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屍の冒険者  作者: 抹茶スライム
第一章
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第二話 緑色の小鬼

 

 「…魔石は人が食うもんじゃないと、食ったら死ぬぞと言われていたが…俺は大丈夫そうだな」

 

 アルバは既に人ではないので、魔石を食べていられるが、普通の人が魔石を食せば死んでしまうと言われている。

 

 「…美味くも不味くもないな。不思議な味だ」

 

 例えるなら、爽やかでクリーミーな血の飴だろうか?

 アルバは微妙な顔になりつつも噛んだ魔石を飲み込んだ。

 

 ちなみに、過去に興味本意で魔石を口に入れた人がいるようだが、その時その人は「この世のものとは思えない不味さ」と言い吐き出した話が冒険者の間では有名である。勿論、その人は魔石を一欠片も飲み込んではいないので死んではいない。

 

 

 「特に…なんともないな」

 

 自分の腹を擦りながらそう呟く。

 

 ゾンビになってからというものの、肉が堪らなく食べたい衝動に駆られるが、なんとかそれを抑えている。

 それを魔石で補えればいいがと思うアルバだ。

 

 チラリと傍らに山となっている魔石を見た。

 

 (だけど、あれを食べきるのは少し大変だな…)

 

 好物ならパクパクとすぐに食べられる自信があるのだが、と苦言を漏らすが、現実を見なければならない。

 

 「はぁ…食べるか」

 

 少し辟易しつつも、進化のためだと自分に言い聞かせ、十分後にはついに食べきった。

 

 「こんだけ食うと、流石に飽きるというか、慣れたというか…」

 

 近くにある人の死体でも食べようかと思うぐらいには空腹だったアルバは、大量の魔石を喰らうことでその空腹を満たしていた。

 実は、半分食べ終わった時点で「これ案外いけるかも」と思ったのである。

 

 そして、食べてる途中で気付いたのだが、段々と身体に力が湧いてくるような感覚があるのがわかる。

 

 「ん…?おあ!?」

 

 アルバはとあることに気付き、変な声を上げてしまう。

 

 だがそれもそのはず、ゾンビやクルトに傷つけられた身体が地味に修復していたのだ。

 

 「…魔石を食べれば、治るのか…?待てよ、この身体に回復薬はどうなるんだ?」

 

 アルバはなにも急ぐことはないが、焦った手付きで服の裏側に仕込んでおいた少量の回復薬を取り出した。

 はたして、このゾンビの身体は回復薬が効くのであろうか。魔石が人の身体に毒で、回復薬はその名の通り薬である。だが、ゾンビは魔石が薬となった、それなら、回復薬はと言うと…。

 

 「ッぐぅ…!がぁァ…!」

 

 まさしく“毒”だ。

 先程、身体が修復に向かっていたそれが回復薬を飲んでからピタリと止まってしまったのである。

 

 暫く苦しんだ後、その“毒”の効果が切れたのか、苦痛は伴わなくなったがショックは大きい。

 

 「…回復薬がダメということは、つまり、回復魔法もダメなんだろうな。…はぁ」

 

 そもそも回復薬は薬草から作られた飲み薬で、回復魔法は想像力と魔力により起こる回復である。

 双方似て非なるものであるが、どちらも言えることは生者の身体には回復効果があるということ。

 

 それはつまり死者の身体を持つアルバにとっては毒ということなのだろう。というより、アンデット故のデメリットであろうか。

 

 

 いつまでも落ち込んではいられないので、直ぐに気持ちを切り替える。

 手頃な布で剣を拭く。しかし、血糊はべったりとくっついて離れない。

  

 「とても不便だ…。街に帰りたい」

 

 だが、今の姿で街に戻れば即討伐されてしまう。

 

 「見た目死人だもんなぁ、俺だってこんなのが来たら殺すしな」

 

 一人ぶつくさ文句を言いつつも、日が傾いてきた現在時刻。夜の森をどう過ごすかを考えていた。

 

 明かりも住処もないこの状況で夜の森は非常に危険だ。

 夜行性の魔物が彷徨く時間でもある。

 

 今こうしてその場に留まっていれば、これを狙ってそこの草むらから魔物が飛び出してくるかもしれない。

 

 ――ガサリ、と。

 

 

 音がした。

 

 「…?…ん!?」

 

 一瞬、アルバはそれが想像上のことなのか現実で起こったものなのか理解するのに少し遅れた。

 

 急いで武器を構え立ち上がれば、それはそろりとこちらの様子を窺いつつ出てきた。

 

 

 それは緑色の肌、大きく尖った耳と鍵鼻。体毛などは殆どなく、全長も大人の腰くらいまでと小さい。

 その手には、お手製の荒削りの棍棒が握られている。

 

 それの名は“ゴブリン”。

 非常に数が多く、特に珍しいものでもない魔物である。

 

 冒険者ギルドの大本が定めた魔物の危険度を表す“レベル”によると、ゴブリンはレベル“1”だ。

 レベルは1~6まであり、数字が大きいほどその魔物は危険であるという意味を持つ。つまり、このレベル1のゴブリンは武器を持った少年でも勝つ可能性があるほど雑魚である。

 このレベルを定めたことにより、冒険者の死亡率はぐんと減少したという。

 

 …ちなみに、ゾンビもレベルは“1”であるが…勿論アルバは知っている。

 

 

 しかし、そんなゴブリンが何の用なのだろうか。

 特にアルバと争おうとして近付いてきた訳ではないことが、ゴブリンの様子から窺える。

 

 はて、ゴブリンは人間に問答無用で襲い掛かる(…魔物はすべからくそうなのであるが)魔物ではないかと思うアルバだが、やはり様子がおかしい。

 

 「…何の用だ」

 

 アルバはゴブリンに喋りかけた。

 見ればゴブリンは一体だけで、他に仲間も何もいないことがわかる。

 

 「ま、待って欲しいゴブ…!あっしに戦う意思はないゴブ!は、話を聞いて欲しいだけゴブよ…」

 

 周囲に視線を泳がせながら、棍棒を地に下ろしたゴブリン。

 どうやら、その視線はアルバが斬ったゾンビらの死体に向いているようだ。

 ちなみに、魔物のなかでも喋ることのできる種族は多くいる。

 

 「変な口調だな…」

 

 アルバは思わずゴブリンの第一印象をそのまま口に出していた。

 

 「それについてはあっしの癖でして…気にしないで欲しいでゴブよ」

 

 「で、何の用だ」

 

 「それは話を聞いてくれるって意味ゴブか…?」

 

 「そうだと言っている」

 

 「な、ならその剣を一先ず置いて欲しいゴブ…!!」

 

 「………わかった」

 

 アルバはとりあえず話を聞いてみることにした。

 

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