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快適に目覚めた四十分後




 目覚めるといつも以上に爽やかな気分で、感動しながら大きく伸びをした。何故こんなにも爽やかなのか、その答えは容易に想像がつく。重しとなっていたルシファルさんが既にいなくなっているからである。やはり寝苦しかったようで、寝巻きには結構な量の汗が滲んでいた。シャワーを浴びようと思い、のそのそ起き上がると、案の定朝食の用意をするルシファルさんがいた。


「おはようございます、ルシファルさん」

「おはよう、アナタ♪」


 銀髪のポニーテールを揺らし、下手な鼻歌を交えながらスープの出汁をとるその姿は、誰がどう見ても上機嫌だった。何かあったのだろうか。


「ルシファルさん、なんか楽しそうですね……」

「あら、わかります?」


 エプロンの裾を掴みながら華麗にくるっと一回転半回り、彼女は微笑む。


「でも、この晴れ晴れとした気分でいるのはアナタのおかげなのよ?」

「はあ」


 イマイチピンとこないので曖昧な返事をしてしまう。「聞きたいかしら?」とどこかソワソワしながらスープを混ぜるルシファルさんに、「いえ別に」と返して珈琲を淹れ始める。シャワーは諦めた。


「そう……」


 残念そうにサラダを盛り始めるルシファルさん。パンの入ったバスケットを置き、スープが並んだ辺りで「実はね」と話が始まった。


「結局話すんですか」

「だって嬉しかったんだもの」

「まあ聞きましょう」


 いただきますと手を合わせ、パンにバターを塗り始める。サラダを一口食べ、スープを一口啜る。久々に洋風の朝だな、なんて考えていると妙な視線を感じたので顔を上げてみた。ルシファルさんがまたも上機嫌そうにむふふと笑っている。


「これまたどうしたんですか」

「自分の作った料理が愛する人の血となり肉となるというのは、なんとも素敵なことですわね」

「そうですねえ」


 今日はいつもより輪をかけて変だなあ、と珈琲を口に運びながら思う。じーっとこちらを見つめているようだったので、目を合わさないようにゆっくりマグカップを傾けていった。


「で、今私が晴れ晴れとした気分でいるのは全てアナタのおかげなのだけれど」

「私、何かしましたっけ」

「ふふふふふ」


 ルシファルさんは左手で頬杖をつき、幸せそうに微笑むだけだった。そこまで聞きたいわけではなかったが、こうも焦らされると流石に気になってくる。もしかすると、初めからそういう策略だったのか……流石にそれはないと思うが。



「朝、寝苦しくて目を覚ましたのよ」

「ほう」

「妙に胸が苦しいわ、と思ったらアナタが挟まっているものだから」

「私も妙に息苦しいなと思っていたのです」

「可愛かったし嬉しかったのだけれど、朝食の用意もあるから離れさせてもらいましょう、と断腸の思いでアナタの頭を掴んだその時です。

 何か遠くの方で物音が聞こえるようで、これは何かしら、と耳をすませてみたのです。すると……」

「すると?」


 思い出すだけで喜びを抑えきれないようで、またもや笑いが挟まってきた。しかしまあ、彼女が幸せなら満足だなとも思う。


「よく聞くとアナタが喋っていて、寝言かしらと耳を近づけて聞いてみると」

「聞いてみると……?

「『ルシファル……』って、カッコイイ声で私の名前を呼んでくれていたのよ! ちゃんと呼び捨てで!」


 喜びここに極まれり、といった感じで快活に話すルシファルさん。小さく咳払いして、残っていたパンにかぶりついた。


「……他に何か言ってました?」

「何かブツブツと喋っていたようなのだけれど、よく聞こえなかったわ」

「そうですか」


 珈琲を飲み干し、「ルシファルさんも食べましょうよ。貴女の料理はちゃんと美味しいですよ?」とサラダにフォークを刺し、彼女の口まで運んでみる。「んー!!」と頬を林檎のようにして喜ぶルシファルさんを微笑ましく思いながら、夢の内容を思い出して小さく口元を歪めた。


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