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5話 気がつけば一緒に……

「さて、なにから説明しましょうか」



 混乱しているのもあるが、元々説明が下手そうなトラブルさんは引っ込み、今はマリアになっている。映像では何度も見たが、直接目の前で変化を見ると驚きは格段に大きかった。



「そうだね。まずは、人間のマリアと魔族のトラブルさんの関係についてかな」


「……あのー、先程から呼ばれてますトラブルさんとは、ミーシャさんの事ですか?」


「え? うん、僕にとってトラブルを持ってくると思われる人だからトラブルさん」


「ちょっと! わたし、シン君に何もしてないじゃん!」



 僕の説明を聞いていたのか、トラブルさんの言葉がマリアから発せられた。



「今のは?」


「わたし達は姿を変えなくても声は出せます。今のはミーシャさんの言葉です」



 これって、事情を知らない人が聞いたら変な人と思われるよな。1人で会話をする寂しい人として……。



「すみませんがミーシャさんも名前で呼んでほしいそうです。わたしからもお願いします」



 正直、少し年上の女性を愛称で呼ぶのは恥ずかしさを感じるので、出来ればトラブルさんのままで過ごしたかった。だがマリアにまで頼まれたのでやめるしかないだろう。

 それにしてもマリアは歳の割に落ち着いた話し方をするな。見た目が美人で大人の女性のミーシャさんが子供っぽい話し方で、見た目が子供のマリアが静観した話し方をする。

 お互いが逆なら丁度良いのにと思ったが、それは口に出せないよな。



「分かったよ。ミーシャさんとマリアとの関係を教えてほしい」


「ありがとうございます。わたし達の事を簡単に説明しますと、呪われていると言われていた土地に封印されていたミーシャさんが、わたしが浄化をした事で目覚めてわたしにとりついたのです」


「……………」


「……………」




 え? それで終わり? 本当に簡単に説明を終わらせたよ!?


 少し待ったがそれ以上の話をしそうにはないので、僕の方から質問をする事にする。



「えーと、ミーシャさんの肉体はどうなったの? やっぱり魔族の体ごと浄化しちゃって消滅したとか?」


「いえ、本来ミーシャさんは別の次元に封印されていたようなのですが、術式に綻びが生じ、その影響で土地に異変が起こったようです。わたしの浄化は封印の術式に更なる綻びをもたらしてしまったようで、その時に一番近くにいたわたしにフラッと術式ごと乗り移ったようですね。今では封印の術式も中途半端に残って、わたしと入れ替わる形で外に出れるようになった訳です。まあ、引っ込んでいる間も周りの声は聞こえますし、お互いに会話も出来ますからとくに困っていませんが」



 どうやらマリアは見た目通り神官のようで、浄化などが出来るようだ。それよりビックリしたのは、魔族にとりつかれたのに「とくに困っていない」の一言で済ませれる精神の方だった。


 ちなみに浄化とは邪霊などに効果がある攻撃で、癒しの魔法などと同じ光魔法の一種である。



「じゃあ、ミーシャさんは危険な魔族なの? マリアは大丈夫なの?」


「んー……どうでしょう。ミーシャさんは長年の封印期間のせいで記憶を失っていましたので、とくに悪事を働く訳ではありませんので大丈夫だと思いますよ」


「そ、そうか……なら質問の内容を変えるけど、何の目的があって僕を探していたの? 正確にはこの村に最近住み着いた人、だけど」



 2人の関係にはビックリしたけど、それより大事な事はどうして僕を探していたかだ。モンスターと戦うつもりはないが、理由だけでも聞いておきたいしね。



「それはわたしに神託が降りたからです」


「……………え!? それだけ?」


「ええ、この村に最近住み始めた真実を見抜く不思議な目を持つ者と行動を共にしろ、と少し前に神託が降りたのです。なのでわたし達はシンさんを仲間に加えないといけないんです」



 神託って神様からの言葉が聞こえたって事でしょ? うわー、胡散臭さ全開だな……


 僕はそんな理由でここまで来たマリア達に呆れていた。



「どうやらシンさんは神託を信じていないようですね」



 あれ、顔に出ていたかな?



