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004 推しの推しは天使だった


「主様?いかがなされましたか?」




ぽかーんとしている私の様子を訝しんだイヴィに声をかけられ、ハッとした。




てかイヴィだよね?イヴィでいいんだよね?なんでイヴィがここに居んの?夢か何かなの?




未だ混乱中の私だが、視線を彷徨わせた先に足下に置いていた鏡を発見し、そこに写ったものを見て驚愕した。




さっきまでは、「少年時代のシュレイグス様風」な姿だったはずだ。それが今現在できる精一杯のコスプレ。


なのに、今手鏡に映ってる自分はまさしく「シュレイグス様」そのものだった。


ただ単に大きく見えるとかではなく、骨格そのものから違うように見える。




まじまじと自分の手足を見つめる。


確かにさっきまでは12歳の(ちょっとふくよかな)身体だったのに。


今は細身だがしっかりと筋肉のついた体つきになっているし、身長も気のせいではなく伸びている。








「主様?」


「しばし待て」




シュレイグス様の口調を意識して返せば、イヴィは口を閉じて待つ体勢に。




困惑しているイヴィには申し訳ないが、私も困惑している。これは一体どういうことなのか…


もしや、と思い自分のステータスを見てみることにした。














シュレイグス=ロキ=テンターク   


年齢:566歳    性別:男性

種族:魔族(悪魔)  職業:公爵


Lv:225

HP:140000  MP:237000


筋力:A

俊敏:SS

精神:S

体力:S

魔力:SSS

器用:A

幸運:D


スキル:

【悪魔召喚Lv10】【暗黒魔術Lv10】【闇耐性Lv10】【房中術Lv10】【エストックLv10】【詠唱破棄】【飛行】











うん。うん…そっかぁ…私って実はシュレイグス様だったのかぁ……








って、んな訳あるかぁ!!!?




ナンデ!?なんでシュレ様のステータスになってるの!?


今私のステータス見てるんだよね!?




いやまぁシュレイグス様の本来のステータスとはちょっと違うし、スキルの数もめっちゃ少ないけど!


スキルはこの世界のスキルが7つって制限が付いてるせいなんだろうなとは思うけど!




明らかにラムダのステータスじゃないよねこれ!?今まで見てたのは何だったのか!!?

HPもMPも馬鹿みたいに多…ハッ!?今気づいたけど、体の傷が無い!どこも痛くない!?何、何が起きてるの!?


え、今の私、マジでシュレ様……シュレ様であって、「ラムダじゃない」……?









そこで私はあることに気が付いた。


私がもらったスキル、【モノマネ】のことである。




このモノマネには、確か熟練度が存在したはずである。


スキルの中には熟練度という概念が無いものも多々あるが、レアスキルのモノマネには、それがあったと記憶している。




でも、私が教会でスキルを授かった時、【モノマネ】の後ろに、熟練度を表す「Lv」の表記が無かった。

ステータスを確認した時にも、熟練度の表記を見なかった気がする。





もしかして私は、思い違いをしていたのかもしれない。




私の持つモノマネは、レアスキルと言われているモノマネとは、別のものだったとしたら?




それこそ、レアスキルよりもさらに珍しい、【ユニークスキル】と呼ばれるものだったら?




そして熟練度が無い、ということは、「制限が無い」ということだとしたら?




私が今、シュレイグス様をそっくりそのまま「モノマネ」している状態だとしたら……?










もしこの仮説が合っているなら、私は相当ヤバイスキルを手に入れたことになる。














ガサリ、と音を立てて近くの草むらが動いた。


思考の底から一気に浮上し、音のした方を向く。イヴィはすでにそちらに視線を向けていた。

多分もっと前から何かが近づいてきているのは気づいていたんだろうけど、私が待てをしていたから待機してたんだな。


ちょっとかわいい、とか場違いなことを考えてしまった。




「ブルルル……ッ」


草むらから現れたのは大きな猪の魔物、『ワイルドボア』…じゃ、ない?


