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2話 逃走の末、無職

 本日ラストです。

「大体何の用です? 僕は君が誰かも知らないし、探される理由もないよ」



 5分ほど休憩したので、とりあえず息だけは落ち着いた。でも立ち上がるのは無理。だって僕の貧弱な筋肉が張って、力を入れると痛みが走るんだもん。明日は確実に筋肉痛で立てないよ。



「そうだね、まずは自己紹介をしようか。わたしの名前は<エレノーラ>。君はシン君でいいよね」



 女性が<エレノーラ>と名乗るのを聞いて、僕は顔をしかめる。



「……やっぱり見えるんだ。わたしが偽名を名乗った事に反応したもの」


「な!? ……いったい何の事かな? 僕には君が何を言っているか意味が分からないよ」



 今まで笑顔だった女性の顔が、突然獲物を見付けたように鋭い目つきになる。僕はその視線に気圧されたのもあったが、偽名だと気付いた事に気付かれて驚いてしまった。

 それでも誤魔化そうと横を見て口笛を吹くが、傍から見てもわざとらしさを感じる。


 そう、僕は彼女が偽名を使った事に気付いた。っと言うか、彼女の名前はもう調べが終わっていたのだ。



《エルミーシャ(魔人族)   レベル 12》



 僕は意識を集中すると、その対象の名前とレベルが見える。店で見慣れない人が入って来た段階でチェックしていて、種族が魔人族って事を知って関わらないようにしようと決めたのだ。

 この特技は日本にいる時はなかったので、こっちに来てから魔法と共に気付いた。アメリアさんも店長もそんな力は持っていないようで、僕も秘密にしていたのだが……



「フフ、シン君って嘘が下手なんだね。そんなに顔や行動に出していたら、ちょっとカマを掛けられただけで情報が駄々漏れだよ」



 エルミーシャの鋭い目つきは収まり、また笑顔に戻って嬉しそうにしている。綺麗な笑顔だが、僕は特技を見破られたのと睨みつけられた視線が忘れられず、少しも笑う事が出来なかった。



「本当に何の用です? 魔人族が僕に用がある理由なんて、少しも想像できないよ?」



 僕が魔人族と言う単語を発した途端、今度はエルミーシャの方が驚いた。



「凄ーい。まさかわたしが魔人族だって事まで見抜くなんて。これは間違いなく当たりね。マリアの神託も馬鹿に出来ないわね。━━あっ!? でも人前でわたしが魔人族って事は口にしないでね。シン君を抱えて逃げ出すのって、結構大変そうだから」


「大変なら自分1人で逃げ出してくださいよ……。僕を巻き込まないで」


「そうはいかないよ。シン君はわたし達にとって必要な仲間になる予定だからね。攫ってでも連れていくよ」


「なんでそこまでして……。いいですか、これだけは言っておきます。僕は平穏が大好きなんだ。君みたいな人の仲間になったら、絶対に波乱万丈の人生が待っているのが目に見えている」



 何をさせるつもりか知らないが、トラブルには近づかない。それが長生きする秘訣だ。



「それじゃあまず、隣にある町に行こうか。そこで今後必要になる身分証明書代わりに、冒険者登録をしてもらうね」


「話を聞けーーーーー!!! なんで僕が着いて行くのが決まったような話になっているんです! 僕はモンスターがいる森なんかには出きませんよ」


「そんなにビクビクしないでも良いでしょ。この辺りの森は危険なモンスターなんてほとんどいないわよ。レベルだって7もあれば1人で戦えるよ」



 ああそうか。君はどうやって僕の事を知ったかは分からないが、レベルの事は知らないんだね。話も聞かない彼女だけど、自分から振ってきた話題になら聞く耳を持つだろう。

 そして戦力にならない事を知って帰ってもらおう。



「何をさせるつもりか知りませんが、僕のレベルは1です。だから諦めて1人で帰ってください」


「うそ!? その歳でまだレベル1? うーん、なら町に向かう前にシン君のレベルを上げからにしようか」



 レベルの事を知れば諦めてくれるかもしれない。そう考えた時もあった。だが彼女は少しも諦める事をせず、僕のレベル上げの協力をすると言いだしたのだ。

 だがそれはいらぬお節介。僕は命の奪い合いが怖いのだ。強者が後ろで守ってくれるからと言って、生きてる者の命を奪うのに抵抗を感じている。


 小説に出て来るような主人公は平気な顔をして戦うだろう。だが普通に考えて、いまどきの日本の学生が肉を食べたいからと言って鳥を殺す所から始められるか? 更にその後には毛を毟って解体しないのいけないんだぞ? きっと血も吹き出す。

 そんな事は少なくとも僕には出来ない。考えるだけで吐き気がするよ。



 更に相手が肉食のモンスターだなんて…………僕はNOと言える日本人でありたい。



「何度も言わせないでください。僕はモンスターと戦わない道を選ぶ。この村でも安全に生活もお金を貯める事は出来る。命を賭ける理由はありません」



 僕はハッキリと伝えてやらないと引かないと感じ、少し照れるが彼女の目を見て意思表明をする。



「もしかしてさっきの食堂での仕事の事?」


「ああそうです。僕はあそこで住み込みの仕事をしています。給料は安いが、あと数年もすれば大きな町へ行くお金も貯まる。そうすればもっと安全で割の良い仕事に着く事も出来るはずだ」



