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お昼ご飯の二時間前



「ふあぁ……」


 大きく欠伸をして腕を伸ばすと、コキリと子気味良い音が肩から響いた。その勢いで腕を回してみると、続けてポキポキと音が鳴る。やはり変な姿勢で寝るのはよくないな、と思いながら珈琲を口に運んだ。

 嫁は仕事に追われている為、一人でのんびり過ごせる平日の午前である。昨日と同じく庭園で、読書でもしながら時間を潰そうと思ってここに来た。ここに来たのだが…………


「はい、どうぞ」

「あ、どうもっす! いや〜、魔夫様にわざわざコーヒーをいれてもらうなんて、恐れ多くて恐れ多くて……」

「別に気にしなくていいよ」

「あ、そうっすか? あざますー! 普段の数倍美味しく飲めそうっす!」

「たしかに気にしなくていいと言ったけれど、もう少しくらいは気にしてくれ」


 先程ここに着いた時には既に先客がいた。それが彼、グレラだ。

 私の指定席付近に置いてある、お気に入りの(ちょっと高かった)コーヒーメーカーと難しい表情で睨めっこしていた彼は、私の姿が見えると顔をぱあっと明るくし、「まおさまー!!」とブンブン手を振りながら、静かな庭園に相応しくない声量で叫んだ。


「えーっと……グレラくん?」

「そうっす!覚えていただけて恐悦至極の極みっす!」

「意味が重複してるぞ」


 果たして私に何の用なのかと無駄に身構えていたが、どうやらただの興味と好意らしい。珈琲を飲んで嬉しそうに頬を緩めている。


「ぷはー! 美味いっす! やっぱり王族の方が口にするコーヒーは最高なんすね!」

「そりゃどうも。セールで安くなってるのを見計らって買ってきただけのことはあるね」


 自分で言うのも何だが、私は結構ケチなのだ。ガポガポ金を突っ込んで最高級の物を手に入れるよりは、最低限の金でそこそこの品を楽しむ方が大変良い。普段から高級品ばかり嗜好しているとその有難味が薄れてしまうし、このくらいが丁度いいのである。きっと。余談だが、嫁は容赦なく馬鹿高いものを買って馬鹿高いものを私に出してくる。


 珈琲を一気に飲み終わった様子のグレラは、さっきまでの明るい顔から一転、真剣な表情で「あの、まおさま」と言った。


「急に改まっちゃって一体どうしたんだい?」

「図々しいのは百も承知っすが……一つお願いがあるっす」

「……言ってみなよ」


 その言葉を聞いて何となく、嫌な予感がした。そういう態度での《《お願い》》に全くと言っていいほどいい思い出がない。一応権力者の伴侶という立場になってからというもの、権力(ソレ)目当てにどれだけの人、魔族が寄ってきたことか。この子もそういう手合いなのだろうか、と疑いながら二の句を待った。


「あの、実はですね……」

「……」

「コーヒーの……」

「…………?」

「コーヒーのおかわりが欲しいんすけど……いいっすか……?」

「………………はあ!?」

「え、やっぱりダメっすか……?」

「しょうがないなあ、入れてあげましょう!」


 私のシリアスな気持ちを返してくれ、って感じだ。しかし私は、そういうアホは嫌いではないのだった。メーカーの中に残っていた分をすべてカップにぶち込み、中身が溢れない程度に乱暴に彼に渡す。


「ど、どうかしたんすか? なんかオレ、気に触ることでも言いました……?」

「ああ、まあそれなりにね……」

「ええ、そうなんすか!? よくわからないっすけどサーセンした!」

「謝ってくれたから許すとしよう」

「わあい、ありがとうございまっす!」


 安心したように珈琲のおかわりを飲み始めるグレラ君。まったく、面白い男だ。そう思って、笑った。


「グレラ君。君暇なら、明日からもここに来るといいよ」

「え、いいんすか!?」

「うん。私は大体ここでのんびりしてるからさ、話し相手にでもなってくれればありがたい」

「うわあ、じゃあ仕事をサボってでも来させてもらうっす!」

「そこは働いてくれ」


 一人のティータイムよりも二人のティータイムの方が心地良いと、しみじみ思いながら高くなったお日様を眺めるのだった。

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