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見上げた空見下ろす世界

作者: GARU

「あなたはどうしてその場で生を終えてしまったの?

その地との縁を切り、罪に伴いし罰をお棄てになって。

それがだめならあなたの想いを言葉にして伝えて。

そうすれば私も、もはや理由すら思いだせぬ罰など棄ててみせます。

罰といってもそれは誰が科したというの?

ソコに在らずともあなたはあなた。

縛るものとは何?鎖も縁も見当たらない。

繋がれているでもなく押し込まれている訳でもない…ならば今すぐ私の元へ」




そこに古くから在り続けていた少女の霊。

数年前…

とある理由から新校舎屋上に縛り付けられる事となった少年の霊。

2人の出会いは偶然か必然か。

偶然だとしても神のなんとも意地悪き事か。

しかし誰がどう思おうとも出会いは果たされ…

…2人はただ想うままに恋に落ちていた。














 それは旧校舎取り壊しが始まる夏を目前とした季節…



「ねぇミコ…私…」

 今まで感じる事もなかった急かされる様な焦燥。

縋る友は彼女しかいなくて。

私達の様な存在と言葉を交わす事の出来る見鬼の少女へ。

ただ縋るしかなくて…。

今までと同様…

後ろめたさを感じないわけじゃない。

でも…頼らざるにはいられなかった。

「…何気に危険な賭けなんだけど」

 躊躇いつつ紡がれ始めるミコの言葉。

いつもなら迷いなくまっすぐに示してくれた筈の彼女にしては珍しい態度。

「もしキミに覚悟があるのなら…キミを彼の元へと連れて行ってあげられる。…かも」

 その言葉はあまりに魅力的で。

本当に出来るなら…答えなんて考えるまでもない。

不審に思ってたミコの態度に対しての懸念すらこの時私は忘れてた。

 私の即答に、しかしミコは表情を歪める。

「この場とキミとを繋ぐ縁を私との間に繋ぎかえる。一言で言えばキミが私に取り憑くってコトだけど……大丈夫?」

 そして続けられた言葉は…希望の上に塗りたくられた恐怖。

自縛霊である私にとってそれがどれ程危険か。

私だって理解してる。

それを自分から?

恐怖に身が凍りつく。

もし上手いかなかったら?

ソレは自身という意味の消失。

 自己の意味の残滓である霊にとって存在理由の全否定。

死以上に現実的な恐れ。

でも上手くいけば…。

差し出された希望は手放せず…

私はその手を握る。

そして…

…ミコは崩れ落ちるように意識を失い。

 それから…三日もの間熱にうなされ床に伏せる事となる。

 その間私はミコと共に在り。

ミコの見る世界に在った。

少し苦しげに眠る巫女を眺めているしか出来ないのは確かに歯痒かったけど。

ココは気付ければ何もかもが新鮮な世界だった。

図書室しか知らなかった私が今こうして外に居る。

信じられないような今がここに在る。

そしてこの先には…

想いは自然と彼の元へ…

この気持ち届けばいいのに。

ううん届けに行きたい。

うん今ならソレができる。

何もかもが上手くいっている。

自分の望むままに。

世界はそんなに優しいものじゃないってのは分っているつもりだけど。

それでも今はと…

ただ素直に感じてた。






「―自分を取り巻く現実こそ地獄だと…あの時はそう思っていた。

しかしキミが逝ってしまった今から思い返せばなんと生温かった事か。

そしてボクにこんな気持ちを抱かせたまま逝ってしまったキミはなんと罪深き女性か。

あぁ神よもし叶うなら今すぐボクを彼女の元へ…」






 それから3日。

 私はとうとう彼の居る屋上へと足を踏み入れることが出来た。

 そして…

……目の前の全てに目を奪われた。

ソレは何の変哲もないただの町並みなのかも知れない。

けど私にとって衝撃を受けるに十分の景色。

窓に区切られた外しか知らない。

今まで見たこともない、果てなく広がる世界。

ココに彼が…

抑え切れない胸の鼓動と共にきっと驚いてくれるであろう少年を捜す。

 それこそが私がココまで来た理由だから。

「――くん?」

 ふと耳に聞こえた彼の名前。

振り返った先では戸惑いを浮べたミコの姿。

「あれ?」

 私も気付いた。

 気付いてしまった。

ココには誰も居ない。

 誰の姿も無い。

生者も…

………死者ですらも。

 捜した。

 思いつくままに。

捜せる全ての場所を。

それほど広くないこの場所。

捜し尽くすのにそれ程の時は必要なく…

でも誰も居なくて。

「…なんで?」

 信じたくない。

でも…

思い当たった可能性は何よりも否定したくて…

考えたくもない。

「どう…し…て…」

彼が…1人既に逝ってしまっただなんて。

…視界の先に旧校舎が見えた。

彼がいつも私を見てた場所。














 そして…









     …ふと何かが切れた様な気がした。














































「ココに居ると彼女を感じるれるんだ。見えてる見えてないに関わらずね」

 幽霊だからかな〜なんて照れ笑いを浮べていた彼の姿。

その言葉を私はいつかの間にふと思い出していた。

 あの時の全てはきっと私のせい。

私のお節介のせいで2人はすれ違い…結局別々に逝ってしまった。









「縁は必要とされる限り途切れることはありません。そして望み続ければ縁は何時か再びの再会を叶えてくれるものなのですよ」


落ち込み笑えなくなっていた時、励ましてくれた神主様の言葉。

何も知らないはずのあの人の言葉がでも何故かしっくりきてて・・・

この時、もしそうなら良いなと…

自然と思い、私は何時の間にか少し笑えてた事に気付かされた。




































時は流れ…








「なんか不思議」

 安らかに眠る我が子の頬を突っつきつつ思う。

それは直感の様なもの。

勘違いかもしれない。

 単なる願望かもしれない。

でも…

「これも縁なのかな〜」

 …苦笑。

 生まれてきてくれたこの子に彼女の面影が何故か重なって見えた。

「今度は大丈夫だよね」

 コレが縁というなら疑うより信じたい。

 そうであって欲しいと思うから。

それにコレが本当ならきっとこの子と彼との縁も絶対に在る筈だから。

だから今度は…

「絶対…幸せになろうね、希美<きみ>」


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