 僕の異世界での人生設計。まさか高校一年で将来の進路を決めるとは思わなかったよ。

 は~、向こうでは適当な大学に行って、それから仕事を探す予定だったのにな……。



「そっか。ならやっぱり問題ないね」



 こんだけ説得しているのに、彼女の笑顔は壊れない。それどころかますます輝きを増したような気がする。



「な、何が問題ないって言うんですか?」


「だってさっきシン君が厨房を通って逃げる時に、奥で叫び声が聞こえたよ。なんか貴重なお酒がーって言った後、お前はもうクビだーーーってね」


「うそ?」


「わたしが嘘を言う理由なんてないんじゃないかな。どっちにしろ住みこんでいるなら荷物を取りに行くんでしょ? ならその時にでも確認すれば済む事じゃん」



 ああ、確かに逃げる時に何かを引っかけた気がする。割れたような音も聞こえたような気がする。店長が慌てたような声を出しているような気もする。


 あの時の様子を思い出してみると、彼女が言っている事は全て真実だと語っていた。僕の顔色は一気に青くなる。

 だってこんな小さい村で住み込みで安全な仕事なんて他にあるわけがないよ。


 僕は一気に住所不定の無職へと変わり果てた。



「ああそうか……僕の直感は正確だったんだなー」



 あの時の感性は正しかった。だた想定外だったのは、出会っただけでトラブルに巻き込まれる。その早さだった。


 もう彼女の名前はトラブルさんで決定だ。



「ちょっと! 勝手に逃げ出したんだからわたしに責任はないでしょ。クビは自業自得よ」



 確かに確認もしないで逃げ出したので、その途中での出来事に関してはトラブルさんに責任はないだろう。だが結局の内容的に、トラブルの種であった事には間違いがないのだから、誰かのせいにしないとやっていられない。


 僕はひとまず店に戻る事にする。足取りは重く、今後の事を考えると絶望しか見えないが、それでも確認だけはしておかないと先に進めない。



「あれ? どこに行くの? 仲間を置いて1人で行かないでよ」



 トラブルさんは勝手に僕を仲間呼ばわりし、フラフラと歩き出した後ろに付いてくる。さっきまでなら反論していただろうが、今の僕にはその余裕がない。

 だってこの世界に来て3か月経ってるけど、この仕事を失ったらもうモンスターに関わる仕事しかないんだよ? 戦う道も怖いし、かと言って働かないと食べる事が出来ないで死んじゃう。


 もう八方塞がりなんだよ……。





 そんな重い足取りのまま働きなれた食堂兼酒場に到着すると、アメリアさんに呼ばれた店長が飛びだして来て……



「シン。お前はもうクビだ。ミスで酒瓶を割るのは仕方がない。だが、意味の分からない挙動不審な態度で店に不利益な行動を起こす奴を、いつまでも働かせておく訳にはいかない。弁償しろとまでは言わないが、すぐにでも荷物をまとめて出ていけ」



 僕はトラブルさんが言っていた事が本当の事だと実感した。そしてこれが夢ならどんなに良いかとも考えた。それでも少しは弁解しておこう。



「店長、実はあの時急に腹が痛くなりまして……その、急いでいたもので……」


「お前はそんな嘘が通じるとでも思っているのか? ハッキリ言ってやろう。身分を証明する物が何もないお前だが、働きに関しては真剣でまじめだったから続けさせてやった。だがな、そこのお嬢ちゃんみたいに女の1人旅までして追いかけて来るような男を信用出来る訳がないだろ」


「でも彼女との面識はありません!」



 店長は僕が女性関係をこじらせて逃げてきた卑怯者と思っているのだろう。なのでこの誤解を解けば、復職も可能かもしれない。



「……お嬢ちゃん、あんたはシンについてどう思っているんだ?」


「お嬢ちゃんってわたしの事? うーん、シン君はわたし達に絶対に必要な人かな。パートナーってやつ?」



 おいおいトラブルさん? その説明では誤解が誤解ではすまない内容と捉えかねますよ? ああ、店長の顔が怒りの表情に変わっていくよ……こりゃ説得は無理だな。



「店長……いきなり出ていけは酷いんじゃないですか? シン君にも何か理由があるかも知れないし、ここを追い出されたら働く所がありませんよ」



 ここでアメリアさんが庇ってくれた!? もしかしたら判決が覆る? そんな淡い期待をした瞬間もありましたね……。



「あ、それなら大丈夫。シン君はわたしと一緒に隣の町で冒険者になるし、わたしが守ってあげるから安全だよ」



 敵は僕の後ろにいた。トラブルさんは決まった事のように僕の将来を語りだした。当然僕は認めていない。



「うわー……たしかシン君ってレベル1でしょ? 完全にヒモ生活を送るつもりなんだ。最低……」



 あっさりアメリアさんの説得は終了してしまう。味方だったはずなのに、完全に世話をしてもらうヒモ男として見られているよ。今では軽蔑の眼差しが突き刺さってくる。

 僕は絶望から膝を地に着けてガックリと落ち込んでしまう。


 この世界……異世界人の僕には厳しいよ…………




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