夢さつまいも
「さあ、着きましたよ」
ここはとある農業高校の一角にあるサツマイモ畑だ。
俺と嫁、そして3歳になる娘と一緒に、今日は幼稚園のイベントでサツマイモ掘りに来ているのだ。
「さて、今日みんなに掘ってもらうおイモは、『夢サツマイモ』です」
夢サツマイモ? なんだそれ。新しい品種かな?
「なあ、お前知ってるか? 夢サツマイモ」
「ええ? 知らないの? 最近ブームになってるのよ。夢サツマイモは、掘った人の夢の味に変化する不思議なサツマイモなの。今朝の番組でもやってたわよ」
「そうなの? 知らなかった」
どうやら俺は世間より一歩遅れているらしい。
そうこうしている内に娘が一生懸命土をかき分け、一本のイモを掘り起こした。
「おー、やったな! ちゃんと夢を込めて掘れたかな?」
「うん!」
「さあ、お父さんお母さんも一本ずつイモを掘ってくださいね。次は実食のためたき火を用意した広場へ移りますよー。皆さんついて来て下さい」
俺たちは大きな焚き火で焼き上げたイモを取り出すと、その中の一つをパカっと二つに割った。
「どれ、いただきまーす」
「もぐもぐ……んーー! パンのあじがするーー!」
本当だ。これは紛れもなくパンの味だ。
「あなた、昔パン屋さんになりたいって言ってたわよね。これ、あなたの抜いたイモじゃない? 」
「ああ、間違いないな。よし、次はこっちのイモだ」
俺たちは次のイモを割り、口へ放り込んだ。
「もぐもぐ……っ! べー! おいしくない!!」
「ぺ! なんだこれ! 鉄の味がするぞ」
「あー、これあたしのイモね」
「いったい何の夢なんだ?」
「あたし、昔は宇宙飛行士になるのが夢だったの。だから、これは宇宙船の味ね」
そういうことか。まあ、宇宙船の味なんてそう味わえるものでもない。良しとしよう。さて、最後は娘のイモだな。
パカッとイモをわる。香りは普通にイモなのだから不思議だ。
俺は娘のイモを口に放り込んだ。
「ところで、これは何の夢が込められているのかしら?」
「うんとねー! この前先生に、トイレで立派にうんちができて偉いねって褒められたの! だから立派なうんちになるのが――」