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1話 出会い、そして逃走

 とりあえず今日は3話投稿するつもりです。

 僕の仕事は<フェスト村>のこの食堂兼酒場での下働きです。レストランでのバイト経験がある僕にとって割と慣れた作業なので、即戦力として少しは信用されている。……はず、たぶんだけど



(せめて水道でもあれば、皿洗いも楽になるのにな)


「またシン君の妄想? だいたい日本って国だったっけ? わたしも全ての国の名前を覚えている訳じゃないけど、日本なんて聞いた事もないわよ」


「あれ? また声に出ていましたか」



 隣で一緒に皿洗いをしているアメリアさんに、無意識に口から出た愚痴を聞かれてしまったようだ。それより日本を知らないなんて、アメリアさんはもう少しニュースを見て世界の国名を覚えた方が良いですよ。

 

 まあ、普通はそう思うでしょうし、僕も最初は笑いながら言ってあげましたよ。



 ……もちろんその後にボコボコにされましたけど。アメリアさんってけっこう……いや、かなり手が出るのが早いんです。



 でもその時始めて知りました。実はここは異世界……科学が発展した日本ではない別の世界。科学の代わりに魔法が発展していて、肉食のモンスターがウロウロして常に命の危険がある世界。



「まさかこんな目に会うなんて、少し前の僕は想像もしてなかったな」


「なに? 3か月前に死にかけた事? だいたいレベル1で武器も持たずに森に行くなんて、自殺希望と思われても仕方がないわよ」



 いえ、その事ではないんです。いや、確かに死にかけたんだからそれも想像してなかったけど、僕が言いたかったのは異世界に来ちゃった事です。

 だって気がついたら異世界にいるなんて、誰が想像できます? なんの前触れもなくいきなりですよ? 急に見知らぬ森に立っていたら最初は病気を……若年性の痴呆症か夢遊病を疑いますよ。


 転移した場所も最初に出会った生き物も最悪だった。この世界ではモンスターと呼ばれる存在で狼のような奴だったが、落ちていた木の枝1つで対抗出来る訳がない。

 僕が負った怪我は、この目では見れなかったが回復魔法で怪我を治してくれたらしい。冒険者の中に回復魔法の使い手がいるなんて相当運が良いと言われたが、運が良かったらモンスターに襲われないだろうし、そもそも異世界なんかに来る事もなかったはずです。


 うん。間違いなく僕は運が悪い。きっとトラブルに巻き込まれやすい体質なんだろうな。だからこそ、危険な森になんてもう1人では行かないぞ!

 僕はこの村でお金を貯めて、冒険者に護衛してもらってここより安全で大きな町に行く! そこで平穏な残りの人生を送ってやるんだ!


 え!? 元の世界に帰りたくないのかだって? もしかしてその方法を探す旅に出ないのかって事? ハハ、そんな小説の主人公みたいな事が出来る訳ないじゃないですか。確かに僕もこの3か月で自分が魔法を使える事を知りましたよ。


 魔法が使える事自体は面白く、今でも夢中になって練習を重ねています。そりゃあ、本当に魔法が使えるようになったら、誰だって本気になるでしょ? 


 最初は魔力が少なくてすぐにバテていたけど、レベルの恩恵がなくても繰り返し魔法を使い続けてる内に鍛えれたようだ。筋トレをすれば力がつくのと同じだったよ。

 ただ、僕の魔法の属性は一般的な属性とは違うようなので基本以外はほぼ独学だったが、それでもいろいろな魔法を使えるようになった。ほぼ自衛のための守りの魔法ばっかりですがね。


 誰にも言っていませんが、名乗る時が来た時の為に練習しています。



 我が名はシン! 時の流れを操りし者、時空魔導士のシンとは我の事だ!



 ……はい、自室で1人盛り上がっていた時は叫ぶ事が出来たけど、冷静になって考えると凄く恥ずかしい事を言ってるよね。誰だよ、我って……


 そこまでしておきながら何だけど、僕は命懸けの冒険なんかに出る勇気はないんです。トラブルだって森に行かなければ起こりようがないでしょ。


 僕は皿を洗いながら心の中で宣言します。


 厄介事には近づかない! 絶対に平平凡凡に暮らしていく!


 綺麗になった皿を見て、小さな目標を心に誓った。









「さて、今日も元気に働きますか」



 住み込みで働かせてもらっている僕の最初の仕事は、店の中の掃除だ。もちろん掃除機などの電化製品はないので箒と雑巾がけが基本だ。

 最初はきつかったけど、3か月も繰り返したのでもう慣れた。


 店のオープンはだいたい11時頃。この世界には時計がないのでみんなは太陽の傾きで行動しているが、僕はスマホを持っているので時間が分かる。ソーラー充電器も持っていたのでバッテリー切れの心配もない。

 もちろん通話も通信も出来ないから、今のところ時計代わりにしかなっていないけどね。



 この村はそこまで大きくないのだが、オープンするとこの店は結構忙しい。僕のイメージでは、小さい村ほどお弁当を持って仕事をすると思っていたのだが、ここは大きな町と町との中間に位置するので旅人や商人などが利用し、それにつられて村人も良く来ている。


