06 村への襲撃②
前話同様少し短めです
2020/8/5 加筆修正を行いました。
2021/02/20 加筆修正を行いました。
結局何か起こらないかと夜まで警戒していたけれど、何も起こらなかったので、普通に寝ることにした。
そうやって、警戒を解いたのがいけなかった。
「―――起きろ! リア! 起きろって!」
「…んぅ…お兄ちゃん、何…?」
ルディはかなり焦っているようだ。だんだん目が覚めてくると、外から喧騒が聞こえてくる。僕はあわてて意識を切り替える。
「お兄ちゃん、何があったの?」
「あ、あぁ…村が帝国軍に包囲された。戦える父さん達が周りを警戒しているところだよ…やっぱりあの商人は…クソッ」
「今はまだ攻められてないの?」
「え? うん、そうだけど…」
クソッ…こんなことになるなんて…商人の思考がおかしかったことをお父さんとお母さんにだけでも報告しておけば…
過ぎたことを今悩んでも仕方ないか…
「じゃあ、帝国の人って何か言ってきたりしてるの?」
「う、うん。全員降伏すれば命を保証するって。だけどたぶん…村のみんなを奴隷にするつもりなんだろう…」
んー…そうだな、まずは人数を確認してみるか。
目の前にルディがいるけれど…しょうがないか…
「―――風 空気振動 拡散 条件付加 反射波収集 選別―――」
「え?」
戸惑うルディを無視して、魔法によって集まってくる情報を待つ。
「リア? 今のって…?」
外にいる帝国の人間は…51人みたいだ…かなり多い。でも、僕の予想が正しければ、エルフは魔法が得意な種族なはず。なのになんで50人と少しで来るんだ? そんなに自信があるのか? それとも何かほかの目的でも……
「リア!?」
「っ? 何? お兄ちゃん」
「いや…早くお母さんのところへ行くぞ!」
「わ、わかった…」
すこし考えすぎ…かな? 無事に事が済むといいけれど…いや、もうこの状況が無事ではないけれど…
お母さんは家の前で村の人たちと一緒に座っていた。これは、避難と言えるのか? 多分、弓などの遠距離攻撃を避けるためなんだろうけれど…
「ルディ、リア、大丈夫だった?」
「はい、何もありませんでした。ただ…」
「どうかしたの?」
「…いえ、なんでもありません」
ルディはこっちを見て、なんでもないとお母さんに告げた。どうやら、なかったことにしてくれるようだ。それをありがたく感じる自分が、この状況を作り出した原因の一つだと考えると、少し胸が苦しく感じる。
「…リア、さっきのって…魔法、だよな?」
と、結局なかったことにはしてくれないようだった。
心の準備もなくばれてしまったため、無意識に顔がこわばってしまう…どうやってごまかそうか…
「えと、その…」
「…今はいいよ。また今度教えて」
「!?…うん、分かった」
なんとか今は見逃してもらえるようだ。
「おい! みんな大丈夫か!?」
お父さんが戻ってきたみたいだ。お父さんの話によると、弓兵も居なく、魔法師と魔術師の混成部隊がこの村を包囲しているらしい。人数は観測通り50人程度。まあ、これまでの実験で観測結果が外れたことは今までなかったので、疑ってはいなかったけれど。
帝国軍の要求はさっきルディが僕に伝えたとおり、全員の降伏らしい。それに加えて、降伏しない場合はこちらを一方的に無力化できる切り札があるのだという。
いったいどうやって無力化するんだろうか…気にはなるけれど、それがある以上お父さんもうかつに手は出せなくなっているようだった。
「父さん、結局どうするのですか?」
「…できれば一気に攻めて追い返してやりたいが…こちらの頼みの魔法が無力化されるようじゃあ…」
「帝国は魔法を無力化するんですか!?」
「俺たちは魔法だけが取り柄の種族だからな…俺たちを無力化できるとなれば、魔法の無効化しかないだろう」
それに、とお父さんが続ける。
「見張りの奴らが既に無力化されている。抵抗しているような様子も見られなかったことからして…」
「そんな…そんなの、いったいどうやって」
「まあ、人族も馬鹿じゃないってことだろうが…
「しかしこのまま降伏したら」
なんだか物騒な話し合いが続いている。というか、ルディの精神年齢すごく高い…
魔法を無力化って…僕にとっては天敵じゃないか…それと、やっぱりリアの種族は魔法が得意のようだ…
お父さんとルディが話し合っていると、知らない男の野太い声が聞こえてきた。
『ハイエルフども! 貴様達はすでに包囲されている! おとなしく降伏することだ! 尚、これは最後通告とする!』
ええっ!? もう最後通告!?
お父さん達もかなり慌てている。話がまとまった様子もない。
けれど、お父さんとルディが一言二言話すと、突然落ち着いたようで…
「仕方が無い、ルディ…」
「はい」
「でかいの一発見舞ってやるか!」
「はい!」
あれ? お父さんとルディって、こんなに活発というか、やんちゃな性格だっただろうか…?
というか、みんな魔法を放つ準備してるよ!? 抵抗したら殺されるんじゃないの!? 皆んな死にたいの…?
というか…ハイエルフってどんな種族? エルフは分かるけど…エルフの上位種的な感じなのだろうか? でもなんで狙われる…多分珍しいからだよね…こういうのは異世界モノのラノベではよくある話だけれど、襲われる側になると、かなり迷惑だし、怖い…
お父さん達は現在、魔法の詠唱中、って、本当にやるんだ!?
…それに、このあと死んじゃう可能性が高いってのに、あまり恐怖を感じないのは、やっぱり、魂のベースがリアという幼い子だからなのだろうか。
詠唱は、皆同じのようで、それも合唱みたいに合わせている。使う魔法は知らない。だって、教えてもらってないから…
村のみんなが詠唱を終えると、みんなの周囲に異様な程の魔力が漂いはじめた。視認できるほどに濃密な魔力が、辺りを漂う。
そして、皆が魔法名を唱えようとした瞬間…魔力が霧散した。同時に体から力が抜けて倒れてしまう。
「なにっ、これっ!」
周りを見ると、全員が地に伏せてしまっていた。
「多分、これが…っ!」
村の周りから人の足音がたくさん聞こえてくる。
リアの聴力ならば帝国軍の話し声も聞こえただろうが、それに気付くことが出来なかった。
だんだんと足音が近づいてきた。そしてやってきた帝国軍は無造作に、物でも運ぶかのように村の皆を連れて行く。しかし、なぜか担がれていくのは女性のみ。
僕は幼いためか、後回しにされている。周りにいる帝国軍の人数はおよそ15人。他は村の周りで待機しているのだろうか。
放置はされているものの、魔力は一向に戻らず、体の力も抜けてしまっているままだけれど。
そんなことを考えた直後。
抵抗しようとしたお父さんの胸に剣が生えた
「…え?」
お父さんが抵抗したと言っても、ただ帝国兵の腕を振りほどこうとしただけだ。けれど、帝国兵の男は何のためらいも見せずお父さんを刺した。
「ガッ…ガハッ!」
「お……お父、さん…?」
男が無造作に剣を抜くと、お父さんの胸から血が溢れ出し…そのままお父さんの体は動かなくなった。
心のどこかで、何事もなく終わる、そんな幼い願望があったのだろう。
「うあぁぁっっ!!!」
僕の…そして、心のどこかに生きていたリアの感情が、弾けた。
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