2月14日(晴天)
昨日はあのあと新幹線で箱根に向かうまでが大変だった。
いや、正しくは向かっている最中も、向かう前も大変だった。
「すごいね~玉枝ちゃん。あ、あれ何かなぁ、ゆき様教えていただけます?」
「姉さん、あれは東京タワーっていうんだ」
「あらあら~、玉枝ちゃん物知りね~」
秋葉さんは車窓に体を寄せて懸命に外をみては一喜一憂し、玉枝は平静な物知りさんを装ってはいるが、横の俺にバシバシ尻尾が当たりとても痛かった。
それに補足するとあれはただの鉄塔だ。
・・・。
そのまま黙っててくれ、ゆき。なんか……ありがとう。
お姉さんに大人ぶりたい気持ちは分からんでもない。そして玉枝もなんだかんだはしゃいで浮かれているのだ。
そして現在。
到着が夜だったこともあり、辺りは既に薄暗くなっていた。
そして犬用鞄に秋葉を入れて持ち、左手にはばかでかいキャリーケースと背中には、ぜっんぜん起きない玉枝が乗っている。
駅からタクシーで旅館へきたのだが、二人とも社内で爆睡してしまった。
昼からはしゃぎすぎなんだよ!子供か!
いや、外出もほぼ始めてなのだから仕方ない……なんて言うか!
膝がくそ震えるぞ、このおたんこなすども!
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チェックインカウンターで鍵をもらう間中、生暖かい目線で見守られいたたまれない気持ちで部屋へと向かう。
「どっせい」
ベットに玉枝をぶん投げ、鞄から秋葉をするりと取り出し玉枝の横に置く。
「なかなか優しい持ち方をなさいますね~」
「起きてたなら手伝ってくれても良いんですよ?」
ちょっと睨みため息を漏らす。
「手伝っていましたよ~、普通じゃ女性と小型犬にキャリーケースまで運べませんよ~?」
「あぁ、確かにそうかもしれない」
ぺこりと頭を下げ、礼を述べると秋葉が恥ずかしそうにこぼした。
「もしよければ頭をなでなでしてくれても……」
蚊の鳴くような声だった。
「いいですよそれくらい、はい」
玉枝よりさらさらの髪の触り心地は、癖になりそうだった。
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14日の朝。
「ゆき、起きろ。今日は色々見て回るのだろう!」
「お、おぅ」
眠い目をこすり起きると、完璧な出で立ちの二人が立っていた。
玉枝のややきつい目の上にはキャスケットが乗り、ファーの可愛いロングコート、ホットパンツから見える黒タイツはすらりとしたあしに似合っている。
秋葉は、薄紫が綺麗な羽織のしたに和装をしている。
きちっと着付けた夜明けのような群青色のグラデーションが目を引く。
「すごいな……」
こんな時なんて言ったらいいのだろう?
貧相な語彙が心底恨めしい。
向こう100年位、自身を呪ってすごそう、毎日ケンタッキーとかな。
「なんだ、それだけか?これから美女を連れて歩くんだぞ?もっと鼻の下を伸ばすとかないのか」
能面がおで玉枝に怒られる。
「なんて言って良いか分からなくて、すごい綺麗ななのは分かってるんだけd……」
「はい、もう大丈夫です」
顔が過去最高に怖い。
「あら、玉枝ちゃんも素直になりなさいな~」
秋葉が玉枝の頭を撫でているが、もうよく分からん。
睨まれないようにしとこう。
箱根では大いに食べ、飲み、秋葉が乱入して風呂場が騒然とかあったが楽しかったとおもう、このときの話はまたじかいにでも。