「正直に言うと信じ切れていないよ。だって僕はそんなの聞いた事がないもの。それに魔族であるミーシャさんも信じていないんじゃないの?」


「え? わたしも一緒に聞いてたから疑ってないよ。それに今後の事を教えてくれるなんて、親切で良い人じゃん」


「そう言う事です」



 マジか!? 普通神様と魔族って敵対関係じゃないのかよ。魔族は人と合い寄れない関係だと聞いていたから、人が信じている神様とは仲が悪いと思っていたけど……この2人が変なのか判断がつかないな。

 それより問題なのは、僕と行動を共にする理由がまったく分からない事だ。いったい何を僕に求めているか、それが全然分からないとなると一緒にいて良いか判断がつかないよ。



「そう言う事なので、わたし達はシンさんと一緒に行動したいと思います。……良いでしょうか?」


「ちょっと待ってよ! それって絶対に何かに巻き込まれるよね? だいたいマリアは神官のようだし、同じ神官仲間と協力すればなんとかなるんじゃないの?」


「そう言えばちゃんと自己紹介をしていませんでしたね。わたしは・・アルフィア教会の神官、マリアです」


「元?」


「はい、除霊に失敗してミーシャさんにとりつかれてから、わたしから黒い魔力が流れ出始めたと言われました。ミーシャさんの事は口外出来ませんので土地の呪いに染まったと判断され、教会から追放されてしまいました。なので今はフリーで旅をしています」



 なるほど、マリアはミーシャを庇ってある程度の地位を持っていたのに追い出されたのか。魔族にも優しいマリアの事は信用できそうだ。



「ん? つまりマリア達も無職?」


「そうですね。そろそろ路銀も底を尽きそうです。なのでミーシャさんとの相談の結果、隣町で冒険者にでもなろうと思っていました。もちろん、シンさんも一緒が理想ですが……」


「いいじゃん、一緒に冒険者をやろうよ! シン君もお金が必要だし、生きる為には力も必要だよ」




 つまり僕も含めてみんな金欠状態って事か。でもレベル12の2人なら冒険者になっても大丈夫だけど、僕には絶対に無理だよ……。



「確かにお金は生きる為に必要だけど、僕にはモンスターと戦う事が出来ないから、冒険者になるのは無理だよ」


「それについては大丈夫です。冒険者の仕事はモンスターとの戦闘ばかりではありません」


「そうかもしれないけど、レベルはある程度上がってないと厳しいでしょ? つまりモンスターとの戦闘は避けれない……違うかい?」



 レベルは身体能力の向上をもたらす。つまり戦闘以外の仕事をしていても、その差が明確に出るのは簡単に想像できる。

 なので世間の平均ぐらいにはレベルを上げておかないと、まともな依頼など受ける事が出来ないのだ。



「ちょっとモンスターと戦うだけじゃん。わたしがシン君を守ってあげるから、命の危険はないよ」


「……経験値を得る為には、モンスターのトドメは僕がささないといけないんだよね?」


「そうですね。わたし達の場合はミーシャさんが倒してもわたしの経験値にもなりますが、シンさんの場合ですと貴方がトドメをさす必要があります」


「だよね。ならやっぱり僕には無理だ」


「なんでよー」



 その声を聞くだけで、不満そうにミーシャさんが頬を膨らませている姿を想像できる。



「ハー……この村の人は知ってるから教えるけど、僕は例えモンスターだとしても生き物の命を奪う行為が出来なんだ。いや、出来ないと言うのは間違いか。ちょっとした過去のトラウマのせいで、僕は生き物を殺すと意識を失っちゃうんだ。それどころか料理で肉を切るだけで足が震えて目眩を起こす」


