悪魔の濁流のように一挙に数十キロもの距離を飛び退いた理由は、



 大陸をミーナの力が舐め尽くす。

 ありとあらゆるものをなかったことと抹消するその力によって今回の騒動で発生した『欠損』の全てが癒えたのだ。



 ミュウや悪魔たちとの激闘で壊れた家は元通りとなった。ほどなくして気絶していた人々も目を覚ますだろう。


 つまり、


「ん、んん……ここ、は?」


 メイド長もまた例外ではない。

 この場にいるにしては不自然なルルアーナは姿を見られることでここまで尾行してきたことが気づかれるのを防ぎたかったのだろう。


「あ、起きたわねえ、メイド長。ここは今のセシリー様の住処よねえ。だから……いや、ここは退散といくべきよねえ。もう外部から手助けする必要はなさそうだし。そうよねえ、ミーナ」


「え、え?」


 呟き、メイド長を肩に担いでその場を去るノール。ほどなくして『衝動』が大陸中にもたらした悲劇の全てを『消去』してのけた女が出現する。

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