違う、こいつは森の暮らしに適応した上位種の『フォレストボア』だ。


ワイルドボアに比べて体格は大きめなはずなのに、木々の合間をくぐり抜けるために筋肉が極限まで洗練され引き締まっているので、ややスマートな印象を受ける。

勿論、先ほど戦ったゴブリンなんか目じゃないくらい強い。ゴブリンが70匹くらい束になって、ギリギリ相打ちを取れるかどうかくらいの強さじゃなかろうか?


うーん、隠れ場所を求めて進んでいたけど、奥に入りすぎていたみたいだ。こんなに強い魔物が出てくるとこまで来ているなんて思ってなかった。





「主様、ここは私が」


イヴィはガーターベルトに装着されていた小型ナイフを両手に一本ずつ持つと、戦闘体勢に入る。


そこに私はスッと手をかざすことで待ったをかける。



「すまない、少し試したいことがあるのでね。この獲物は私に任せてくれないか?」


「はっ かしこまりました。」


私の意見に否やもなく即座に待機モードに戻るイヴィ。右腕の鏡である。




改めて、私は一人でフォレストボアに向き直った。

ゴブリン5匹相手に散々な目に遭った私が、フォレストボアとタイマンが張れるとは到底思えない。


が、それは「ラムダ」の話だ。


フォレストボアが目の前に現れた時、私の中に恐怖はなく、倒せるという自信があった。

実際に対峙して、それが確信に変わった。





「『亡者の手』」


徐に右手をかざして、フォレストボアに【暗黒魔術】の魔法を放つ。

すると、何もなかった場所から突然に真っ黒な腕が無数に伸びてきて、フォレストボアを掴み、巻き付いた。


ふむ、脳内に浮かんだ使用可能魔法欄には載っていたけど、ちゃんと【天地】に存在した魔法を再現しているな。


この世界の【暗黒魔法】は、はるか昔のおとぎ話で魔王が使っていた、くらいの知識しか存在しない、あるかどうか分からないスキルだ。

実際こうやってスキルとしてステータスに表示されているのだから使えないわけはないのだけど、ちょっとだけ心配だったりした。



「ブヒィッ!!?ブゴ、フゴゴゴ…!!」


突然死角から飛び出してきた腕に驚いたフォレストボアは、巻き付いてきた腕を必死で払いのける。

だがムダな足掻きだ。『亡者の手』は発動者である私ことシュレイグスが、対象であるフォレストボアより強ければ強いほど、その拘束力は強くなる。

一度捕まってしまえば最後。流石のフォレストボアも、レベル225のシュレ様が放った『亡者の手』を払いのけるほどの力はない。


なによりこの魔法の恐ろしいところは、拘束している間中HPを腕が吸い続けるところだ。

亡者は常に命の輝きを欲しているため、対象の命…HPを接触部から吸収する、というのが天地での設定だった気がする。


なので、拘束をどうにか解かなければ、いずれ対象は死亡してしまう。


天地では、これで拘束されたPCは他のPCに助けてもらうか、専用の逃走系アイテムもしくは魔法で逃げるかで対処してたけど…


フォレストボアに、そんな親切設定は存在しない。



「ウゴ、ゴ…ゴフッ」


当然とばかりに、亡者の手にHPを吸いつくされたフォレストボアは、数分と立たない内に息絶えてしまった。

ドシン、と大きな音を立てて、フォレストボアの巨体がその場に倒れ込む。亡者の手はすでに消え失せていた。




あぁ……確定だな…


私は、別人に、しかもこの世界に存在しない強キャラに変身できるような、最強チートスキルを手に入れてしまったようだ。








「イヴィ。話がある」


「はい、なんなりと」




フォレストボアで自分の能力の片鱗を確認したことである程度の混乱から抜けた私は、イヴィと話をすることにした。




というか、全部ぶっちゃけることにした。




全部というのは、私が本物のシュレイグス様ではないこと、モノマネというスキルでシュレイグス様になっていること、あとこの世界が「天地」とは別の世界であること、とにかく全部だ。




だって一人でこんなヤバイ案件抱え込める気がしないもの!隠し通せる気がしないもの!!


