07 小さくて大きな憎しみ
短めです
視点が結構動きます。ご注意ください。
「うあぁぁっっ!!!」
目の前で息絶えている父親を見つめ、リアは叫ぶ。
しかし、帝国兵たちはその叫び声が聞こえていないかのように、何の感情も見せずに村の男たちを殺していく。
リアの父親…ガリルが殺されたことが引き金になったのか、女性を運んでいた帝国兵達も村の男を虐殺し始める。
元々エルフ奴隷の需要は女性だけであり、男性を買い求める人はあまりいない。
そして、エルフは殺すと例外なく心臓が高純度の魔石になるのだ。よって、殺しても損失はない。
尤も、帝国兵達はそんな損得の思考などはしていなかったようだが。
「どうなって…るの?」
(何故? 何故こいつらは男を殺すんだ! 奴隷にするんじゃなかったのか!?)
そして、遂に帝国兵の魔の手は、ルディとメッシ…兄に向いた。
(やめて! ルディとメッシはだめ! お兄ちゃんには手を出しちゃだめっ!!)
けれど、リアは恐怖で声を出すことが出来ない。
そして、あっさりとルディとメッシの首が斬り落とされた。
ルディとメッシの命を目の前で絶たれたリアの感情の器は、少しずつ崩壊していく。
(やだぁっ! 何でお父さんが! なんでお兄ちゃんが! なんで殺されないといけないの!? なんでなんでなんでなんでっ!!)
氏川晴人としての、目の前で親しい人が殺されたことによる、恐怖の感情。そして、リアの中に残っていたリアの人格としての憎しみと悲しみと怒りの感情。
二つの人格の感情が合わさり、同調する。
許容量を超えた怒りが、魔力を放出するが、帝国軍の魔道具によって吸収される。
ーーしかし直後、奇跡が起きた。
《条件クリア。一定以上の特定の感情の高揚を確認。リア・ルイシェルの潜在能力覚醒を開始します…完了。身体的能力の上昇を確認。成功。覚醒を終了》
《条件クリア。指定魂:氏川晴人の強い感情、及び共生状態の魂との強大な感情の同調を確認。スキルの付与を開始します。能力スキャンの結果により大罪《憤怒》の付与を開始…完了。スキルの有効化を開始…完了。スキルの付与を終了します》
《条件クリア。魔法概念優越権の昇格を開始…ハイ・エルフLevel3より、神格Level4に昇格しました》
《特殊能力、大罪《憤怒》の獲得により、特殊属性《破壊》を獲得しました》
特殊能力とは、世界で一つしかないそして、1人しか保有を許されない能力のことである。
魔法概念優越権とは、魔法を実行する際の処理の優先順位をランク付したものである。
ハイエルフは、神族の末裔であるため、元々普通の人間より魔法概念優越権のレベルが高い。
そしてリアは、この時更にもう一段階上がったため、神族級の魔法が扱えるようになっていた。
また、ハイエルフ用に帝国が作成した魔力吸引装置は、神の遺産とも呼ばれる魔道具を組み込んでいたため、Level3までは対応出来ていたが、リアのレベルが4になったため、リアの膨大な魔力が解放され、魔法の行使が可能となってしまった。
****
解らない。
どうしてお兄ちゃんは殺された? 意味もなく! それとも…いや、もうどうだっていい!
お兄ちゃんやお父さんを殺した奴らは…
殺す!
僕はいつの間にか覚えていた力が奴らを殺すのに一番いいと直感的に理解する。そして、半ば無意識に頭に流れ込んできた詠唱を従来の魔法と同じように最適化し、唱える。
「ーーー破壊 神権使用 粒子操作 範囲指定 ーーー」
一部の兵が僕の異変に気づいたみたいだけれど…
「もう、遅いよ。実行」
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直後、リアが6年間暮らしてきた村の建物、そして村の人たちの死体や、女性達が積まれていた馬車、今にも殺されようとしていた男たち、村を囲んでいた帝国兵。
その全てが、消えた。
そこにいるのはリアだけになった。
そして、リアも意識を失い、倒れた。
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ゆっくりと、目が覚めていく感覚。
「ーーん…背中痛い…」
何だろう、凄く背中が痛い。なんか、硬いところで寝てしまったような…
「っは! み、皆はっ!?」
辺りを見回すと、目に映るのは抉り取られたかのようにぽっかりと地面に空いている穴。それと、壁のように立ちはだかる森だけ。
確か、帝国兵がやってきて…
脳裏に、昨日の惨状が映る。
その凄惨な光景に、吐き気を覚える。
「うぐっ…な、何で…じゃあここは…?」
せり上がってくる胃の中身をなんとか止める。
なんとか顔を上げて、目の前の穴をもう一度見る。
こんな穴は、村の近くになかったはず。一体これは…
そこで僕は、あることに気がついた。
「この森は…村の周りの…?」
そして…僕の脳裏に昨日自分がやったこと、その光景が走る。
「っ!?…な、何、あの魔法…破壊? そんなの記憶に…」
何? 何かある。この魔法の記憶は…破壊属性なんて知らない! 練習したこともないのに、どうして使い方まで詳しくわかるんだ? それに、昨日僕がしたことは…
「殺し、ちゃったんだ…帝国兵も、生き残っていた村の皆も」
再び吐きそうになるけれど、なんとか我慢して冷静になろうとする。
ふぅ…落ち着いてきた。というか、あの時の感情が押さえつけられなくなるような感じ、なんだったんだ?
変な声がたくさん聞こえたような気もするし。
それと、魔力量が上がっているような気がする。昨日の10倍以上はあるような…? まぁ、多いにこしたことはないから良いんだけれど。
この後はどうしようか…死体も無いから供養のしようが無いし…。
「まぁ…適当に街を探そっか!」
このまま飢え死にとか嫌だし。食べ物自体は草食だから良いんだけれど。お肉は食べたことない。だって、家では出されなかったから。
ともかくまずは食料を探さないと。野菜がそこら辺に生えている何てあり得ないから…まぁ果物とか木の実のかあれば良いけれど。
もうすぐ秋だから、多分どこかにあるはず。でも魔物も活発になるから、ちょっと心配かも…
僕は森に向かって歩き出した。
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「…よかった。なんとか貰い切れた」
真っ暗な空間の中、女の声が響く。
「まだ、大丈夫…大丈夫だから…」
その声は、どうしようもなく震えていた。
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2017/09/26 ご指摘により修正しました。
2018/12/30 ストーリーの方向修正のため、加筆しました。既存の内容に変更はありません。
2021/02/20 大幅に加筆修正を行いました。前回の修正で加筆した部分を修正しました。既存のストーリーの内容に変更はありません。