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プロローグ

 今回も見切り発車です。きっと話が噛み合わない所が出て来るでしょうが、生温かく見守ってください。

 時の流れは残酷だ。どんなに強い怒りも……どんなに深い悲しみも……すべて風化していくのを感じる。それは悲しい事でもあるが、救われたのも事実だ。


 時の力は残酷で優しい……。



 もし巻き戻せるなら…やり直せるなら…そう何度も思い、夢にまで見るが叶うはずのない妄想。だがそんな甘い夢にいつまでも縋り続けるわけにはいかない。




 僕は生きる!




 最後まで生きて天命をまっとうする!




 それが託された最後の願いであり、残された者の責務だと信じて━━








 そう心に決めてから数年後、気がついたら見知らぬ森の中にいた。

 いつものように高校に行こうと玄関をくぐった筈だった。なのに突然深い森の中で1人立っており、慌てて後ろに振り返っても扉はなく森が続いている。



 そしてそこにはいつもの日常の代わりに……一匹の獣がいた。



 目の前には牙をむき出しにしている狼。明らかに僕を餌として見ており、低い唸り声と涎を垂らして襲いかかって来た。その恐怖から足元に落ちていた木の枝を掴んで向ける。



「何が起こったんだ? 何で突然こんな状況に晒されるんだ?」



 混乱する思考と恐怖で震えている体は、当然のようにまともに動いてくれるわけはない。僕は木の枝を振り回すだけでなので、狼にとっては鬱陶しい程度にしか思っていないのだろう。

 次々とつけられる傷から流れる血に、僕の意識は朦朧としだす。


「死にたくない! 僕はまだ死ぬわけにはいかないんだ!」


 命懸けの抵抗を続けたが、周囲はまるで雨が降った後のように僕の血で染めている。

 逃げようともしたが獣の足に勝てるはずもなく、簡単に追いつかれて背中も爪で抉られてしまった。


 勝てない、追い払えない、逃げられない……必死にもがきながらも自分の近い未来を安易に想像できるぐらい、僕は追い込まれていた。




 いったいどれだけの時間、抵抗出来たのだろう。とてつもなく長い時間を戦った気もするし、実は数分だったのかもしれない。パニックと緊張が同時に襲って来た精神状態では、とてもじゃないが冷静に時間を感じる事など出来るはずもなかった。


 僕は涙を流しながら必死に抗い続けていたが、体から痛みの感覚がスッと遠ざかると、足から力が抜けて意識を失った……………











 あれから3か月。


 実はなんとか生き残ることができ、今では日課となっている井戸からの水汲みをしています。


 あの時、意識を失った僕を助けてくれたのは、誰かの護衛の仕事をしていた冒険者だったらしいです。その護衛対象が回復魔法を使えたらしく、僕の怪我を治療してくれてこの村まで運んで来てくれた。その一行はすぐに旅だってしまったらしい。


 もちろん僕は意識を失っていたので、その時の記憶はまったくないですがね。


 意識を取り戻してから村人に説明を受け、その見ず知らずの人に感謝もしたが、それ以上に驚いたのはここは魔法が当たり前のように存在する地球とは違う異世界だった事です。



「ちょっと《シン》くん。まだ水汲みに時間が掛かってるの? だいぶ皿が溜まってきてるから急いでね」

 

「あ、すみません。もうすぐ終わります」



 今呼ばれたのが僕。鳥野(トリノ) (シン)、16歳の高校生。今は運ばれて来た村で、住み込みの仕事をしています。

 ちなみにこんな状況なので、浮わついた話などありません。ですから彼女募集中です! 彼女募集中なんです! 大事な事なので2度言っておきます。

 異世界に1人で生きるのは心細く、支えてあってくれるパートナーが欲しいんです……



「まったく、今の時間は忙しいんだからテキパキ働いてよね。さもないと追い出しちゃうんだから」


「それだけは勘弁してください」


「ならすぐに皿を洗う!」



 先程僕と話をしていたのは、この食堂で働いている先輩アメリアさん26歳。店長の一人娘で男勝りの人である。

 実は最近少々婚期を逃したと焦りを感じている……僕から見ればおば━━。



「シン君~、何を考えているのかな~。お・姉・さ・ん、どこかの誰かさんを血祭りにしたい気分になっちゃったんだけど」


「い、いやだな~、別に何も変な事を考えていませんよ……ハ、ハハハ」



 アメリアさんは拳を握り、笑っていない目で笑顔を輝かせて怖い事を言いだす。僕は目を逸らして乾いた笑いで誤魔化す。

 だって、本気で殺される可能性があるんですもの……。

 

 え? 大袈裟だって? まあ、いくら僕が格闘技の経験がゼロで歳の差があったとても、仮にも男子が食堂で働いてる女性に力で負けるはずがない! 確かにそう思っていた時期もありました。

 でも事実は違った。この世界にはレベルと言う神の恩恵があり、1つ上がる事に身体能力が一気に上がる。もちろん成長度は個人差があるけれど、レベルの差が実力の差と言ってもあながち間違いではないんです。


 アメリアさんのレベルは7。けっして高い方ではなく、一般女性のレベルが5ぐらいなので平均的な範囲とも言えた。


 そんな平均的なレベルの女性に勝てる気がしない僕のレベルは……実はまだ1なんです。この事は周囲にもバレているので、僕の立場ってかなり低いんだよね。なにしろ幼子と同じ、10歳ぐらいの子でもレベル2にはなっているので、いかに僕が弱いか理解してもらえるだろう。

 だぶんそんな子供と戦っても負けるんだろうね。


 え? ならレベルを上げれば良いじゃないかって? この3ヶ月何をしてたんだって?


 ハハ、レベルを上げる為に一番手っ取り早いのは、村の外に出て徘徊しているモンスターを倒せばいいんだよ。

 現に村中の子供達は、一定の年齢になると親と共にモンスターと戦って経験値を稼ぎ、1人で戦えるレベルになるまで鍛えてるんだ。


 僕? そんな人がいればレベル1の訳がないじゃないか。異世界に来た僕に仲間はいないし、元々両親は他界していない。それに、どっちにしても僕はまともに戦う事なんて出来ないんだよ。ちょっとトラウマがあるからね。


 だいたい1人でモンスターと出会った時に死にかけたんだよ。マジでもう戦うのは御免だよ。だって怖いし死にたくないもん。


 それにね。モンスターと言っても見た目は生き物。普通の現代人は刃物を持って生きたまま切り裂くなんて、まともに出来る訳がないでしょ? だって血が噴き出すし、肉が見えるんですよ?


 あ、駄目だ。思い出しただけで気持ちが悪くなってきた。



「シン君~本当に追い出されたいの」


「すみません! すぐに行きます!」



 僕は戦わないで済む道を選んだ。この食堂兼酒場で住み込みで働いていれば村の外に行く事はないので、例え腰抜けと言われ馬鹿にされたとしても安心できる。

 何事も命あっての人生だ。


 NO、危険! YES、平穏!


 僕はこのセーフティーゾーンを守るために、皿洗いに勤しむ。





 そんな僕にトラブルの方から近寄って来るとは、またもや想像もしなかった……。



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