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志半ば

作者: 走馬灯

僕は君がため、君は僕がため、二人は共依存だった。

カーテンを閉めた暗い君の部屋に二人座って不幸を噛み締めた。

そうすれば何となく辛さが減ると思ってた。

幸せなことなんか何も無かったがそれだけは辛さを減らす物だった。

明日も君の元に行って一日を過ごして、そしてこのままいつか人生が終わるのだと、そう思っていた。

日課のように向かったその部屋をノックする。

返事が無かった。

もう一回ノックする。

返事が無かった。

僕は少し怒って『もう入るから』と言ってドアノブに手をかけようとした。

ドアノブに手をかけようとした。

ドアノブに紐が括り付けてあった。

僕は特に不審に思わずドアを開けた。

相変わらずの閉められたカーテンと散らかった部屋があるだけで、誰もいなかった。

僕は少し腹を立ててしまったことに申し訳なくなった。

外出中だったのか。

そう思い後ろを見た時、君の体が紐に吊られて宙に浮いてるのを見た。

惨状は酷かったが僕にはそれがすごく美しいものに見えて、激しい嫉妬をした。

君が、君だけで、完成している。

僕に擦り寄ってきた未完成な君が、僕を置いて完成してしまったという様な、妙な悔しさや、嫉妬だった。

警察と救急を呼んで、色々話を聞かれてその日は終わった。

だがその日中ずっと僕を置いて行った君への激しい嫉妬が僕を狂わした。

その嫉妬はきっとずっと続くことになる確信があった。

死をもって完成した君を幸福をもって完成した僕で超えてやろうと思った。

明日はきっと外に出る。人と話す。日々の目標ができた。

全ては君への当てつけのため。

君は死んだんだから意味なんてないのに。

起きた頃には昼になっていた。

外に出ようと思った。

だが外へ出ることは怖かった。

一人孤独の悲しみや恐怖や惨めさに体が震えた。

昼に出るのはやめて、まず夜から外に出てみよう。

そうやって自分を甘やかす自分を正当化しようとして、自己嫌悪に陥った。

二人で外に出ることはたびたびあった。

やはり自分は未完成で、未熟で、半端者である事を知った。

深夜になってから外に出た。

うるしを塗られたような世界にたった一人存在してるような、そんな気分だった。

誰も僕を見ないし僕も誰も見ない。

それは僕にとってとても幸せな事だった。

公園のベンチに座ると涼しい風が吹いて心地よかった。

きっとこの世の何人がこの深夜の景色を見ただろうか。

そういう経験が自分を他人と同じにさせないのだろう。

それはきっと完成への第一歩のような気がした。


次の日の夜はお腹がすいたのでパンを持って公園に行って、ベンチに座った。

そうすると足元で何かがモゾモゾと動いた。

スリスリと僕の足に体を擦り付けるそれは首輪をつけたトラ模様の猫だった。

僕はそれがすごく悲しいものに思えて、近くのコンビニで缶詰を買って猫に与えた。

勢いよく缶詰を食べる様を見てこれもまた未完成な生き物だなと感じた。

ひょっとしてこの世の生き物は全部未完成なのではないかと思い始めた。

食べ終えて鳴く猫をなでながらその夜は過ごした。

いつにも増して静かな夜だった。


ある時また公園に行こうとした夜、暗闇の道路の上で転がっている何かがあった。

スマホの懐中電灯をつけるとトラ模様の猫だった。

車に轢かれて死んでいた。

いつか抱いた思いは確信に変わる。

全ての生き物は死んで完成する。

まだ生きてるのに自分が幸せか判断するなんて物事を判断するのには早くて、それはきっと志半ばで諦めてるのと同じなのだろう。

勝てたかもしれない試合を途中で諦めた負け犬。

そんな事にも気づけなかった、どうしようもない彼女に、いったい誰が寄り添うのか。

自分だけが不幸といつから思っていた?

一人と一匹のために、今行こう。

思い切り坂を走り登っては、飛び降りた。

重力に引っぱられて、僕の体は空中から地面の岩へと引き寄せられていく。

君と僕とは共依存だった。それだけが全て。



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