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小悪魔女子との魔法契約  作者: 鯉渕千尋
第1章 小悪魔女子との新生活
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【3】-3

「……私はもう平気なので、祐人さんも休んで下さい」

 路地裏での戦いが終結した後、俺は朱花を背負い、急いでその場を離れた。

 理由は二つある。第一に、朱花の怪我が心配であったからだ。強化魔法による治癒があるといえど、彼女は戦いの中で何度も男の暴力をその身で受けてしまっていたのだ。身体のどこかに異常をきたしていてもおかしくはない。なので俺は、一刻も早く朱花が休める場所へと移動したかった。

 第二に、戦闘音を聞きつけた周辺住民が駆けつけて来る前にその場を離れたかったからだ。相手の男は何度も雄叫びをあげていた上に、住宅の壁面を殴りつけることで轟音を響かせていた。その音を不審に思わない人間はいないだろう。あまりの異常さゆえか、戦闘中は人が来ることは無かったが、静かになった後なら誰かが路地を覗きに来るかもしれない。それに、警察を呼ばれている可能性も高いだろう。もし、うずくまっている半裸の男の傍に俺たちが居るところを見られれば、間違いなく面倒臭いことになる。

 それらの理由から、俺は「自分で歩きます」と抵抗する朱花を無理やり背に乗せ、自分の家まで走ってきたのだ。

「何言ってんだ朱花。とりあえずお前は座っとけ」

 そして現在、朱花に絶対安静を命じ、俺は風呂の準備をしているところである。

 今日は母さんが夜勤で不在である上、朱花の体調が心配であるため、家のことは俺が担当することとした。幸い、朱花がこの家に来る前までは俺も家事を多少なりともしていたので、家事で戸惑うことはなかった。しかし朱花や母さんほど質の高い家事はできなかったが。

「しかし、祐人さんに働かせてばかりいるわけには……」

「いいから休んどけ」

 そう言って朱花を黙らせた後、俺は風呂の準備を終え、夕飯の後片付けに取りかかる。後片付け、といっても作ったのは冷やしうどんなので、洗い物も少ない。

 昨日、一昨日と凝った料理をしてくれた朱花には悪いが、自分の料理スキルは小学生並みなのであまり大した物は作れない。なので今日はこれで我慢してもらいたい。当の彼女は眉一つ動かさずに食していたので、どう思っているかはわからないのだが。

「風呂が沸いたらすぐに入って寝ろよ」

 しつこいほどに朱花の身を案じる自分に、我がことながら呆れを抱く。朱花にも「心配しすぎです」と言われたが、しかし一般市民としては、筋骨隆々の大男と殴り合った少女の身を案じずにはいられないのだ。

 という俺のごく個人的な心情により、朱花は帰宅後からずっとリビングで暇を持て余していた。

「……こうしていると、幼い頃を思い出してしまいます」

 あまりにもすることがなかったせいか、今日の朱花はいつになく饒舌になっていた。彼女の口から話されることはどれも俺にとって興味深いものなので、今も彼女の話につい耳を傾けてしまう。

「あの頃も、私はいつも祐人さんに注意されていましたので」

 幼い頃の朱花との思い出はまるで記憶に無かったが、朱花との関係性は幼い頃も今と変わらぬものだったのだろうと思ってはいたので、その言葉には頷くことができた。

 普段は同世代の異性と会話することに自分は緊張を覚えるが、しかし朱花とはたった二日で自然に話すことができるようになった。特に朱花に忠告するときは軽口を交えながら親し気に接することができたので、以前も朱花とはこういうやり取りをしたことがあるのではないか、と考えていたのだ。

「朱花は危なっかしいところがあるからな。幼い頃の俺も苦心したことだろう」

 当初はクールで、どんなことでも淡々とこなしそうなイメージのあった朱花だが、しかし彼女が手のかかるうっかりキャラであることはすでに明白である。いつも過去の俺に注意されていたということは、幼少期からその片鱗は見せていたのだろう。

