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色めく主人

 無事、というか俺の第一印象は多分無事では無いが、予定よりもグレードアップした護衛を雇う事に成功した。


 俺の好み過ぎるこの騎士、なんと住むところが無い(正確にはこの街に来たばかりでこれから探すところだ)と言うので、即座に「俺の屋敷に来い。住み込みで働け」と命令してしまった。


 つまりこの後合法で家に連れ帰ったのだが、あまり側に寄られるとドキドキしておかしくなりそうだったので、「主人の隣を歩くな」「今この時から俺がお前の雇い主だ。立場を弁えろ」とかなんとか言ってやや後ろを着いてきてもらった……ような気がする。多分そうだったと思う。

 緊張していて記憶が曖昧だが、彼は素直に従っていた。


 騎士と認められるためには、ある程度しっかりとした身分に裏付けられた、高潔さや礼儀正しさと、何より優れた戦闘能力が必要とされる。

 だからこの美形の騎士も、相当強いのだろう。

 真っ直ぐ伸びた背筋も、剣を携えて歩く姿も、騎士然として様になっていた。


 ……めちゃめちゃ格好良くないか?


 最低限、暴漢から守ってくれる護衛なら誰でも良かったのだが、タイミングに恵まれて最高級の護衛を手に入れてしまった。

 やはり俺は運が良いのかもしれない。


 どぎまぎしながら背後に全神経を集中させ、途中で居なくならないよな……と騎士の足音を耳で拾いつつ帰路に就いた。

 そして道中、俺は早速襲われた。


 慣れたくも無いが、見も知らぬごつい男どもに囲まれるという、代わり映えしない状況で、刃物を向けられ脅される。

 いつもなら凄く頑張って逃げるのだが、今日は黒髪の騎士が颯爽と動いた。


 戦いの事はさっぱり分からないので、どういう動きをしたのか良く理解出来なかったが、騎士は俺の後ろから駆け出すと、瞬く間に男たちを地面に転がしていった。

 相手からの攻撃の手も止まなかったはずだが、それをいなしつつ一人ずつ確実に倒す様は実に爽快で、剣舞のように鮮やかだった。


 一対多数だったというのに、これが素人と、国に認められた騎士の差かと、感嘆の溜息が漏れる。


「終わりました。この者たちはどの様になさいますか」


 本当に一瞬と思うくらいすぐに片が付き、さして髪も乱れていない騎士が俺に伺いを立ててきた。


「え、ああ、通行の邪魔だから、適当に端に転がしておくか……」

「かしこまりました」


 騎士の手によって、男達が道の端に寄せられていく。

 それを見ながら、俺はある事に気がついた。

 誰も血を流していないのである。

 騎士も、一滴の返り血も浴びず、倒れた男たちも、打撲のあとはあれど、切り傷は見当たらない。

 剣を抜いたと思っていたが、鞘に収めたまま戦っていたのか。


「……お前、腕は確かなようだな」

「ありがとうございます」


 一仕事終えた騎士を、今の俺なりに労ってみたが、言葉は上滑りする。

 それどころではなかった。

 さっきから、ばくばくと煩い鼓動と、表情筋を抑えるのに必死なのだ。


 見た目が好みで、礼儀正しくて、大の男数人を一人で相手にしても、剣を抜かずに勝ててしまうくらい、強い。

 ……格好良過ぎる。


 動揺して、動き出せずにいる俺を、見上げてくるこの顔がいけない。

 ただでさえ好きな顔なのに、俺より背が低くて、撫でたくなる位置に頭がある。


 駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、考えたら終わりだ。

 かわ……かわい……い、駄目だ考えるな! 無心になれ!

 彼は、彼は男で――――


「……お加減でも悪いのですか?」


 出会ったばかりの俺を、騎士が心配そうに見詰めてくる。

 ――あ、待て待て今その顔を向けられたら……


 頭の中で、ぷつんと音がした。

 駄目だった。

 こんなの……こんなの……、好きになるに決まっている!



 そうして、彼の事がどうしても可愛く見えてしまう俺は、これから苦悩の日々を送る事となりそうであった。



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