そのせいでイヴィがパニック起こしたりしたら申し訳ないと思うけど、「偽物が私を呼び出すなど!」て感じで怒られる覚悟はしている。



ラムダ(本来の姿)ならイヴィのワンパンで即死できそうだけど、シュレイグス様モードなら死にはしないだろう。誠心誠意謝る他ない。


シュレイグス様モードだと、何故か口調がシュレイグス様風から抜けなくてめっちゃ偉そうにしてしまったんだけどね…




ちなみに、「天地」がゲームの中の話だというのは流石に伏せた。


目の前のイヴィはちゃんと息をして動いているのに、自分の世界がフィクション扱い、はちょっとどうかと思ったので。








「確かに、その話を信じるのなら、貴方は私の記憶するシュレイグス様では無いのでしょう。


しかし、私と貴方の間には、確かに召喚による揺ぎ無い絆が存在しています。


ならば、貴方が私の主であり、仕えるべき存在であることには変わりありません」






は~~~?最高かよ。イヴィまじいい子すぎない?こんなにいい子がいていいの?天使かな?悪魔だけど。


イヴィは完全とは言えない私の説明を疑いもせずしっかり理解し、その上で受け止めてくれた。


偽物のことなんて知らない!ってそのまま捨て置かれる可能性も考えてすごい不安だったのに、イヴィの優しさに泣きそうになる。




使い方次第で恐ろしいことになりそうなスキルを持ってしまって、すごく心細かったのだ。


イヴィが味方してくれてよかった。本当に良かった。


ふわりと微笑むイヴィが女神に見える。悪魔だけど。








そういえば、といった様子で何か考える仕草をしたイヴィが、ポツリとこぼした。



「主様が偽物だと言うなら、その主様の召還術で呼ばれた私も、【イヴィの偽物】の可能性がありますよね」


「馬鹿を言うな!!お前ほどの素晴らしい悪魔が他にほいほいと居てたまるか!!シュレイグス=ロキ=テンタークの右腕が務まるのは、お前を置いて他にない!!」


これには私もおこである。

思わずシュレイグス様がしないような顔で、食い気味に声を荒げてしまった。




だってね、このイヴィを【偽物】扱いとか、無い。絶対無い。


私に味方してくれたってのもあるんだけど、最初に見た瞬間から、「あ、この人はイヴィだ」って思ったんだ。


理屈じゃない、上手く説明する自信もない。

ただ、【シュレイグス様としての私】が、彼女が隣に居ることに安心感を覚えているのだから、彼女はイヴィで間違いないのだ。



確かに、ゲームの世界から私のスキルで無理やり出した存在なのだから、ぶっちゃけ【オリジナル】ではない【レプリカ】の可能性はある。



でも、だから何だと言うのだ。ここに居るイヴィがイヴィであることに変わりはない。


モノマネしている私は偽物で間違いないけど、イヴィとしてここに存在している彼女に対して、偽物、なんて言葉は間違っても使うべきではないのだ。






なんてことを考えながら、必死の形相(多分)で否定してくる私を見て、イヴィはきょとんとし、直後に思わずといった様子で吹き出した。



「ふっ…くくっ……た、確かに、主様は私の知る主様とは異なるようですね…」



こんなシュレイグス様を見るのは初めてだ、と肩を震わせ笑うイヴィ。


なんだか恥ずかしくなってそっぽを向いたら、それも笑われてしまった。




ひとしきり笑ったイヴィは、にじんでいた涙を拭い、褐色肌を少し赤らめながらはにかんだ。




「モノマネとは言え、シュレイグス様にそんな風に仰っていただけて、光栄に思います。


…これからも、主様の右腕として、精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。」






こうして私は、この世界に置いて最も信頼できる部下兼、仲間を得たのだった。



あと、フォレストボアはそのまま【収納】に突っ込んだ。

初の!まともな戦果ですね!!ひゃっほう!


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