「なるほど、それで森に出るのを嫌がっていたのですね。確かにモンスターを1匹倒しただけで気を失っていては、確実に死ぬのが目に見えていますね」



 正直に話した事で、マリアは僕が戦いをするのが無理だと分かってくれたようだ。



「それでもレベルは上げないと今後生き難いよ。ねえ、1匹倒したら目が覚めるまで守ってあげるから、少しでもレベルを上げよう。レベル1って子供と同じだから、隣町に着いても仕事はほとんど見つからないよ?」



 ミーシャさんも真剣に心配してくれているようだ。でもそれについては僕も理解している。理解した上で諦めて静かに暮らそうと考えたのだ。

 実際の所、モンスターにトドメを差す場面で僕がどうなるかは想像が出来ない。一方的に攻撃された事はあったが、その後は戦おうとも思った事がなかったからだ。



「ミーシャさんではありませんが、シンさんは一歩踏み出してみるのも良いかもしれませんね。もしかしたらそのトラウマも少しは改善いるかもしれませんし」


「そうそう! もう治ってて平気になってるかもしれないじゃん。そうと決まれば、明日は朝から特訓だー!」



 確かに最初に殺されそうになってから3か月。僕は一度も戦いの場には出ていないので、現在の症状のレベルは分からないのが本音だ。

 なら、身を守ってくれる人がいるうちに確認するのも良いかもしれない。


 でも言うべき事は言っておかないといけない。



「2人が協力してくれるって言うのは嬉しいけど、僕はまだ仲間になるって決めてないから。それを聞いてもまだ一緒に行くって言えるのかい?」


「わたしは神託に背くつもりはないので、仲間になっていただけなくても付き合います」


「えー、もう仲間みたいなもんじゃん。このまま冒険者になって仲間申請もしようよ」


「駄目ですよ、ミーシャさん。わたし達の都合に付き合わせてしまうのですから、シンさんの口から許可が出るまで我慢です」


「むー、マリアがそう言うなら仕方ないか。でも、わたしは諦めないからね!」



 どうやら2人の話し合いは終わったようだ。少々ミーシャさんは不満が残ってるが、おそらく2人に降りた神託の指し示す人は別人なので、早く僕ではない本当の目的の人を探してほしいと思っている。



「たぶん恰好悪い姿を見せてしまうと思うよ。だからどうしようもないと感じたら、僕を捨てて良いから。森に出る以上、死ぬ覚悟は出来ている」



 おそらく1人で森に行っても結果は同じ。レベル1でモンスターにトドメをさせない僕が生き残れる訳がない。だから半分諦めていた。



「大丈夫ですよ。例えそう思ったとしても、わたし達は責任もってシンさんを隣町まで連れていきます」


「最初は誰だって情けないものだって。そんなに心配しないでも、わたしがついてるから大丈夫!」



 ミーシャさんの自信は何処から来るんだろう。それとも魔族ってみんなポジティブな正確なのかな?


 まあ、ここまでしてもらうんだから仲間云々は置いておいても、受けた恩は返さないといけないよなー。

 でも金もない、力もない、人脈もない、そんな僕に何が出来る? あれ? 僕って相当駄目人間じゃないか? 不味いな……このまま冒険者になって仲間になったら、彼女たちばっかりに戦わせてお金を得るヒモ生活になるよな。


 少々今後の事を考えると、情けない自分の姿を想像してブルーになった。




「そう言う事で明日はシン君のレベル上げだ!」


「もう夜なので静かにしてください。ではシンさん。朝になったら迎えに来ますので、わたし達は部屋に戻ります」



 そう言ってマリア達は部屋を出て行った。


 結局、いつの間にかに一緒にレベル上げをする事に決まってしまった。今思い出しても何故こんな話の流れになったか分からないが、隣町まで生き残れる可能性が上がったと考えれば悪い話ではない。



「僕のトラウマが治っているかもしれない、か……たぶん、無理だろうなー。あの光景、あの感触を忘れる事なんて一生ないだろうし。……明日この世界で死んだら、魂だけでも向こうの世界に帰れるのかな。もし帰れたらもう一度ちゃんと謝るよ、カナデ……」



 僕は1人残った部屋で横になり、今はもう届かない人の事を思い出しながら眠りについた。


 


 





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