「祐人さんに言われると、ぐうの音も出ません……。実際、今日も祐人さんがいなければどうなっていたかはわかりませんし……たしかに危なっかしいですよね」

 朱花の言っていることは、今日俺たちが襲撃を受けたことについてである。

 彼女は今日の戦闘前に強気な発言をしていたが、しかしいざ戦闘になると上手く戦えなかったことを反省しているらしい。朱花は俯きながら、自分のふがいなさを悔いていた。

 あのときは俺も朱花の楽観的な考えを叱ったが、ここまで彼女がそのことについて気にしている姿を見ると、あまり厳しいことは言えない。

「いや、でも朱花がいなけりゃもっと危なかったんだから、そんなに気にすることはないぞ。まあ、俺も厳しいこと言ってたけど、朱花の存在には感謝してるからさ」

 俺のおかげと朱花は言うが、敵を実際に倒したのは彼女である。もし俺一人のときに襲撃を受けていれば、十秒と持たず殺されていただろう。

 そう思い俺は朱花を励ますと、彼女の中で何かが変わったらしい。彼女は勢いよく顔を上げ、いつもの無表情を俺に向ける。そして、こう言い放った。

「今度こそ、祐人さんを危険にさらしません。なので、今日から、祐人さんの傍でより一層警戒を強めようと思います」

 そして朱花は立ち上がり。

「お風呂に入りながら、今後の作戦を練ってきます」

 と言い、いつもより力強い足取りでリビングを後にした。

「……どうしたんだ、朱花は」

 彼女の突然の変化に驚いたが、今は気にしてもしょうがないので、彼女が立てる作戦とやらの報告を自分は待つことにした。

おまけ①朱花と祐人の困った話


朱花「祐人さん、祐人さん」

祐人「なんだ、朱花」

朱花「祐人さんは最近、何か困ったことがありましたか?」

祐人「困ったことと言えば……そうだな、この前エロ本買ったんだけどさ」

朱花「はい」

祐人「俺ってエロ本は、表紙で決める派なんだよ。それで最近、すっごい俺好みの本があったんだよ」

朱花「それは良いことじゃないですか」

祐人「ああ、俺もそのときは期待と興奮がうなぎ上りでさ、即決で購入したんだよ。でもその本を開いたとき、問題を一つ見つけてしまってな……」

朱花「内容が祐人さんの好みではなかったのですか?」

祐人「いや、そんなことはない。エロ本ってのは、表紙でだいたい内容がわかるからそこであまり失敗はしないよ。それにその本は、内容としては最高の出来だった」

朱花「では何が困ったことだったのですか?」

祐人「それはな……その本のヒロインが、母さんと同じ名前だったんだよ……」

朱花「……それのどこに問題があるのですか?」

祐人「問題あるに決まってんだろ! いいか、朱花。男がエロ本買うってことは、それを使ってエロいことしようとしてるってことと同義なんだ。でもその本のヒロインが母親と同じだった……これがどういう事態かわかるか、朱花?」

朱花「皆目見当もつきません」

祐人「興奮できないんだよ……! いくらそのヒロインがエロくってもヒロインの名前が出てくるたびに母さんのことを思い出しちゃってすっごいえるんだよ! 興奮できないエロ本なんてエロ本じゃない!」

朱花「何をおっしゃっているのかわかりませんが……祐人さんが力説するということは、それほど重大なことなのでしょうね……」

祐人「そうなんだよ。まあその本は残念ながらそれ以上俺に読まれることなく、凌介にくれてやったが……内容が良かっただけに惜しいことをした……」

朱花「ヒロインの名前というのは、購入前にわからないものなのですか?」

祐人「裏表紙に書かれていることはあるし、ネットであらすじを調べればわかることも多いんだが……さっきも言ったように、俺は表紙で決める派だからな。全くと言っていいほど見ていなかった。だけど今回の件で、少しは考慮しようと思ったよ……」

朱花「当初想定していた用途として使えないとなると、たしかに困りますね」

祐人「そうだろ。今までヒロインの名前が母さんの名前とかぶったことなんてなかったから、余計ショックだったよ……」

朱花「千沙さんという名前は古風でなかなか見かけないですから、創作物とはいえたしかに珍しいですね」

祐人「朱花のお母さんは凪さんだったっけ? けっこう創作で出てきそうな名前だよな。エロ本買ったらよくかぶるんじゃないか?」

朱花「そもそも私はそういう本を購入しないので、問題はありません」

祐人「そっか」

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