第7話 暗闇の奇襲
第7話
下から誰かの話し声が聞こえてくる。時刻は…六時五十八分か。なら、湯川のペアである可能性があるな。
狭山は、来賓用玄関に近い螺旋階段の2階で下を見張っていた。
……まだ来ないか。
廊下の向こう側からは軽く弱々しい足音が、階段の下からは重くしっかりとした足音が聞こえてくる。下から聞こえてくる、一抹の不安も感じさせない堂々とした足音。まちがいない、これは湯川だ。
おもむろに右のポケットに手を当てる。布越しに感じる、四角い異物。
狭山は準備期間の間にスタンガンを用意していた。威力はそこまで強くないが、首筋ならば相手の意識を奪うには充分な威力だそうだ。
…下から聞こえる足音が大きくなってきた。
この螺旋階段は幅が2mほどあり、中央には半径3mほどの吹き抜けの空間ある。
狭山の作戦としては、①湯川がいる所のあらかじめ1階分上のポジションに陣取っておき、②湯川が真下に来た所で床にぶらさがり、自分を振り子のようにしならせながら階下の階段に飛び込み、③背後から首筋を狙う…というものだ。
下から来る音を頼りに飛び込む危険な賭けだが、肉弾戦で湯川に勝つことはほぼ不可能である以上、この方法しかない。
一定間隔で刻まれる大きな足音は、タイミングを合わせるのにはもってこいのものだった。
………今だ!!
なるべく音を立てずにぶらさがり、そして…飛び込む!
……ダンッ!
成功だ!そして目の前に…いた!暗くてよく見えないが湯川に違いない!
うおおおおお!!
狭山は右のポケットからスタンガンを取り出し、相手の首と思われる部分に思い切り押しつける。
手応えあり!たまらずスイッチを入れた。
タタタタン!
瞬間、目の前にある身体がゆっくりと、ゆっくりと崩れていく。まるで糸の切れた人形みたいだ。
上手くいくか分からなかったけど、湯川に勝ててよかっ…
「な〜に勝手に勝利の余韻に浸ってるのかな?」
……えっ?湯川の…声?
そんな、首筋にスタンガンの直撃をくらって…失神しないわけないじゃないか!
慌てて目の前の倒れてる人の顔を見る。
これは……湯川じゃない!湯川のパートナーの女だ。…てことは!
顔を上げた先には正真正銘、本物の湯川が目の前にいた。
「後ろからの奇襲に警戒してその女を後ろに置いて正解だったよ。さあ狭山、…決着をつけようじゃない…かっ!」
「話してる途中で攻撃ってどうなんだ…よっ!あっぶね!」
「星水さんはどうした?関係ないから別行動してるの…かっ!?」
「そうだよっ…!それがどうした?」
「なに、心置きなくやれるって事を確認したかっ…たっ!それだけさ。」
「そう…かいっ!」(このままではいずれ負ける。どうする……どうする!?)
次回へ続く……
かなり間が空いたくせに短めです。申し訳ない