 そんなピークを過ぎてお客さんが減った時、招かざる客、トラブル臭がプンプン匂う人がやって来た。そして注文を聞きに来た僕は話しかけられる。



「ねえ、ちょっといい? この村に少し前から住みついている人がいると思うんだけど、誰か心当たりはないかな?」



 情報を集めるならまずは酒場から。確かに王道なんだけど、いきなりビンゴするなんて事はまずないよ。

 だってちょっと前に住みついているって、絶対に僕の事だよ。他にこの村に住みついた人の話なんて聞いた事がないし。


 さて、見た目は僕より少し年上かな? たぶん20歳にはいっていないだろう。綺麗な金髪を後ろで纏めており、青い瞳で笑顔が可愛く、そのせいで少し幼く見えるが間違いなく美人だ。そして胸も大きい!


 そんな美人に声を掛けられれば普通は浮かれて喜んでしまうだろう。事実、店にいる他のお客さんの視線を一点に集めて釘づけにしている。

 お! 夫婦で来ている男の方がつねられているぞ。駄目だよ、奥さんがいるのに他の美人に見とれていちゃ。


 だがそんな周りを他所に、僕は浮かれる気持ちが溢れて来ない。だって……腰に帯剣しているんだもん。それに僕の目にはヤバそうな情報も見えちゃってるし、だいたいこんな美人が用事なんて第六感的何かがなくても嫌な予感をヒシヒシと感じるよ。


 この女性に関わると僕の平穏な生活が壊される。


 僕は迷わずとぼける事にした。



「すみません、僕は最近この村に住みついた人の・・を見た事はありません」


「そっか。ここで働いてる人が知らないんじゃ、ちょっと探すのに苦労するかもしれないな~」



 女性は凛々しい大人の姿をしてる割に、テーブルに額を当てて大袈裟にガッカリしだした。おっさんがそんな態度をすれば鬱陶しいと感じるだけだろうが、美人だと可愛く見えてしまうから得だよな。


 うん。少し可哀想な気もするが、見なかった事にしよう。

 それに僕は嘘は付いていないよ。だって自分の顔を見えるような鏡なんて、この村にはないもの。

 いったい何の用かは気になるけど、聞くと後悔するような事には近づきません。



 注文を聞き終わり、この場から離れていく。


 逃げ切った。僕はそう思って安堵し、ホッと息を吐く。



「ねえ、そっちの店員さんは知らないかな。この村に最近住みついた人の情報」


「ああ、それなら━━」



 僕は答えが出る前に駆け出した。


 女性はすぐにアメリアさんにも質問したのだ。アメリアさんの顔が僕の方に振り向く前に逃げ出した。


 厨房を通り抜け、途中で何かに引っ掛かっても気にしないで走り続ける。店長が何事かと驚いていたが、僕は裏口から勢い良く出て走り去る。伊達にこの村に3か月も住んでいない。モンスターが攻めて来ても逃げ出せるように、逃走ルートは複数研究済みだ。

 空、地上、地中。それぞれの襲って来たモンスターに合わせて練り上げられたルート。今回は地上のモンスターを想定して用意した道を使う。




「ハァハァ、いったい何なんだよ。この世界では僕の知り合いなんていないはずなのに、何で僕を探しにくる人がいるんだよ。…………まあ、こんな状況じゃなかったら、美人に声を掛けられて喜んでいるだろうけどなー」


「あら? 美人ってわたしの事? 褒めてくれてありがと、シ・ン・く・ん」


「ギャー!? 出たー!!!」



 僕の隣には先程の女性が笑顔でいた。疲れきっている僕と違って女性は息1つ切らせていない。明らかにレベルの差を感じさせられる。


 追い付かれた? だが僕は諦めない。すぐさま第二プランに移る。


 背にもたれていた家の角を曲がり、視界から消えるようなルートを選んで走り続ける。体力の限界まで走り続けたおかげもあり、後ろを振り返っても誰も追いかけてこない。


 よし! 今度こそ逃げ切った。



「ねえ、いつまで追い駆けっこするの?」



 だが腰を降ろした瞬間、女性は建物の上から降りてきた。腰を浮かす程驚いたが、それ以上の行動に出る事は出来なかった。

 いくら建物の壁を利用しても、上から見られたら意味がないよね。

 僕は自分の逃走ルートの欠点を見つけた。



「ハァハァハァ、いったい、何の用だよ。ハァハァ」



 貧弱な僕はもう逃げる体力がない。逃げ出すプランもこれ以上用意していない。だってこれ以上走れるだけの体力が残っていない計算だったんだよ。そしてまさに体力が尽きてるんだよ。


 僕は諦めて追いかけてきた理由を聞く事にする。



「その前に、なんで嘘をついてまで逃げだしたの? わたし、シン君に何もしていないよね?」


「き、君からは、トラブルの、気配を感じた。ハァハァ、だから逃げた」


「あー、ちょっと辛そうだから息が整うまで待ってあげるよ。だからもう逃げないでね」



 僕が肩で息をしているので話し難いのか、女性は隣に座って休憩する時間をくれた。




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